「検証に天文学的な時間がかかる」試行錯誤型の実験手法を
現代の旅客機には、アルミ合金に加え、一部の最新鋭機を中心に「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」が使用されています。ただし現在でも、とくに高い性能が求められる部分には、金属材料が欠かせません。その代表例が、ジェットエンジン内部の燃焼室など、常に高温にさらされる重要部位である「ホットセクション」です。
ジェットスター・ジャパンのエアバスA320。V2500エンジンを搭載している(乗りものニュース編集部撮影)。
旅客機向けジェットエンジンの製造には、日本企業も深く関わっています。例えば、世界で最も多く生産されている旅客機であるエアバス「A320ファミリー」の一部に搭載されている国際共同開発エンジン「V2500」では、川崎重工業やIHIといった日本企業が製造を分担しています。ただし、燃焼室や高圧タービンといったホットセクションについては、これまでプラット・アンド・ホイットニーやロールス・ロイスといった海外の大手エンジンメーカーが主に担当してきました。
こうした状況のなか、国内では「ホットセクションにも使用できる金属材料を日本で生み出す」ことを目的とした研究が進められています。この取り組みを主導しているのが、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)です。
このプロジェクトでは、ホットセクション向けに、軽量で高い強度を持ち、かつ極めて優れた耐熱性を備えた合金の開発を目指しています。NEDOによると、合金の特性は金属元素の組み合わせと製造プロセス条件によって決まりますが、その組み合わせは膨大な数に及びます。そのため、従来の試行錯誤型の実験手法では、検証に天文学的な時間がかかってしまうといいます。
そこで同機構では、合金探索に必要な質の高いデータを大量かつ高速に収集し、AI(人工知能)などを活用した「マテリアルズ・インフォマティクス」の手法によって、目的とする特性を持つ合金の探索時間を大幅に短縮する技術の開発を進めています。これにより、航空機エンジンへの実用化の可能性を探っているとのことです。
2025年11月に開催された「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま2025」では、NEDOのブースにおいて次のような説明が行われていました。
「ホットセクションは摂氏1500度から1600度といった非常に高温になるため、チタンでは耐えられません。タングステンや、さまざまな元素を添加したニッケル基合金であれば耐えられますが、いずれも非常に高価です。これを、いかに低コストで高性能な材料に置き換えるかが、この研究の大きな課題です」
「ホットセクション向け金属」だけに留まらない“その先”
さらにNEDOのブースでは、この研究と航空業界が直面している二酸化炭素(CO2)排出量削減との関係についても説明がありました。
ふくしま航空フェスタ2025に展示されていた「V2500」エンジン(乗りものニュース編集部撮影)。
「航空機はCO2排出量が多い分野です。そのため、エンジン性能を10%向上させるだけでも、数千トン規模のCO2削減につながります。自動車の性能向上と比べても、その効果は非常に大きいといえます。エンジン効率を高めるには燃焼温度を上げる必要がありますが、現状ではタービンなどの部品がその高温に耐えられません。つまり、材料の耐熱性がボトルネックになっているのです。もし新しい材料によってその限界を突破できれば、エンジン性能は大きく向上し、CO2削減にも大きく貢献できます」(担当者)
この取り組みは、エンジン部品にとどまらず、航空機そのものの構造材料にも革新をもたらす可能性があるといいます。
「応用分野は航空機エンジンに限られません。さまざまな部材に応用できますし、金属だけでなくセラミックなどにも同様の手法を適用できます。将来的には、現在の新鋭旅客機の胴体で主流となっているCFRPを上回る性能を持つ材料を開発できる可能性もあります」
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日本発のこの新たな航空機向け材料開発手法が、将来の航空産業の姿を大きく変えることになるかもしれません。
