ビジネスシーンにおける上司と部下のやりとりで、たびたび論争になるのが「前にも言ったよね」発言の是非です。職場で仕事を教えるときや教わるときに、言いがち・言われがちな言葉ですが、やはり両者とも“言い分”はあるようで、言われる側からは「本当に心が折れる」「次に聞くのが怖くなる」、言う側からは「メモすら取らない人には言いたくなる」「何度言っても覚えてくれないときは言うしかない」といった意見が、ネット上で見受けられます。
では、ビジネスマナーの観点で考えるとき、「前にも言ったよね」発言はアリなのでしょうか。それともナシなのでしょうか。ヒロコマナーグループ代表で、企業のマナーコンサルティングをはじめ、皇室のマナー解説やNHK大河ドラマ「龍馬伝」、NHKドラマ「岸辺露伴は動かない 富豪村」、同シリーズ最新作「密漁海岸」のマナー指導などでも活躍するマナーコンサルタント・西出ひろ子さんの見解です。
互いをプラスにしないセリフ
マナーはお互いがお互いの立場に立ち、相手を思いやることです。この大前提を軸に考えた場合、まず言う側が「極力言わないようにしよう」という心持ちでいることは大切だと感じます。
実は私自身、このセリフを社内のスタッフにも、家族にも言ってしまうたちでした。家族からは「それ言わないで。傷つくから」とはっきりと言われたこともあります。そう言われたとき、初めて相手が傷ついていたことを知ったと同時に、それを言われた私の心も落ち込みました。この言葉は、互いをプラスにしないセリフだということに気付かされたのです。
ただし、「前にも言ったよね」という発言が、ビジネスシーンにおいて「アリ」なのか「ナシ」なのかについて私は、言い切ることは控えたいと思います。理由は、相手によって受け取り方がさまざまだからです。マナーは、相手がどう感じるか、どう思うかによって答えが変わってくるためです。
とはいえ、言う側は悪気がないにせよ、あるいは意図的に言うにせよ、言われる側には「傷つく」という声もあるため、マナーの観点からは「言わない方が賢明」と考えます。先述の通り、このセリフからはウィンウィンの関係が生み出せない可能性の方が高いからです。
言う側としては「前にも言ったことだから、きちんとしてほしい」という気持ちからの言葉であるわけですが、このセリフを言う目的は「ある事象に対して、改善をしてくれればいい」なのですから、相手が改善する気持ちになれる言葉を発することが大切です。
一方で言われる側としては、傷ついたり、心が折れて落ち込んだり、「また言われるのでは」と怖くなったりするなど、マイナスな状態になってしまうのは避けたいものですね。しかし、このセリフを言う相手がいるならば、最初は難しいと思われるかもしれませんが、相手からこのセリフを言われないように、「相手にこのセリフを言わせない自分」になることも自分を守るためには大事だという心持ちで、日々意識してみてはいかがでしょうか。
「前にも言ったよね」発言は、個人的には先述の理由から言わないようにしようと心がけています。一方で、もし反対に私がこのセリフを言われたら、ムカッとしたり落ち込んだりするかもしれませんが、仕事関係者であれば「失礼しました。何度もご指導ありがとうございます! 今後は同じことを繰り返さないようにします」、家族であれば「あら、そうだった? ごめんなさい。忘れっぽくなったわね。気を付けまーす」などと切り返します。その場の空気が重たくならないように、明るく切り返す方法もTPOに応じて有効です。
私自身、完璧ではありませんが、教わる側のときは傷つき、心が折れそうになりながらも、謙虚な姿勢で指摘に感謝する気持ちを持つように心がけること、教える側のときは「自身も完璧ではないのだからできない」と分からない相手の気持ちに寄り添い、相手が嫌う言葉は使わない配慮をすることが、職場でも家庭でも必要といえるのではないか、と考えています。
オトナンサー編集部