国分寺北の西武鉄道が複雑に絡み合うワケ
東京で移動する際によくお世話になるのが「鉄道」です。東京メトロ・都営地下鉄といった地下鉄、JR山手線やJR中央線をはじめとしたJR、新宿や池袋など山手線のターミナル駅から延びる私鉄路線。東京で生活していれば使う機会も多いでしょう。東京における鉄道の輸送分担率(各輸送機関の輸送人数の割合)は42%で、それだけ東京と鉄道は密接な関係にあります。
では、東京に張り巡らされている鉄道網の「端っこ」というのはどうなっているのか。知っている人、行ったことのある人はあまり多くはないように思います。そこで今回は、そんな東京の鉄道網の「端っこ」をふたつ紹介したいと思います。
ひとつめの「端っこ」は、JR中央線の国分寺に行くと便利です。
国分寺には3つの鉄道路線が乗り入れています。それがJR中央線、西武国分寺線、西武多摩湖線です。このうち国分寺を起点とするのが、西武国分寺線と西武多摩湖線の2路線です。
それぞれの路線を紹介すると、JR中央線とちょっとだけ併走するのが西武国分寺線。こちらは西武鉄道で一番はじめに開業した路線で、最初はJR中央線の前身、甲武鉄道に連絡する鉄道として甲武鉄道に関係していた人々が発起人となって建設しました。そのため、開業当時は国分寺から川越を結ぶ甲武鉄道の支線のような扱いでした。現在もJR中央線と並行してホームが置かれ、すこしだけ併走もしています。
そして西武多摩湖線が今回紹介する「東京の端っこ」へ行く路線です。こちらははじめ、不動産開発を進めていた箱根土地の分譲地へのアクセス路線として計画され、その後は北にある貯水池を目指すようになります。
いまでは両方とも西武鉄道の路線となっていますが、元々は別の鉄道会社でした。そして通っているエリアも異なるために、あまり仲もよくなかったと言います。そのため、国分寺から北側の西武鉄道の路線は複雑に絡み合うように走っているのです。
小旅行がてらに楽しめる「端っこ」
現在の西武多摩湖線は一部走っている新宿方面への直通電車を除いては4両編成で、単線を10~20分間隔で走っています。住宅地の中を走り、八坂(東村山市)あたりでは築堤(ちくてい。堤防)の上を走ります。そして15分ほどで目的の西武遊園地駅(同市)に到着します。
西武遊園地駅は名前の通り、西武園ゆうえんちの最寄り駅です。駅を出て階段を上って道路をくぐった先に入口があるわけですが、この道路が都県境になっています。駅は東京都ですが、遊園地は埼玉県なのです。まさに東京都の端っこギリギリのところに駅が位置しています。
そして、遊園地に行く道の上を通る道路に出て、少し西に向かうと交差点があり、その向こうに公園のような森があります。その森を抜けた先にあるのが「多摩湖」(村山貯水池)です。1927(昭和2)年に東京で使われる水を供給するための貯水池として作られました。
晴れた日に行くと遠くに関東山地が見え、周囲には「トトロの森」として知られる狭山丘陵の豊かな自然が広がる様子が見られます。そして湖の堰堤(えんてい。ダム)の上からは多摩の住宅地や遠くに新宿のビル群が見えることもあり、ちょっと変わった視点から「東京」を感じることが出来ます。アクセスも比較的簡単で、少し遠くへ出かけてみたいという人にはおすすめの「端っこ」です。
往事の「西武王国」の勢いを感じるエリア
ちなみに、西武遊園地駅からはさらに西武山口線という路線にも乗ることができます。この列車は昔機関車が走る一種のアトラクションのような路線でしたが、今は新交通システムとなりました。
路線は多摩湖北岸にある東京と埼玉の都県境の埼玉県側を走り、西武球場前駅へと至ります。多摩湖の北岸には西武グループの開発したレジャー施設が複数あり、往事の「西武王国」の勢いを感じることもできます。
また、西武遊園地の駅から少し住宅地を東に行けば西武園駅。こちらも西武鉄道の駅で、先ほど紹介した国分寺線からさらに別れて出来た支線のようなものです。こちらは競輪場「西武園」の最寄りとして、競輪ファンが多く乗り降りします。
このように、ただの「端っこ」ではなく、近くのさまざまなものを見ることができるのも、この「西武遊園地」が端っことしておすすめの理由です。
若葉台駅、北口と南口の発展ぶりに「差」が
もうひとつ「端っこ」を紹介しましょう。それが新宿から京王線、京王相模原線で約30分ほどのところにある若葉台駅(川崎市麻生区)です。
この若葉台駅、京王相模原線の車庫が近くにある駅で、「若葉台」という行き先をみた人もいるかもしれません。この若葉台駅は改札を出て北口へ向かえば東京都、南口へ向かえば神奈川県というまさに「端っこ」の駅です。
さらに面白いのが北口と南口の発展ぶりの差です。神奈川県側にある南口は駅前に学習塾はありますが、すぐに住宅街や丘陵地帯になります。一方で東京都側にあたる北口は駅前に大型商業施設の「フレスポ若葉台」があるほか、大型書店の「コーチャンフォー」があり、家電量販店は「ノジマ」、「ケーズデンキ」、「ヤマダ電機」がひしめき合う激戦地です。
「差」の背景にある多摩ニュータウン計画
どうしてこうなったのかといえば、多摩ニュータウン計画がその理由です。北の東京都側は多摩ニュータウンの若葉台地区として1999(平成11)年にまち開きしたのに対し、神奈川県側にそういった開発計画はありませんでした。都県境でまちの姿がここまで明確に別れるところはなかなかなく、若葉台を「端っこ」としておすすめする大きな理由です。
また、東京都側にある施設やお店、神奈川県側にある施設やお店を比べると、計画的に作るまちではどういった建物を建ててお店を誘致しているのかがわかってくると思います。特に学習塾が神奈川県側に集中しているのはとても面白い点といえそうです。
このように東京の「端っこ」といってもさまざまなまちの姿があり、「端っこ」だからこそ見えるものがあります。秋はおでかけに向いている季節です。ぜひ皆さんも東京の「端っこ」を探して出かけてみてはいかがでしょうか。