フランスのマクロン大統領がウクライナに「ミラージュ2000」戦闘機を提供する計画を明らかにしました。同じくウクライナへ供与されるF-16に対抗意識をもって作られた同機、どのような差があるのでしょうか。
F-16の対抗馬として開発される!
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2024年6月7日、ノルマンディー上陸作戦の80周年記念行事の後、ウクライナに「ミラージュ2000」戦闘機を提供する計画を明らかにしました。
ミラージュ2000(画像:フランス航空宇宙軍)。
この戦闘機は、同じくウクライナへの供与が決まっているF-16戦闘機の対抗馬のような位置づけで開発されたものです。どのような特徴があるのでしょうか。
ミラージュ2000はフランスの複合企業(コングロマリット)であるダッソーが開発した機体で、1978年3月10日に初飛行を行っています。
フランス語で「幻影」や「蜃気楼」を意味する「ミラージュ」シリーズの大きな転換点ともいえる設計が施された機体ですが、その背景にはライバル機であるアメリカ製戦闘機F-16の存在が大きく関係しています。
1974年にアメリカで初飛行し、1978年に運用開始されたF-16は、最新技術を積極的に盛り込んだ新型機でした。これに対しダッソーは最初、既存の「ミラージュF1」の改良型でしかない「ミラージュF1/M53」を提案したため、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のオランダ、ベルギーなどがF-16を採用するなど、商戦において劣勢が続いていました。
そのため、機体を一から設計し直すことになったダッソーは、パイロットの操作を電気信号で動翼に伝えるシステム「フライ・バイ・ワイヤ」を機体制御に採用したほか、F-16にも採用された、胴体と翼が一体となった「ブレンディッド・ウイングボディー」の概念を取り入れるなど、F-16の対抗馬として相応しい機体を考案しました。
なんとわずか2年強で完成!
当時の最新技術を盛り込んだミラージュ2000は、設計開始から初飛行までわずか27か月(2年3か月)という驚くべき短期間で開発されています。フランス空軍の要求通り、1983年には量産型の納入にこぎ着けました。
生産開始後も、戦闘機が多用途(マルチロール)化するなかで、F-16とのライバル関係が継続していくことになります。当初ミラージュ2000は要撃戦闘機として開発されたものの、その後、核ミサイルの運用能力が付与された戦略爆撃機タイプなどが造られたことで戦闘爆撃機型も生まれ、のちには対地・対艦攻撃も可能なマルチロール機へと発展しています。
F-16もまた、当初は軽戦闘機という扱いでしたが、レーダー性能の向上、エンジンの換装、電子機器の高度化などを進め、全天候型戦闘機に成長。もともと軽戦闘機として開発されたため、低空・低速での安定性が高く、対地攻撃面でも積極的な改良がされることになり、マルチロール機として確固たる地位を得るようになりました。
F-16の5000機という驚異的な生産数には及ばないものの、ミラージュ2000の生産数は600機余りを記録しており、フランスのほかエジプト、ペルー、インド、ギリシャ、UAE(アラブ首長国連邦)、台湾、カタールという8つの国と地域で運用され、製造は2007年まで続きました。フランスでは最後のミラージュ2000が2022年6月23日に運用を終えましたが、ほかの国ではまだ現役です。最新型のブロック70の生産が2019年から開始されたF-16には及ばないまでも、息の長い戦闘機といえます。
今も世界各国で運用されるF-16(画像:アメリカ空軍)。
50年近く前にF-16に対抗するために開発された同機ですが、多くの部分で共通するものがあります。そのため、ウクライナには先に供与が決まっているF-16同様に、同国で防空のほか対地攻撃や偵察など、幅広い任務での運用が期待されそうです。