戦車の主砲は、基本的に大きければ大きいほど破壊力も高まります。過去には現代戦車より大口径の砲が見られましたが、問題もあり、ひたすら巨大化していくようなことはありませんでした。実際どのようなものだったのでしょうか。
量産戦車砲では最大口径152mm
戦車の強さを決める要素のひとつに、火力、すなわち主砲の威力があり、その指標のひとつになるのが口径(砲身内径)です。様々な要素が複合的に組み合わさるため、一概には言えませんが、基本的に口径が大きいほど威力は強くなります。
2020年現在、日本の戦車は105mm砲または120mm砲を搭載しており、このふたつの口径は、アメリカを始めとしたNATO(北大西洋条約機構)諸国が運用する戦車砲の標準口径でもあります。しかし、世界には過去、これよりも大きな口径の戦車砲が存在しました。
152mm砲を巨大な砲塔に装備したソ連のKV-2重戦車(画像:ドイツ国立公文書館)。
歴史上、量産戦車が載せた最大口径の砲は152mm砲です。ソ連とアメリカでそれぞれ作られ、前者はおもに第2次世界大戦で、後者はベトナム戦争や湾岸戦争などで実戦投入されています。
ソ連の152mm砲はKV-2重戦車が搭載しました。この戦車は元々、ソ連とフィンランドのあいだで1939(昭和14)年11月に勃発した冬戦争時に、フィンランド軍陣地を突破するための火力支援用として開発されたもので、砲は既存の152mmりゅう弾砲を流用していました。発射速度は遅かったものの威力は十分で、その後起きた独ソ戦においても、侵攻してくるドイツ軍相手に火を噴き、局所的には進撃を阻止する働きを見せました。
一方アメリカの152mm砲は、第2次世界大戦後に開発された「ガンランチャー」という砲弾と対戦車ミサイルの両方が撃てるもので、M60A2戦車やM551「シェリダン」空挺戦車が搭載しました。当時アメリカは近い将来、中距離以上離れた戦車や装甲車との戦闘はミサイルが主流になると考えており、誘導可能なミサイルと威力の大きな砲弾の両方を撃てる方がよいとして誕生しました。
ただし、システムが複雑になり、車内にもミサイルと砲弾の両方を積む必要があったため、整備性が悪く使いづらいものとして、以後の戦車には普及せず、アメリカでは廃れました。
戦車砲 試作ならイギリス製が最大
試作まで含めれば、イギリスの開発した183mm砲が史上最大です。これは1950年代に試作されたFV4005駆逐戦車の主砲として開発されたもので、ソ連の強力なIS-3重戦車を撃破できる大口径砲として作られました。
しかし、FV4005駆逐戦車が試作で終わったため、183mm砲も量産されることはありませんでした。
試作で終わったイギリスのFV4005。主砲が大き過ぎて、砲塔は全周旋回できなかった(柘植優介撮影)。
ここまで挙げた砲は、確かに現代戦車の砲より大口径ですが、主砲の威力はそれ以外に、「射程(射距離)」や「命中精度」、「発射速度」など様々な要素の複合的な組み合わせによって決まります。もちろん使用される砲弾によるところも大きいため、単純に比較はできません。
ちなみに史上最大口径の砲は、第2次世界大戦でドイツが使用した「ドーラ」の愛称を持つ「80cm列車砲」で、その名のとおり口径800mmです。一撃で敵要塞の30.5cm砲を粉砕したといいます。