「ウナギトラベル」のツアーの様子(ウナギトラベル提供)
「誰にでもアドベンチャーを」をモットーとしたぬいぐるみ専用の旅行代理店「ウナギトラベル」(東京都渋谷区)。2010年から15年以上にわたりサービスを提供し、国内外の人の心を引きつけている同社の代表を務める東園絵さんに、プランを企画する狙いや人気の秘訣(ひけつ)などについて、聞きました。
写真1枚1枚に“ストーリー”がある
ウナギトラベルでは、ぬいぐるみを大切にする国内外からのお客様から預かったぬいぐるみ(通常8~10体程度)を、ウナギのぬいぐるみガイドたちが引率し、旅をするというプランになっています。
ぬいぐるみにはそれぞれ思い出や参加の理由やストーリーがあり、それを元に、旅のストーリーを日本語と英語で考え、旅をしながら写真や動画等を通じてリアルタイムでSNSで共有しています。
東さんにプランを計画した狙いについて質問したところ、「モットーは『誰にでもアドベンチャーを』です」と答えてくれました。続けて、「『誰にでも』の中にはぬいぐるみも含まれていますが、病気や高齢、時間や金銭的な制約などで旅ができない人たちにぬいぐるみを通してアドベンチャーを提供したいという意味も込めています」と説明してくれました。
東さんはウナギガイドたちが引率するツアーの“常連客”についても教えてくれました。「常連さんの中に、かわいらしい見た目の白うさぎ『赤ちゃん』がいます。『赤ちゃん』は惑星の女王様で、兵庫県のある家(持ち主さんの家)に居候しながら、世界征服をもくろんでいます。世界征服という壮大な夢の実現に向けて各地を旅行し、数々の場所に拠点を作っています」と、にこやかな笑顔で話してくれました。
また、「赤ちゃん」は、ご自身のお名前の“赤”にちなんだ赤村(福岡県田川郡)ツアーにも参加しています。赤村は山々に囲まれた自然豊かな地域で、福岡市から約60キロも離れた場所に位置する小さな村です。「赤ちゃん」の征服が山々に囲まれたのどかな町にまでおよぶとは恐るべし……。
あわせて、東さんはムース(ヘラジカ)のぬいぐるみ『ダッドリー』についても教えてくれました。「『ダッドリー』の持ち主はアメリカ人の方です。持ち主さんは『うちの子はベジタリアンです』と教えてくれました。ツアーでお寿司屋さんに入ったとき、『ダッドリー』にガリばかり食べさせていたら、『かっぱ巻きなども食べさせてあげてほしい』というコメントが日本人の方から寄せられました(笑)」と、楽しそうに話してくれました。ベジタリアンの参加者に思わずガリばかり食べさせてしまった東さんの気持ちも、ガリばかり食べさせられる『ダッドリー』を気遣う日本人の方の気持ちも分かります。
ツアー前に依頼者についてアンケートでヒアリング
東さんがツアー参加者に合った対応を行える秘訣(ひけつ)は、ぬいぐるみの持ち主に書いてもらう“アンケート”にあります。
ウナギトラベルでは、ツアーに参加するぬいぐるみについて、“特性”や“ぬいぐるみとの思い出”などを丁寧にヒアリングしています。ぬいぐるみの持ち主は、ぬいぐるみの性格、大切な思い出、参加動機などをアンケートのフォーマットに従って記入することになっています。
人間の団体ツアーの参加者の中には、内向的な人も酒に強い人もいますが、ウナギトラベルのツアーの参加者も性格や好きな食べものがそれぞれ異なります。人間の団体ツアーでガイドがそれぞれに合った対応をしているように、東さんも「ウナギガイドさんたちの裏側で参加者にオリジナルの対応をしています。
東さんは参加者にサービスを提供する際の心構えについて、「ぬいぐるみは持ち主さんにとって、唯一無二の存在です。ぬいぐるみが製造された時点では『物』だと思いますが、持ち主さんと出会い、生活を共にし始めた時点で思い出ができ、『唯一無二の存在』になっていきます。『目に届かない内面』を必ずお尋ねし、寄り添うように心がけています」と打ち明けてくれました。
東さんは、ツアー前に参加者であるぬいぐるみの個性を把握し、ツアー中はそれぞれストーリーを組み立てます。撮影場所やポーズもぬいぐるみの性格や好みに合わせて一つ一つ決めるなど、繊細で丁寧な心掛けをのぞかせています。
東さんの見えない部分での働きがあるからこそ、持ち主は自宅などで写真や、リアルタイムで更新されるSNSを、“本のページをめくるように”ワクワクしながら楽しむことができます。
ファンタジーのような世界観×現実世界での仲間たちとの交流
筆者は、東さんにインタビューをする前は「我が子に経験をさせてあげたいという親心で、持ち主はぬいぐるみを旅行に送り出しているのだろうか?」と思っていました。しかし、東さんの話を聞き、ぬいぐるみの持ち主の数だけ、ストーリーがあることが分かりました。
また、人間を対象とした一般的な団体ツアーでも、初対面の人同士が自然と会話が弾み、ツアー終了後には“同じ時間を共に過ごした仲間”としての絆が生まれることがよくあります。
「ウナギガイド」さんたちが引率するツアーも多くが団体プランですが、ぬいぐるみの持ち主さん同士が旅行中や旅行後にFacebookやSNSで交流を深め、楽しんでいます。持ち主同士の交流はウナギトラベルの旅行が持つ独自の魅力の一つになっていることがわかりました。
西田梨紗
