アメリカ海軍の空母艦載機の主力となったF/A-18E/F「スーパーホーネット」戦闘攻撃機。ただ、同機が誕生するまでにアメリカ海軍は立て続けに2種類の新型機開発に失敗していました。最後の希望となった「スパホ」の誕生を見てみます。
「スーパーホーネット」E型とF型の違いは?
1995(平成7)年11月29日、マクダネル・ダグラス社(現ボーイング)のF/A-18E/F「スーパーホーネット」が初飛行しました。この機体は、同社が開発したF/A-18「ホーネット」の発展型であり、機体全体を大型化して高出力エンジンを搭載するとともに、レーダーなどのアビオニクス類も改良、兵器搭載量や戦闘時の飛行距離を大幅に向上させたのが特徴です。
アメリカ海軍のF/A-18F「スーパーホーネット」。搭載しているのは燃料タンクと、他の機体に燃料を受け渡す空中給油用のポッド。「スーパーホーネット」は給油機としても使われている(画像:アメリカ海軍)。
「ホーネット」と「スーパーホーネット」は見た目こそ極めて良く似ていますが、共通部品はたった1割程度と少なく、実質的には全く別の戦闘機だといえるでしょう。なお、「スーパーホーネット」でもE/Fとしてひとまとめにされることの多いE型とF型ですが、前者が1人乗りの単座機で、後者はパイロットとWSO(兵装システム士官)がペアで乗る複座型です。
E型とF型、両者を合わせた2022年現在の生産数は約600機。生産は継続中で、最近ではクウェート空軍が採用を決めていますが、なかでも最も多く運用しているのはアメリカ海軍です。この機体が登場する以前は、アメリカ海軍の空母に搭載された戦闘機は複数あり、バラエティーに富んでいました。先任のF/A-18「ホーネット」の他に、あの有名なF-14「トムキャット」や攻撃機A-6「イントルーダー」なども運用されていました。現在はそれらがすべて「スーパーホーネット」に入れ替わっており、新型機F-35C「ライトニングII」の配備が始まるまでは、アメリカ海軍の空母の上で活動する唯一の戦闘機でした。
アメリカ海軍の艦載機の変動は、あの大ヒット映画『トップガン』とその続編である『トップガン マーヴェリック』、両者の冒頭のシーンを見比べれば理解できます。それぞれの作品の冒頭は、ケニー・ロギンスによる名曲「デンジャー・ゾーン」に合わせて空母での戦闘機の発艦・着艦シーンがテンポ良く写されており、戦闘機好きならば誰もが一度は見たことがある有名なシーンです。
相次ぐ新型機開発プロジェクトの中止
1986(昭和61)年に公開された初代『トップガン』ではF-14「トムキャット」戦闘機が中心ですが、傍らにはA-7「コルセアII」やA-6「イントルーダー」といった攻撃機も一瞬ですが映り込んでいます。
一方、続編である『トップガン マーヴェリック』は、「デンジャー・ゾーン」が流れる前の冒頭で最新のステルス戦闘機F-35C「ライトニングII」が映るものの、それ以外はF/A-18E/F「スーパーホーネット」ばかりとなっています。一瞬だけ派生型のEA-18G「グラウラー」が映りますが、それを含めてもアメリカ海軍の空母艦載機の現状が、いかに「スーパーホーネット」シリーズばかりであるかを理解するには最適な映像だといえるでしょう。
アメリカ空母の飛行甲板上を移動するF/A-18「スーパーホーネット」。手前の機体はもちろんのこと、その奥にならぶ機体もすべて同一の機体である(画像:アメリカ海軍)。
このように大ヒット映画『トップガン マーヴェリック』でも主役となりアメリカ海軍艦載機の代名詞的存在にもなったF/A-18E/F「スーパーホーネット」。しかし、この機体が開発された1980年代後半は、より高性能な次世代機の開発計画がほかにも存在していたため、「スーパーホーネット」の開発計画自体はそれほど注目されていませんでした。
当時、アメリカ海軍は空母で運用する新たな艦載機の開発を複数進めていました。まずはA-6「イントルーダー」攻撃機の後継機としてA-12「アヴェンジャーII」ステルス攻撃機を、そしてF-14「トムキャット」戦闘機の後継として空軍向けであるF-22「ラプター」戦闘機の艦載機型(F-22Nと仮称)をそれぞれ開発し、これらを次世代の艦載機としてデビューさせる手筈でした。
しかし、海軍初のステルス艦載機という野心的な計画だったためか、両車とも予算超過とスケジュール遅延によって開発は停滞。加えて、冷戦終結によるアメリカの国防予算削減という当時の社会的事情も加わったことで、A-12とF-22N双方の開発計画は中止に追い込まれます。
一縷の望みとなった「スーパーホーネット」開発計画
当時のアメリカ海軍はさまざまな艦載機を空母で運用することにより、世界最強ともいえる海軍航空戦力を保持していました。とはいえ、それら艦載機は絶え間ない世代交代を行うからこそ維持できるものであり、陳腐化が進んだA-6「イントルーダー」やF-14「トムキャット」などを更新するための次世代機は必須の存在だったのです。
着艦するF/A-18「スーパーホーネット」を下から見上げた写真。大型化した胴体と主翼、デザインが変わったエアインテークなど、変更された形状がよくわかる(画像:アメリカ海軍)。
しかし、A-12「アヴェンジャーII」とF-22Nの相次ぐ開発中止によって、アメリカ海軍は後がなくなります。そこで、より確実で開発失敗のリスクがなく、調達も低コストで行える次世代機を求めました。そのような時期に、救世主のような形で登場したのが「スーパーホーネット」の開発計画でした。
メーカーであるマクダネル・ダグラス社は、先代となるF/A-18「ホーネット」の頃から、この機体のアップグレード計画を進めており、その提案を幾度となく海軍に提示していました。そのことが功を奏したのか、A-12「アヴェンジャーII」の開発中止後に提案した「ホーネットII」がアメリカ海軍に採用されることとなり、これが最終的にF/A-18E/F「スーパーホーネット」へと昇華します。
実は、提案したマクダネル・ダグラス社自体、プロジェクト中止となったA-12「アヴェンジャーII」の開発に関わっており、当時は契約違反を理由に国(アメリカ政府)から国費返還の請求訴訟を起こされている状態でした。そんな渦中でさらなる軍用機開発を提案したのは、同社の経営状況とアメリカ海軍の次世代機問題が深刻だった現れともいえるでしょう。
1992(平成4)年にアメリカ海軍とマクダネル・ダグラス社は契約を結び、冒頭に記したように1995(平成7)年11月には飛行試験用の試作単座1号機が初飛行、翌年4月には試作複座型も初飛行を行い、1998(平成10)年には量産初号機が海軍に納入されるまでに至っています。
「一芸に秀でる者は多芸に通ず」を体現した名機へ
その後、2001(平成13)年には実際に任務が行えること意味する初期作戦能力(IOC)がアメリカ軍から付与されると、それ以降はF-14「トムキャット」を運用する飛行隊には複座のF型が交代する形で更新が進み、5年後の2006(平成18)年にはF-14「トムキャット」がアメリカ海軍から完全退役しています。
外洋を航行中のアメリカ海軍の空母。飛行甲板に並ぶ戦闘機のすべてが「ホーネット」もしくは「スーパーホーネット」となっている(画像:アメリカ海軍)。
また、既存のF/A-18「ホーネット」を運用する飛行隊も「スーパーホーネット」へと切り替えられ、2022年現在、アメリカ海軍で従来型「ホーネット」を運用するのは試験飛行隊など副次的な任務を行う部隊だけとなっています。なお、アメリカ海軍のアクロバット飛行隊である「ブルーエンジェルス」も、長年に渡ってF/A-18「ホーネット」を使用していましたが、2020年に「スーパーホーネット」に乗り換えています。
先代戦闘機のF/A-18「ホーネット」は対空対地の両方の任務が可能な「多芸」な戦闘機でした。しかし、それ故に、それぞれを先任とするF-14「トムキャット」戦闘機やA-6「イントルーダー」攻撃機などと比べると航続距離などで劣る部分があり、「なんでもできるが、優れた部分もない」という低い評価をされることもあったとか。
しかし、「一芸に秀でる者は多芸に通ず」という言葉の通り、改良されたF/A-18E/F「スーパーホーネット」はそれら既存機を更新する次世代機として幅広く運用されており、何でもこなす万能機として空母航空団が担うミッションのほとんどを一手に引き受ける万能機となったのです。
ある意味、ここまで成功してしまうと後継機の開発・採用はかなり難しいといえるでしょう。ひょっとしたらF/A-18E/F「スーパーホーネット」はアメリカ海軍史上、最も現役期間の長い艦上戦闘機になるかもしれません。