鉄道車両のなかには、大改造されて見違えるほど“変身”したものがあります。「技術の京阪」といわれる京阪電鉄が、一般的な平屋建ての車両を2階建てに改造した、初代3000系のダブルデッカー車両もそのひとつです。
特別料金不要の2階建て 京阪初代3000系ダブルデッカー車両
全国各地を走る私鉄の車両のうち、改造で大きく姿を変えたものを紹介します。
「ダブルデッカー」とも呼ばれる2階建て車両は、いまも昔も人気の鉄道車両です。日本では、近鉄の特急車両「ビスタカー」やJR東日本の2階建てグリーン車が有名ですが、これらに乗るには特急料金やグリーン料金など、運賃以外の料金が必要となります。
京阪電鉄初代3000系電車。前から4両目にダブルデッカーが見える(伊原 薫撮影)。
これに対し、京阪の特急車両に連結された2階建て車両は、特別料金が不要です。JRや阪急と競合する京阪は、より多くの座席が確保でき眺めも良い2階建て車両を連結することで、特急の魅力アップを図ろうとしました。そこで1995(平成7)年、当時1編成が残っていた初代3000系電車にダブルデッカーを導入したのです。
富山地鉄に渡った京阪のダブルデッカー車両
この京阪3000系ダブルデッカー車両の特筆すべき点は、既存の平屋建て車両を、自社の車両工場でダブルデッカーに改造したことです。
台車より車両中央側部分の側板や屋根をすべて撤去し、台枠にバスタブのような構造の1階部分を接合。続いて新たな側板や屋根を組み上げました。2階建て車両を改造で新たに造るというのは過去に例がなく、またこれほど大掛かりな改造工事は車両メーカーで行うことが多いのです。しかし、鉄道ファンのあいだで「技術の京阪」といわれているほどの高い技術力と車両メーカーの協力で、自社改造を成し遂げたのです。
JR東日本の在来線のグリーン車。乗車には運賃のほか、グリーン料金が必要(画像:PAKUTASO)。
こうして生まれた京阪3000系ダブルデッカーは、デビューと同時に絶大な人気を集めました。ダブルデッカーに乗るために特急を何本も見送る乗客が続出したことから、京阪は3年後の1998(平成10)年に、すべての特急車両へダブルデッカーを連結し、現在も好評を博しています。
一方、京阪3000系のダブルデッカーは2013(平成25)年に廃車されたあと、富山県の富山地方鉄道に譲渡されました。現在も、北陸3県で唯一の2階建て車両として走っており、特に子どもたちに喜ばれています。