イスラム教に基づいて装われる中東の衣装【女性編】
中東といえば、イスラム教徒の女性(ムスリマ)の女性の衣装が印象的ですよね。イスラム教では、女性が夫以外の男性に肌をさらすのを避けるように指導しています。
ただ、指導者によって解釈の違いがあることから、同じ中東であってもイスラム圏の女性の装いにはいくつかの種類があります。
アラビア半島の女性の民族衣装「アバヤ」
「アバヤ(Abaya)」は、アラビア半島のアラブ首長国連邦の国々で用いられている女性の民族衣装です。
これらの地域では、イスラム教徒の女性は自宅で家族と過ごしたり女性同士で過ごす場合には、頭髪を出していてもかまいません。しかし、外出する場合には、黒い布で作られたアバヤで全身をゆったりと覆い、スカーフで頭髪や耳、首などを隠します。
アラブ首長国連邦の観光地
アラブ首長国連邦(United Arab Emirates: UAE)は、アラビア半島の南東の角、オマーンよりも内側にある連邦国家です。
- アブダビ
- ドバイ
- シャルジャ
- ラス・アルハイマ
- フジャイラ
- アジュマン
- ウンム・アル・カイワイン
の7つの首長国から構成されています。
中でも観光地として有名なのはドバイ。ヨーロッパなどへの空路の乗り継ぎポイントでもあるので、立ち寄り中に観光することもできますよ!
より厳格な地域で装われる「ブルカ」
「ブルカ(Burka)」も伝統的な衣装の一つです。歴史的には形状の違う衣装をブルカと呼ぶことがありましたが、現在、日本の報道などでブルカという言葉を用いるときに示されるのは、アフガニスタンの女性の着ている、頭からかぶって足先まですべてを覆う布です。
EUへの移民が増加するに従って、政教分離やテロ対策、女性を抑圧から解放するなどの観点から、ブルカの着用が問題となりました。禁止する法案が可決、施行されている欧州の国もあります。
一方で、自国の伝統的な宗教・文化としてブルカを着ているイスラム教徒の女性たちにも、このような法律に対して批判的な立場を取る人たちがいます。
アフガニスタンは観光地?
アフガニスタンはテロ事件が起こるなど、首都カブールを除く全土の治安が危険とされています。日本の外務省の評価では、レベル1~4の危険レベルのうち、レベル4で「退避してください。渡航は止めてください。」という退避勧告が出ている状態です。
首都カブールならば大丈夫かというと、全く違います!
2019年8月7日にカブール市内の警察署付近でタリバーンによる爆弾テロが、2019年8月17日にはカブールの結婚式場でISIL爆発テロが相次いで発生しています。「中東をバックパッカーとして旅行したい」という人もいるかもしれませんが、ぜひ安全のために、アフガニスタンは避けるようにしてくださいね。
比較的寛容な地域などで装われる「ヒジャブ」
「ヒジャブ(Hijab)」は、イスラム教徒の女性が使う頭部を覆う布です。頭部を隠す布は、細かく分けると、長方形の布の「ヒジャブ」、半円型の大きな布で頭から上半身、または頭から下半身を覆う「チャードル(Chador)」、四角い布をアゴの下で結ぶ「ルーサリー」の3種類があります。
ヨーロッパなどでは、公式の場でのヒジャブなどの着用が批判される国もありますが、トルコのように政教分離のためにイスラム教徒が大半を占める国でありながら、ヒジャブの着用を禁じる例もあります。
オスマン帝国の遺産の残るトルコの観光地
トルコは、1299年から1922年まで続き、トルコ革命によって滅びたオスマン帝国の後に作られた共和国です。しかし、現在もオスマン帝国時代に築かれた歴史的な建造物を目にすることはできます。
例えば、オスマン帝国の首都であったブルサや、古都ジュマルクズクは世界文化遺産に指定されています。
伝統衣装と西洋式の装いのミックスされた婚礼衣装
宗教に基づいた伝統衣装が根強く受け継がれているイスラム圏ですが、若い人たちの中には西洋文化の影響を受ける人たちもいます。
結婚式で「ヒジャブ・ドレス(hijab dress)」という衣装が用いられるようになってきたのもその一例です。
Hihab Dresses | Pinterest(英語;画像)
イスラム教に基づいて装われる中東の衣装【男性編】
イスラム教では男性が装うことが禁じられているものがあります。金や絹100%の衣類です。下でご紹介していくイスラム教徒の男性の衣装のどれにも、金と絹は含まれていません。ぜひじっくり見てみてください!
イスラム男性の基本の装いである「カンドゥーラ」
中東の男性の民族衣装では、禁じられた絹ではない素材が用いられています。例えば、基本的な装いである「カンドゥーラ(Kandura)」または「ディスダーシャ(Disdasha)」と呼ばれる白い衣服では、主に綿が用いられます。
実はこのカンドゥーラに用いられる生地の「トーブ(Thawb)」のうち、50%は日本製で占められているそうです。中東は砂漠があり乾燥が強く、綿の生産が難しいため、外国から繊維を輸入しているのですね。
中東の白い服は50%が日本製。そのトップに『東洋紡』商品|東洋紡STC株式会社
エジプト版カンドゥーラの「ガラベーヤ」はお土産にも◎
カンドゥーラは白い布が中心ですが、エジプトでは「ガラベーヤ(Galabeya)」や「ジェラビーヤ(Jellabiya)」と呼ばれる伝統衣装があります。
カンドゥーラに比べて袖がゆったりとして長く、襟ぐりにカットが入っているデザインで、日差しが強く暑いエジプトの気候にぴったりです。
男性・女性用があり色もカラフル!ハン・ハリーリ・バザールなどでも販売されています。お土産の候補にしてみては?
イスラム男性の基本の装いの装身具の「クーフィーヤ」
イスラム男性が頭にかけている布は「クーフィーヤ(Kufiya)」または「シュマーグ(Shemagh)」と呼ばれる装身具です。クーフィーヤがずれないように、「イカール(Iqal)」という黒いヒモを二重にしてはめ込みます。
イエメンでは、イカールを使わず布を巻くだけです。
イランの観光地は?
日本の外務省による評価では、多くの地域が「十分注意してください。」とレベル1に留まっているイラン。このレベル1の範囲内にある観光地から、魅力的な場所をいくつかご紹介しましょう。
まずは、古代ギリシアのメケドニア王国のアレクサンドロス大王が築き破壊した「ペルセポリス」! 現在は廃墟となっているものの、その壮麗さが伝わってきます。
ペルセポリス|トリップアドバイザー
世界文化遺産に指定されている歴史都市「ヤズド」もオススメです。シルクロードの要衝であったヤズドには、カナート(地下水路)を利用して冷気を出す仕組みを持つ「バードギール」という塔のある、ペルシャ式庭園の「ドーラト・アーバード庭園」があります。ヤズド州の西側にあるエスファハーン州には、771年に建築されたエスファハーン最古のモスクである「ジャーメ・モスク」があります。装飾の美しい壁面のあるモスクでもあり、一見の価値があります。
オマーンの男性のふだん使いの帽子「クマー」
アラビア半島の南の端には、2つの国が隣り合っています。西側の国がイエメンで、東側の国がオマーンです。アラビア半島の多くの国ではクーフィーヤが用いられますが、オマーンでは「クマー(Kuma)」という帽子を使います。
中東の歴史的な衣装
中東には、かつて存在したけれども、時代の流れとともに廃れてしまった衣装もあります。
トルコのスルタンも着た民族衣装の「カフタン」
「カフタン(Kaftan)」は、オスマン帝国時代によく用いられたトルコの伝統衣装です。長袖で前開きになっているガウンで、綿を間に入れたキルトのような作りの物も用いられていました。
これに、シャルワールと呼ばれる太腿部分が広がったゆったりとしたズボンを合わせると、オスマン帝国の基本民族衣装が再現できます。
トルコの伝統的な帽子の「フェズ」
トルコの伝統的な帽子の「フェズ(Fez)」も、オスマン帝国時代の帽子です。もともとはモロッコの都市フェズ付近で使われていた服装だったのですが、オスマン帝国時代に西洋化が図られた際、頭部を覆うものとして採用されました。
後になってトルコ革命を迎えると、オスマン帝国時代の服装ということで否定され、フェズの着用は禁止されました。現在はお土産品として販売されているものの、実際に着用する習慣はなくなってしまいました。
特別な機会に用いられる衣装
現地在住の地元の人たちには、一般的には用いられない衣装や、特別な機会にしか見られない衣装もあります。
ベリーダンスの衣装
ドバイのナイトクラブなどで踊られるベリーダンス。イスラム教徒の女性は身体を顕わにすることが禁じられているのに、なぜこのような衣装が許されているのだろうと不思議に思ったことはありませんか?
じつは、ベリーダンスはもともとイスラム圏にあったものの、踊り子の女性は娼婦と同一視されることもあったため、現在は海外出身のダンサーが行っている例がほとんどです。そのため、基本的にはアラビア風の衣装ではあるものの、ある程度自由に作られています。
中東で働く日本人・ベリーダンサーASYAさん|FUJIYO TSUNEMI PHOTOGRAPHY
オマーンの男性の典礼衣装のポイントは「ハンジャル」
オマーン男性は典礼に参加する際、正装の一部として腰に「ハンジャル(Khanjar)」と呼ばれる短剣をさします。男性の優雅さを表すアイテムとして用いられていて、旅客機などのマークにも採用されています。
なお、西隣のイエメンでも男性は「ジャンビーア」と呼ばれる同様の短剣をさす習慣がありますが、こちらは典礼だけでなく、普段着の一部として用いられています。
スーフィズムの踊りの衣装
イスラーム教の神秘主義としてスーフィズムというものがありました。スーフィズムの修行僧である「ダルヴィーシュ(Dervish)」は、神と一体化する修行として「セマ(Sema)」という祈りの言葉を唱えながら踊る踊り手「セマゼン(Semazen)」として修行します。
この長いスカートが特徴的な衣装をまとったセマゼンの人形などを、トルコのお土産としてもらったことのある人もいるのではないでしょうか?
トルコには、このセマーを行うメブレヴィ教団がありました。1923年のトルコ革命で教団は解散させられてしまいましたが、後に価値が認められ、現在、「メヴレヴィ教団のセマーの儀式」として無形文化遺産に登録されています。トルコのコンヤにある「メブラーナ博物館」は創始者の廟を博物館としたものです。
中東を旅行するときの装いで注意したいこと
以上、中東の衣装についてイスラム教を元にした物から歴史的なものまで紹介してきました。
ご紹介したように、イスラム圏では特に女性の服装は注意が必要です。ヒジャブなどを用いない女性は貞淑さに欠け、男性を誘惑している、そうしたいと望んでいるとさえ誤解されかねません。
イスラム教徒ではなくても、文化を尊重し、また自分の安全のためにもスカーフで頭部を隠したり肌の露出を減らすなどの工夫をしたいですね。
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