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「強盗事件」少年の検挙数6割増加、特殊詐欺被害370億円 「闇バイト」から“家族守る”方法を元警視庁捜査官・刑事が解説

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「闇バイト」から“家族守る”方法とは
「闇バイト」から“家族守る”方法とは

 2023年、高級腕時計店や一般宅に対する強盗事件が多発。また特殊詐欺も依然として猛威を振るっています。両事件に共通し、その裏に存在する「闇バイト」が社会問題化しました。そこで強盗事件や特殊詐欺事件、闇バイトへの対策について、元警視庁公安捜査官・刑事であり、防犯事情に精通する日本カウンターインテリジェンス協会代表の稲村悠さんに聞いてみました。

「闇バイト」からの“勧誘”は「高額収入」「国対応」「営業で地方へ」など多岐

Q.まず、強盗事件や特殊詐欺事件は増加傾向にあるのでしょうか?
稲村さん「今年1月に東京・狛江市で起きた強盗殺人事件を機 に、全国的に闇バイトによる事件が相次いで明るみになりました。実際、現職の警察幹部に聞いたところ『闇バイトを使った強盗は現場でも多く扱っている』ということでした。犯罪統計資料の『刑法犯罪種別“認知・検挙件数・検挙人員”(2023/1~2023/9)』 を確認したところ、強盗事件に関して明確に増加の傾向が見られています。強盗事件に関する数字は以下の通りです。

・認知件数=1036件(前年比+22.6%)
・検挙件数=876件(前年比+17.4%)
・検挙人員数=1124人(前年比+31.5%)
・検挙人員数(少年)=229人(前年比+63.6%)

特筆すべきは、少年の検挙人員数です。前年に比べ+63.6%と極めて深刻な増加率となっています。その背景には、SNSを活用した闇バイトの存在があるのは言うまでもありません。

さらに、最近、特殊詐欺事件の掛け子が東南アジアで検挙されるなど大きく報道されています。実は、2022年の1年間で特殊詐欺の被害額は370億円となっており、依然として大きな問題となっています。

Q.狛江の強盗殺人事件における闇バイトの構図を、改めて教えてください。
稲村さん「殺人事件を犯した犯罪グループは、末端の実行者を闇バイトで募集し、指示役はフィリピンから末端の人物に指示するという構図をとっていました。そもそも、犯罪グループには首領(元締め)を頂点に、その下に指示役を作り、指示役の下には闇バイトのリクルーターや名簿を集める情報収集役、スマホや口座など各ツールを用意する管理役が存在していました。さらに、指示役の指揮下に実行役がいて、その実行役グループもリーダーを筆頭に運転役など細かく役割が分かれていました。

この手法は特殊詐欺で確立されたもので、掛け子、受け子などの実行者を闇バイトという形で募集し、自らは表に出ない形で指揮し、捜査の手が届きづらいプロセスを作り上げていました。最近の強盗事件も特殊詐欺事件も似た構図が描けます。

 情報収集役はいわゆる『闇名簿』を同業者や名簿屋から買い付けしたり、ダークウェブで入手し、その名簿でターゲットを定め、実行役に強盗を行わせていました。

Q.私たちの個人情報はどのように集められて、名簿が作られるのでしょうか。
稲村さん「その手法は特殊詐欺のアポ電のように“電話”や“住宅出入り業者”からの買い付けなどが考えられます。例えば、『広域アンケート』と称し、自動音声でガイダンスに従って番号を押すように促すような手法もあります。

高齢者宅に、自動音声で『電気料金に関するアンケート』の電話を掛け、「1カ月の電気代が5000円未満の方は『1』を、5000円以上の方は『2』を押してください」などと誘導していきます。総務省の資料『2021年度家計調査-単身世帯-』によると、一人暮らしの電気代の平均額が1カ月5482円のため、高齢者が『1』を押すと、即座に一人暮らしと把握されてしまいます。

また、インターネットで『名簿 業者』と検索すると、個人情報が含まれる名簿を取り扱う業者がヒットします。この業者らが所有するデータは、同窓会名簿から一戸建て居住者や通販購入者(高級衣類、アクセサリー)、投資家名簿、富裕層名簿など、さまざまです。

例えば、通販で高級アクセサリーやその他の高額商品を購入した人物の名簿、不動産投資した人物の名簿などを入手し、それらの名簿に共通する人物を見つけ出すことで、資金にかなりの余裕がある人物が特定でき、ターゲットが定まるようになってしまいます。

Q.闇バイトはどのように募集しているのでしょうか?
稲村さん「警察庁が今年7月に発表した『犯罪実行者募集の実態』によると、闇バイトへの参加経路は主に、(1)自身で応募(2)知人に誘われた(3)SNSのつながりから誘われた、といった3つのパターンに分類されます。それぞれの実態の例を紹介していきます。

(1)自身で応募
・「X」(旧ツイッター)に『金に困っている』旨の書き込みをしたら、犯行グループから『働いてみないか。大金を稼げる仕事がある』とメッセージが届いた。
・インスタグラムで『仕事を探している』旨の書き込みをしたら、地元の先輩から連絡があり、その後、知り合いの暴力団組員を紹介された。

その他、大手求人サイトで、『高収入』をうたい、高額、即日現金、高額即金、副業、ハンドキャリー、書類を受け取るだけ、行動確認・現地調査のアルバイトなどと称して募集していたことも明らかになっています。

また、犯罪グループの募集時の募集文言として、高額収入・高額バイト・安全に稼げます・1件10万~・犯罪ではありません・学生可能・初心者大歓迎・国対応・保証金なし・営業で地方へ出張する仕事・リスク無し・詳しくはDM・ホワイト案件・高校生でもいける・詐欺ではありません・誰にでもできる簡単な仕事、などもあります。

(2)知人に誘われた
・仕事を探していたら先輩・知人などから『闇バイト』を紹介された。
・先輩から金銭トラブルをふっかけられ、借金返済のため『受け子』の役目を強要された。

(3)SNSのつながりから誘われた
・SNS で知り合った者に「金を貸してほしい」旨の相談をしたら「銀行協会の委託の仕事を紹介する」などと言われ、犯行グループを紹介された。

こういった募集の実態がある上で、犯罪グループから応募者の個人情報を要求されたり、犯行から抜け出したいという少年たちに対し、本人や家族、交際相手への危害などを匂わせ脅迫するなどグループから“抜け出させない手口”が存在しています。

Q.家族が闇バイトに応募しないためには、どうすればいいのでしょうか。
稲村さん「警察庁の資料において、闇バイトに応募した少年たちがどうすれば犯行に加担しなくて済んだのか、そのリアルな声が示されています。

・闇バイトが犯罪実行役の募集であることやその仕組みや個人情報を握られ、自分だけでなく家族も脅迫されることで、犯行グループから抜け出せなくなってしまうことを知っておきたかった。
・警察に捕まるリスクや、刑の重さ、罰金額、逮捕されれば少年院に行かなければならないことを知っておきたかった。

少年たちは、このような当たり前の情報を知らなったという事実と、モラルの低さに驚きました。警察としては、闇バイトに関連するSNSの投稿の削除や、広報活動を通じてその危険性を周知してもらう取り組みを行っていますが、身近にいるご家族がその実態を説明してあげることに尽きます。

皆さんのご家族が加害者にならないよう、具体的な言葉で想像力を喚起するように、以下の点を伝えてほしいと思います。

・楽に高額が稼げるバイトは存在しない。
・金銭問題の解決について、一人で決断しない(相談させる)。
・強盗の実行役は必ず捕まる。
・特殊詐欺・強盗に関する犯罪組織の手口を詳細に理解させる。
・捕まった後の悲惨な人生を理解させる。

Q.では、最後に対策も教えていただけますか。
稲村さん「3つの観点での対策が重要です。

(1)『個人情報』に関する対策
・アンケートに気軽に答えない。
・電話口で生活やお金に関する情報を答えない、即座に切る。
・公的機関であっても、電話は一度切り、かけ直す(その際、相手の所属部署を聞き、相手が言った番号にかけ直さず、ホームページなどで調べた番号にかけ直す)
・遠慮なく家族・警察に相談する。
※特殊詐欺事件への対策として、金銭が絡む電話や訪問の場合は必ず家族か警察に相談し、絶対に一人で対応しないでください。

(2)家への『侵入』に対する対策(主に強盗事件を念頭)
・防犯ステッカーの貼付。
・防犯カメラ/センサーライトの設置。
・インターホンでの対応。
・窓ガラスを割れにくくする防犯フィルムの貼り付け。
・補助錠の設置。
・在宅時の施錠(マンションの高層階があえて狙われる事例も多い)。
・置き配を放置しない。

(3)侵入しにくい『地域』の構築(主に強盗事件を念頭)
・近所であいさつをする。
・近所と情報共有(不審な下見や訪問の情報など)をする。

また、最後に、強盗に遭遇した際の対策も説明します。
・抵抗しない(可能であれば外に逃げ出すのが最善だが、実際は難しいケースが多い)。
・無理してその場で通報しない(犯人に逆上される可能性が高まる)。
・時間と相手の言動や特徴を記憶する(話し方やなまり、衣類・靴、行動など)。
・強盗が去ったことを確認した後、速やかに110番し、記憶している内容をメモなどに残す。

昨今の強盗事件は、徐々に店舗襲撃型へと変遷していますが、年末年始を迎えるに当たり、個人宅への強盗事件が増加することも予想されます。

また、特殊詐欺事件も同様です。特殊詐欺事件では、家族に迷惑をかけまいと老人ホームの入居費用を貯金していた被害者が『(だまされたのが恥ずかしいから、自分が悪いから)絶対に家族に言わないでくれ』と泣きながら言っていたのを鮮明に覚えています。悪いのは犯罪グループであり、被害者ではありません。一番つらいであろう被害者にそう言わしめる特殊詐欺事件も絶対に許すことはできません。

今一度、ご自身の周辺で対策を真剣に検討してみてください」

オトナンサー編集部

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