アメリカ以外で唯一の原子力空母運用国であるフランスは、次期航空母艦についても原子力機関を搭載する路線を固持するといいます。大変お金のかかる選択なのですが、フランスにはそうせざるを得ない事情というものがあるそうです。
フランス次期空母も原子力機関搭載へ
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は12月8日(火)、同国海軍が運用する原子力空母「シャルル・ド・ゴール」を後継する次期空母「PANG(porte-avions de nouvelle generation)」について、原子力推進艦とすることを発表しました。PANGの建造は2025年から開始され、2036年に公試を開始。2038年に「シャルル・ド・ゴール」と入れ替わる形での就役が予定されています。
フランスが建造する原子力空母「PANG」のイメージCG(画像:フランス軍事省)。
フロランス・パルリ軍事大臣がTwitterのアカウントで明らかにしたところによれば、PANGは全長300m、満載排水量7万5000トン。艦載機はカタパルトを使用して発艦し、アレスティング・フックを使用して着艦するCATOBAR(Catapult Assisted Take Off But Arrested Recovery、キャトーバー)空母である点は「シャルル・ド・ゴール」と同様ですが、同艦が蒸気カタパルトを使用しているのに対し、PANGはアメリカ海軍のジェラルド・R・フォード級にて世界で初めて採用された、電磁式カタパルトの採用が予定されています。
パルリ軍事大臣はPANGの戦闘機搭載数を、「シャルル・ド・ゴール」と同じ30機程度と述べています。「シャルル・ド・ゴール」(満載排水量4万2000トン)に比べて大型化しているにもかかわらず、戦闘機の搭載数が変わらないのは、PANGが搭載を想定している新戦闘機「NGF」が、「シャルル・ド・ゴール」の搭載機ラファールMに比べて、大型の戦闘機になる可能性が高いためと考えられます。
なぜフランスはそうまでして空母を保持しなくてはならないの?
一般的に、空母は最低3隻を保有し、1隻が実任務に就き、1隻は整備、1隻は整備完了後の訓練を行なうというローテーションで運用するのが理想的です。2020年12月の時点で、この理想を実現できているのはアメリカだけですが、中国は3隻以上の保有を目指して空母の建造を進めており、また、イギリスもクイーン・エリザベス級空母を2隻建造しています。
フランスもかつてはクレマンソー級空母を2隻保有していましたが、現時点での保有空母は「シャルル・ド・ゴール」1隻のみで、そしてPANGの同型艦を建造する計画はありません。よって当面は、空母1隻という状態が続くと見られます。
空母を1隻しか保有していない場合、肝心な時に空母がドック入りしたり、訓練が不十分で使用できなかったりという事態も起こりうるため、巨額の資金を投じてフランスが空母を保有し続けることを疑問視する声も存在します。ところが、フランスには石にかじりついてでも空母を保有しなければならない、ふたつの理由があります。
PANGへの搭載が予定されている仏独伊共同開発の新戦闘機、「NGF」のコンセプトモデル(竹内 修撮影)。
そもそもフランスは、現在でも旧植民地であったアフリカ諸国と密接な関係にあり、外交、経済、軍事などのあらゆる面でその関係を維持しようと努めています。
「シャルル・ド・ゴール」最初の任務は、アメリカが主導するアフガニスタンにおける「不朽の自由作戦」への参加ですが、その後は中東から北アフリカで起こった民主化運動「アラブの春」で混乱したリビアの警備や、2015年11月にパリで発生した同時多発テロに対するダーイシュ(ISIL)への報復作戦など、アフリカでの作戦に多く参加しています。
空母の派遣とその航空戦力の投入は、実際に投入できる戦力以上にアフリカ諸国へ対するプレゼンスが大きいとフランスは考えており、それが、同国が空母を手放せない理由のひとつとなっています。
フランスにおける「核戦略の要」としての空母運用
フランスが空母を手放さないもうひとつの理由は、同国の核戦略にあります。
アメリカやロシアは大陸間弾道弾(ICBM)、原子力潜水艦発射型弾道ミサイル、戦略爆撃機の3つの手段、いわゆる「核のトライアド」によって核兵器を維持していますが、フランスはICBMを保有しておらず、戦略爆撃機も2005(平成17)年にダッソー ミラージュⅣが退役して以降は保有していません。
アメリカ海軍は冷戦終結後に空母への核兵器の搭載をとりやめており、大型空母を保有している他国でも核兵器の搭載は確認されていませんが、フランスは大規模な戦争が勃発した際、核兵器による反撃能力の冗長性を確保するため、「シャルル・ド・ゴール」艦載戦闘機であるラファールMに搭載できる核弾頭搭載型空中発射巡航ミサイル「ASMP」を搭載しています。
胴体中央の兵装搭載ステーションに「ASMP-A」を搭載するラファール(画像:フランス装備総局)。
フランスはASMPの射程延伸型「ASMP-A」の開発も進めており、ASMP-Aは2020年12月10日(木)に、ラファール機からの初の発射テストに成功しています。ASMP-Aの開発を進めているところなどから見て、フランスは空母を核戦略の構成要素から外す考えはないようですが、そのことが1隻だけの空母に、他国の空母にはない「価値」を与えているともいえます。
フランスはインド太平洋地域でのプレゼンス強化を進めており、「シャルル・ド・ゴール」が東シナ海方面まで進出してくる可能性も取りざたされています。同艦が長期に渡ってインド太平洋地域に展開する場合、乗員の休養や補給などで日本に寄港を求めてくることも考えられますが、日本には核兵器を作らない、持たない、「持ち込ませない」という「非核三原則」が存在しており、核兵器の投射能力というフランスの空母だけが持つ「価値」が、日本への寄港を難しいものにしているのも、また事実です。