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古臭い男社会に一撃必殺! 80年代「オバタリアン」ブームの衝撃

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ライフ・美容

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女性の社会進出と周辺環境の変化

 近年、東京の街なかで女性にわざとぶつかる男性が社会問題となっています。2019年には千代田線の二重橋前駅(千代田区丸の内)で女性に全治三週間のけがを負わせたとして、49歳の会社員の男が逮捕されています。

 しかし、男性に何度もぶつかられた経験のある女性が金髪にしたところ、まったく被害にあわなくなったという話も。このようなことから、自分より弱く見えるターゲットを選ぶ卑劣さも浮かび上がります。

 犯罪の背景には、女性の社会進出によって自らの地位が脅かされているのではないかと恐れている人物像が見えてきます。

 女性の社会進出が進んで発言力が強まったのは、1986(昭和61)年に勤労婦人福祉法が男女雇用機会均等法に改められ、賃金以外のあらゆる面において男女差を設けることが禁止されてからです。

 そんな女性たちは、エンターテインメントのジャンルでも人気の題材として取り上げられるようになっていきました。

語源は「中年女性 + ゾンビ」?

 そのなかでも時代を象徴したのが、漫画家・堀田かつひこさんの作品『オバタリアン』でした。

漫画『オバタリアン』第1巻(画像:堀田かつひこ、竹書房)

『オバタリアン』は4コマ漫画で、世間の常識をひっくり返すような振る舞いを繰り返す庶民的な中年女性たち(= オバタリアン)の生態を描いています。オタバリアンの語源は1986年に公開されて大ヒットしたゾンビ映画『バタリアン』だとされています。

 映画で描かれたゾンビのように強烈、かつ大量に存在するという寓意(ぐうい)が込められているというわけです。

 オバタリアンは、

・息子の体育ジャージーをはく
・道の真ん中で突然立ち止まる
・出前に文句を言う
・近所の家を監視する

などなど……それまでの日本人が持っているとされた常識とは相いれない存在でした。

 作品が話題となった背景には、それまでの常識にはとらわれない女性たちが多数存在していたことがあります。

蔑称とは真逆の、肯定的な言葉

蔑称とは真逆の、肯定的な言葉

『オバタリアン』が始まったのは1987年。当初は竹書房の隔月刊誌『フリテンくん』での連載でした。連載は瞬く間に好評となり、月刊誌『まんがくらぶ』など同社の各誌へと広がります。また単行本も飛ぶように売れ、100万部のベストセラーに。

 この作品の想定読者は当初、男性でした。ようは非常識な振る舞いをする中年女性をネタにすればウケるのではないかと思われていたようです。

 ところが、実際に作品を愛読していたのは女性でした。それも20代後半から40代の女性だったのです。とりわけ単行本は、それまで4コマ漫画誌など買ったこともなかった女性たちが買い求めていたと言います(『アビタン』1989年6月号)。

 当時は女性たちの社会進出が進んでいたものの、男性中心主義の幻想がまだ広く浸透していました。そうしたなか、漫画というフォーマットで社会常識やモラルを容易に吹き飛ばすオバタリアンを女性たちは痛快だと受け止めていたのです。

1980年代のイメージ(画像:写真AC)

 当時の女性たちの間で、オバタリアンは蔑称ではありませんでした。むしろ「私もオバタリアンだしさあ~」と自嘲気味に語る女性の方が多く、語り口の実態としては、生き生きと活動する自分自身を肯定的に表現していました。

 こうして、オバタリアンという言葉は世代を超えて浸透していきます。バラエティ番組『あっぱれさんま大先生』でも、先生役の明石家さんまさんに対して、態度の大きな子どもたちが「だって、私オバタリアンなんだもん」と答える場面さえあったのです。

 漫画で描かれたのは、無神経で人の迷惑を顧みない脚色された中年女性だったわけですが、世間におけるオバタリアンという言葉はより広い意味でとらえられていたのです。

新語・流行語大賞に選出

新語・流行語大賞に選出

 こうしてオバタリアンは、1989(平成元)年の新語・流行語大賞にも選ばれます。このときに作者とともに賞を贈られたのが、当時の日本社会党委員長だった土井たか子さんでした。

 この当時、初の国政政党の女性党首として登場した土井さんは女性の社会進出の象徴的人物でした。

 土井さんは自ら肯定的に「オバタリアンパワー」という言葉を使い、女性の政治進出をアピールしました。同年の参議院選挙で、社会党は女性候補者を中心に議席数を大幅に伸ばしたこともあり、まさに女性の社会進出を象徴した出来事と言えるものでした。

1980年代のイメージ(画像:写真AC)

 もちろん反発する声も強く、当時の論壇では「女性に選挙権を与えたのがいけなかった」などという暴論を吐く論客もいたくらいです。わずか30年あまり前の出来事ですが、令和時代から考えると信じられないような「常識」が生きていたのです。

 近年もなにかと話題の女性の権利と社会進出――文化的に進んだ東京は、また新たなアクションの舞台になるのかも知れません。

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