独特な外観と、数々の逸話から日本でも一部のファンから熱狂的な支持を受けるA-10「サンダーボルトII」攻撃機ですが、アメリカ空軍から間もなく姿を消しそうです。このたび、その嚆矢となる1機目が退役しました。
アリゾナの基地でA-10攻撃機のリストラ始まる
アメリカ中西部アリゾナ州にあるデイビス・モンサン空軍基地で2024年2月6日、A-10C「サンダーボルトII」攻撃機の82-648号機が退役しました。この機体は、これに伴い基地に隣接して設けられている退役軍用機保管施設、通称「ボーンヤード」に移されています。
同空軍基地には2つのA-10飛行隊が配置されているほか、その訓練・支援部隊を擁することから同機の一大拠点となっています。そのA-10部隊を統括する第355航空団のスコット・ミルズ司令は「現時点では、2024年の夏から秋にかけて1つの飛行隊を整理する予定です」と述べています。
実際、アメリカ空軍ではA-10攻撃機の完全退役を2030年頃としており、この82-648号機の退役はその嚆矢となる出来事だといえるでしょう。
アリゾナ州のデイビス・モンサン空軍基地から自走で保管施設「ボーンヤード」に向かうA-10C「サンダーボルトII」の 82-648号機(画像:アメリカ空軍)。
同基地のA-10退役によって余剰となったパイロットと整備員たちは、今後は新しいF-35A「ライトニングII」の運用に関わっていくそうです。
A-10攻撃機は、その個性的な外見や数々の逸話から日本国内でも非常に人気のある機体です。日本においては、コアな軍用機ファンだけでなく、ゲームや映画などを通じて一般の人々にも知られた存在かもしれません。通常の戦闘機よりも大口径な30mm機関砲を装備し、主翼下の11か所のパイロンにはさまざまな爆弾、ロケット、ミサイルが搭載可能です。
なぜ退役? カッコよくても現代戦には不向きに
しかし、そんな勇ましいイメージとは裏腹に、実際のA-10は飛行速度や機動性が他の戦闘機と比較して低く、自分の生存性を高めるアビオニクスも充分に装備されていません。
単独で敵戦闘機に対抗するのは難しく、驚異となる地対空ミサイルなどの対空兵器に対しても脆弱で、現代の航空戦においてその能力にも疑問符が持たれています。
アメリカ空軍としては、時代遅れになりつつあるA-10よりも、今後の新しい戦場で有効に使える装備品を拡充する意向であり、A-10退役によって浮いた予算や人員は、新しいF-35A「ライトニングII」戦闘機の配備や、他の現代戦に対応できる新装備に振り向けられます。
保管施設「ボーンヤード」に向かう退役したA-10C「サンダーボルトII」の82-648号機。今後も退役するデイビス・モンサン空軍基地のA-10は、同じように隣接された保管施設で保管されるという(画像:アメリカ空軍)。
A-10削減の動きは別の基地でもすでに始まっており、同機を運用するジョージア州ムーディーズ空軍基地や、アイダホ州にあるゴーウェンフィールド州空軍基地では、A-10と入れ替わりでそれぞれF-35戦闘機とF-16戦闘機を配備する予定だそうです。
今回退役が始まったデイビス・モンサン空軍基地も、A-10飛行隊の代わりに、既存の救難部隊の拡充や、空軍特殊作戦群航空機部隊の新規配備が計画されています。
A-10の退役については、これまでも度々議論の対象となっていましたが、航空支援任務の重要性から軍内部に強い反対派がおり、また飛行隊が所属する基地の地元議員などもそれを後押ししていました。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻などにより、大国同士での軍事的な脅威が高まったことで、アメリカ軍も戦力の改革と更新を率先して進めており、A-10の退役はその一環として比較的早く行われることになったといえるでしょう。
あの特徴的な外見と、対地攻撃に全振りした、いうなれば一芸に秀でた形でファンの多かったA-10攻撃機も、いよいよその現役生活にピリオドを打つ日が間近に迫っているようです。