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旧日本陸軍「自転車で電撃戦」マレー半島を駆けた銀輪部隊とは 放置自転車問題も発生

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「電撃戦」とはWW2期のドイツが戦車と自動車などを駆使し展開したスピード重視の軍隊運用思想ですが、実は当時、日本もそれに似たことをマレー半島で実行していました。戦車も使いましたが、歩兵が駆ったのは「銀輪」こと自転車です。

主役は「銀輪」と「鉄牛」

 第2次世界大戦初期、ドイツ軍は「電撃戦」でヨーロッパを席捲しました。当時「電撃戦」という言葉自体はありませんでしたが、戦車や装甲車を集中運用し砲兵や空軍も協力してスピードを発揮し、敵の弱点や後方地帯を不意に急襲して、混乱させ敵軍を機能不全にする作戦でした。そして実は日本も、マレー半島で電撃戦のような作戦を実施しています。

Large 191211 bic 01シンガポール市街へ突入する旧日本陸軍の「銀輪部隊」(画像:国立国会図書館)。

 マレー半島は道路が非常に発達しており、電撃戦にはおあつらえ向きでした。戦車も参加していますが、歩兵の機動に威力を発揮したのが自転車でした。自転車部隊は当時のメディアから「銀輪部隊」と喧伝され、自転車はなぜ転ばないのかを説明する子供向けの科学本にまで「銀輪部隊」という言葉が登場します。ちなみに戦車部隊は「鉄牛部隊」とも呼ばれ、この鉄牛と銀輪が日本の電撃戦の主役でした。

 20世紀初頭の日本は工業後進国で、自動車産業は遅れていましたが、自転車は品質が良く安価だったこともあり世界に輸出されていました。日本軍は自動車導入に躍起になっていましたが、生産量は必要数に遠く及ばず、太平洋戦争が始まっても歩兵は徒歩、火砲や物資輸送は馬で引くというスタイルは変わりませんでした。そうした一方で当時、日本陸軍は約5万台の自転車を使用していたといわれます。

マレー半島ひたすら南下 シンガポールへ走れ走れ!

 太平洋戦争開戦時のフィリピンやマレー半島攻略戦では、守備するイギリス軍が橋梁や道路を破壊する前に進撃するためのスピードが重視されました。その一端を担ったのが「銀輪部隊」です。

 この作戦に参加したのは、もともと中国戦線に配置されていた第五、十八師団でした。南方転用に備えて歩兵部隊の自動車化が図られますが、トラックの数は足りません。そこでトラックに乗り切れない将兵は、自転車に乗ることにしたのです。正式に「第○○自転車化部隊」というのが編成されたわけではありません。何台の自転車が持ち込まれたのかはっきりとはわかりませんが、現地では日本から輸出されていたものも含む、相当数の自転車が徴発され、1個師団に数千台が配置されました。

Large 191211 bic 02橋を落とされても自転車を抱え渡河。軽便さは銀輪部隊の武器(画像:国立国会図書館蔵 読売新聞社出版部編『大東亜戦争報道写真録:大詔渙発一周年記念』読売新聞社)。

 馬や自動車と違い自転車なら、誰でも短期間の訓練で比較的簡単に乗りこなせ、スピードは徒歩とは比べ物にならず、橋を落とされると自動車は立ち往生ですが、銀輪部隊は修復を待たず担いで渡河し、前進を続けることができました。

 しかし良いことばかりではありません。ゴム製タイヤはとがった石が散らばる悪路や敵の障害物で、とにかくよくパンクしました。1台が1日に2、3回もパンクするありさまです。各中隊に専門の自転車修理班がいましたが、手が回らないほどだったと言います。ただ現地はゴム樹林が多かったため、ゴム糊が入手容易だったのが救いでした。2019年現在、日本国内の道路事情は非常に良好で自転車やクルマがパンクに悩まされることはほとんどありませんが、海外に派遣された自衛隊の装輪車が、とにかく頻繁にパンクして整備班を泣かせるという話とダブります。

 パンク修理が間に合わないときはゴムタイヤを外して、鉄輪だけで無理やり前進することもありましたが、舗装道路を走るとこの鉄輪自転車が戦車の履帯(いわゆるキャタピラ)の音にも聞こえたそうです。ある部隊が夜襲の際、わざとタイヤを外した自転車数台と共に前進したところ、敵が戦車来襲と勘違いして撤退したというエピソードが当時の戦記で紹介されています。自転車が戦車のふりをしたのです。

「放置自転車」問題は戦場にも

 自転車は有効な移動手段ではありましたが、乗車戦闘はできません。戦闘が始まれば、自転車は置いて行かれることになります。戦場ゆえ快適な道路ばかりではなく、密林や悪路を迂回しなければならない場合もあります。100台から200台もの放置自転車が残され、そこには5、6名の監視兵が付けられました。とはいえ、せっかく前進した部隊がまた自転車を取りに戻ってくるわけにもいきません。この放置自転車は大きな問題でした。

Large 191211 bic 03マレー半島最南端、マレーシア ジョホールバル市での市街戦。戦闘に入ると自転車は乗り捨てられることに(画像:国立国会図書館蔵 『マレー作戦』朝日新聞社)。

 ひとつの解決策が、現地で臨時運転手を集めることです。ここでも、自転車は誰でも乗れるというメリットが発揮されます。1名の日本兵が20名から30名の現地人をまとめて指揮して自転車を運転させ、前進した部隊へ送り届けたのです。

「言葉もわからない20人位の人種混合自転車部隊を分担して指揮、『日の丸』を先頭に何百台も銀輪を列(つら)ね、椰子の街道を微笑ましい大東亜風景を描きながら走っていくのである」(朝日新聞社 刊『マレー作戦』より引用)

 当時の新聞は「大東亜共栄圏」と絡めて、プロパガンダの材料にもしました。

 日本軍が守勢に回り連合軍が本物の機械化部隊を持ち込んでくると、こんな牧歌的な銀輪部隊の活動する場面はなくなります。戦車のふりをした自転車では、勝負になりませんでした。

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