「男がほれる男」というタイプの役者がいます。吉田鋼太郎さんがその一人です。
映画化もされたドラマ「おっさんずラブ」シリーズ(テレビ朝日系)では、まさにBL(ボーイズラブ)の世界を演じて、大注目されることに。いえ、そういう「ラブ」ではなく「リスペクト」という形でほれられることが多いのです。
テレビ的でない、濃い個性で圧倒
例えば、小栗旬さん。元々、舞台中心に活躍してきた吉田さんをドラマや映画の世界に引きずりこんだのは、彼の一言でした。
「小さい声でいいんです。ぼそぼそしゃべるということも、やってみた方がいい」
常に大声で演技をする舞台と違って、ドラマや映画でしかできない表現もあるのだからと、本格的な挑戦を勧めたといいます。当時20代の若手が、既に50代だったベテランにそんなアドバイスができたのは、2人が実力を認め合う関係、すなわち、ほれ合っていたからでした。
小栗さんは、吉田さんを「二回りも違う大先輩なのに、同じ目線でけんかさせてくれるすてきな人」だと評しています。
そんな2人が出会ったのは、今は亡き演出家・蜷川幸雄さんの舞台です。実は蜷川さんと吉田さんも年齢差を超えて「ほれ合う」仲でした。長年、演出家と役者としてタッグを組み、蜷川さんが務めていた「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の芸術監督を2017年から引き継いでもいます。
吉田さんがドラマや映画にどんどん進出し始めたのは、蜷川さんが病に倒れ、やがて亡くなる時期と重なります。盟友を失ったことも、転機につながったのでしょう。
ではなぜ、彼はドラマや映画でも大成功できたのか。それはある意味「遅咲きの新人」だったからです。特にドラマの視聴者にとって、彼の出現は新鮮なショックでした。舞台で身に付けた実力とオーラ、そして何より、重厚さとセクシーさを併せ持つ個性は、若手はもとより、同世代の俳優にもなかなか見られません。
というのも、テレビは軽さや爽やかさが好まれる世界です。それ故、ドラマを若い頃からやっていると、重厚さやセクシーさは薄まる傾向があります。しかし、吉田さんはいきなりやってきて、そのテレビ的ではない濃い個性で圧倒しました。
そういえば、彼をリスペクトする溝端淳平さんは、その「別格」ぶりを「野球でいえば、イチローみたい」と表現しています。イチロー選手もまた、日本で身に付けた実力とオーラ、そして個性を米国で見せつけ、こんなスタイルの野球があったのかという、新鮮なショックをもたらしました。
吉田さんも、NHK連続テレビ小説「花子とアン」で“九州の石炭王”こと嘉納伝助を演じた際、こんな魅力の役者がいたのかという驚きで迎えられたものです。
当時「あさイチ」のMCだった有働由美子さんは、いわゆる“朝ドラ受け”で「嘉納ちゃんと結婚したい」などと、もえまくっていました。世代的にも、吉田さんが醸し出す、いわば昭和の役者っぽいテイストに引かれるところが大だったのでしょう。
ちなみに、吉田さんは黒柳徹子さんの人生を描いたドラマ「トットてれび」(NHK総合)で、昭和テイストの代表的役者というべき森繁久彌さんを演じました。
ただ「花子とアン」「トットてれび」のような時代を描いた作品にハマるのは分かります。彼がさらに、平成、令和的な感覚で見ても魅力的な役者なのはやはり、あの「おっさんずラブ」のような作品もこなせるからです。例えば、高倉健さんがこういう役を演じるのは想像できません。そこがかつての「男がほれる男」タイプとは異なる、新しさなのです。
硬派なだけではない、おちゃめさと浮気っぽさ
では、高倉さんと吉田さんの違いがどこにあるかといえば――。前者が「不器用」「いちず」といったキーワードで語られるのに対し、後者には硬派なだけでなく、おちゃめ、浮気っぽさのようなイメージも浮かびます。実際、吉田さんは私生活で事実婚を含めた4度の結婚歴がある「恋多き人」です。一方、高倉さんは相手側の親族のトラブルによる離婚の後、別れた妻を思いながら独身を貫きました。
吉田さんのように何度も結婚できる人は、失敗にめげないばかりか、人への好奇心が強いのだと思われます。それ故、新しい関係、新しいジャンルにも柔軟に楽しく取り組めるのでしょう。
若い頃、ドラマで自分が期待していたほどの扱いをしてもらえなかったことから、長年、テレビ嫌い(?)だったそうですが、いまや「帰れま10」(テレビ朝日系)などのバラエティーやCMでも楽しそうな姿を見かけたりします。やはり、柔軟な人なのです。
新たな取り組みといえば、彼は最近、あの年齢で乗馬を始めたそうです。NHK大河ドラマ「麒麟がくる」がきっかけです。演じているのは、戦国時代の武将・松永久秀。裏切りや乗っ取り、暗殺、焼き打ちなどに手を染め「梟雄(きょうゆう)」と呼ばれました。その人間像は、徳川家康と同じ年に死去したシェークスピアが描いた歴史劇の登場人物にも通じるものです。
ちなみに、吉田さんの飲み仲間でもある藤原竜也さんはこう言っています。
「この人にシェークスピアの戯曲を演じさせたら、かなう人はいない。的確な解釈と表現と圧倒的な存在感で舞台を盛り上げる」
まさに今回の大河、そして役柄との相性は抜群といえますし、実際、第1話から大活躍でした。
主人公・明智光秀が鉄砲を買いに来たところで出会い、酒を飲むことに。酔っぱらった光秀の懐の大金だけを狙っているように見せつつ、翌朝、その姿は光秀の大金とともに消えています。
しかし、そこには「また会ハむ(会おう)」の書き置きと、光秀が求める鉄砲がちゃんと残されていた、という展開でした。梟雄と呼ばれる男が狡猾(こうかつ)さと共に持つ人たらしの才能を見せつけ、その色っぽさとかっこよさで視聴者の心もつかんだのです。
さらに、4月13日からは、月9ドラマ「SUITS/スーツ2」(フジテレビ系)が始まります。シリーズ第2作の目玉として登場、役どころは、織田裕二さん扮(ふん)する主人公の弁護士にとってライバルとなる大物弁護士です。
初共演となる織田さんについては、こんなコメントをしています。
「本当にいい意味で『芝居バカ』といいますか、芝居に対して、俳優をやることに対して、ものすごく熱心な印象があります。こんなにもお芝居に対して、熱心で前向きな人には、あまりお目にかからないです」
いい意味での「芝居バカ」同士、響き合うものがあるのでしょう。2人がドラマに生み出す相乗効果が楽しみです。そして、この現場でも吉田さんは、男と男のリスペクトの輪を広げていくに違いありません。
作家・芸能評論家 宝泉薫
