東京では成田空港の位置づけ「ダレス空港」の名物施設が消滅へ
アメリカの首都ワシントンの玄関口で、ANA(全日空)の羽田空港と結ぶ直行便も乗り入れているワシントン・ダレス国際空港(南部バージニア州)が、総額199億ドル(1ドル=157円で3兆1243億円)を投じて大規模改修されます。空港を運営する公団の理事会が2026年8月19日に承認し、2034年までの工事完了を目指しています。
2台並んだワシントン・ダレス国際空港の「動くラウンジ」(大塚圭一郎撮影)
デザイン案によると、改修に伴って旅客ターミナルビルの天井にはドナルド・トランプ大統領(共和党)が好む金色の装飾が施されます。また、ターミナルビル同士をつなぐピープルムーバーの一種「動くラウンジ」の消滅や、地球温暖化を「史上最大の詐欺」と主張する化石燃料が大好きな大統領らしい肝いり事業が盛り込まれていました。
ワシントン首都圏には3つの主要空港があります。ワシントンの西約40kmに位置し、1962年に開港したダレス空港は政治都市ワシントンらしく幅広い国際線が発着し、ユナイテッド航空のハブ(拠点)空港にもなっています。
ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港(バージニア州)はワシントンの南約8kmにあり、国内線が中心でアメリカン航空のハブ空港になっています。東京都心部からの距離感になぞらえると、ダレス空港が成田空港、レーガン空港が羽田空港に当たります。ワシントン首都圏空港局によると、ダレス空港の2025年の旅客数は2901万人と過去最高になり、レーガン空港の2489万人を大きく上回っています。
残る一つのボルティモア・ワシントン国際空港(BWI、東部メリーランド州)です。ワシントンの北東約60kmにあり、格安航空会社(LCC)サウスウエスト航空のハブ空港になっていることを踏まえると、スカイマークの路線が多く発着する茨城空港と性格が似ています。
筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が勤務先のワシントン支局駐在中の2020~24年には、アメリカ国内やカナダへ旅行する際にはダレス空港をよく使いました。というのも、レーガン空港と比べてワシントン中心部から離れていることもあり、運賃が割安に設定されている場合が多かったからです。
ダレス空港はワシントン首都圏交通局(WMATA)地下鉄の路線シルバーラインのワシントン・ダレス国際空港駅前にあり、レーガン空港はイエローラインとブルーラインのロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港駅前にあります。
「動くラウンジ」が敬遠される理由
ダレス空港の「動くラウンジ」は空港のターミナルビルの一角に横付けされるため、停車して乗降口の扉が開いていると空港に設けられたラウンジの部屋のように溶け込みます。しかしながら、自走できるため「動くラウンジ」と呼ばれるようになりました。
ダレス空港の主要旅客ターミナルビル(大塚圭一郎撮影)
外見は白色のかまぼこ形をしており、両端に出入り口があります。北側のターミナルから南側のターミナルへ動く際には、出発前に北端の扉から客を乗せ、到着後は南端の扉が開いて客を降ろします。
4本のタイヤを履き、ディーゼルエンジンで動いており、バスの派生版です。ただ、窓が並んだ壁に沿ってロングシートがあり、立っている客向けにつり革もあるため、通勤電車のようにも見えます。
「動くラウンジ」は独特の形状が注目を浴びてきた一方で、運行頻度が限られるため、航空機の搭乗口に急いでいる利用者らをいらつかせてきました。複数の「動くラウンジ」が同時に稼働しており、進路もさまざまで、航空機が駐機する「エプロン」を通るため、運行時には調整が必要です。
このため運行頻度が限られ、ターミナル間を早く移動したい利用者にとって壁となってきた面もあるのです。
トランプ政権のショーン・ダフィー運輸長官も「動くラウンジ」を毛嫌いしてきた1人です。交流サイト(SNS)「インスタグラム」に「昔ながらのダレス・ピープルムーバー(1962―2026年)よ、さらば。バスだったのか?それとも列車だったのか?誰も知らない。幸いなことに、あなたはもはや不要だ」と切り捨てました。
改修後は、ターミナルの移動に一部使われている地下の新交通システムを延伸して「動くラウンジ」を置き換えます。
そんなダレス空港について、トランプ氏は「世界でも最悪の空港の一つと見なされているが、われわれの努力で最高の空港に生まれ変わらせることができるだろう」と豪語しました。
トランプ氏の肝いり事業が、空港の入り口にある主要旅客ターミナルビルに隣接した場所に3万2000台収容の立体駐車場を建設することです。トランプ氏は現在の立体駐車場は「遠くまで歩かなければならない」とぼやき、改修に伴って「大規模な8階か、9階か、10階かまだ分からないが、ターミナルのすぐ隣に駐車場を建設する」とアピールしました。
トランプの本当の狙いは?
しかしながら、ダレス空港には地下鉄駅が隣接しており、主要ターミナルの近くからウーバー・テクノロジーズやLyft(リフト)のライドシェア(相乗り)サービス、タクシーも利用できます。
ダレス空港に駐機中のユナイテッド航空のエアバスA320シリーズ機(大塚圭一郎撮影)
民主党支持者のアメリカ人男性は「トランプ氏を含めた共和党には『公共交通機関は貧乏人の乗りもの』という根強い差別意識があり、脱炭素化には全く関心がない」と指摘し、「化石燃料が大好きなトランプ氏はマイカーで移動することしか頭にない。何しろ、時代遅れの化石頭だからね」とこき下ろしました。
それでは、トランプ氏がダレス空港を「世界一の空港にする」と訴えて改修に血道を上げてきた狙いは何でしょうか。
アメリカのNBCテレビは、トランプ氏側が「連邦政府の補助金を支出するのと引き換えにトランプ氏の名前を付けることを要求した」と報じました。記事によると、トランプ氏側は全米鉄道旅客公社(アムトラック)や近郊鉄道のロングアイランド鉄道などが乗り入れるニューヨークの主要駅の一つであるペンシルベニア駅にも自身の名前を冠するように求めました。
トランプ氏が連邦政府の補助金を人質にとって改名を要求し、かつ日米安全保障条約作成の中心人物だった故ジョン・フォスター・ダレス元国務長官に由来するダレス空港の名前の“乗っ取り”まで企てたことにアメリカでは批判が渦巻いています。
家業の不動産業で手がけてきたホテルやマンション、カジノ、ゴルフコースなどのあらゆる施設に「トランプ」の名前を冠してきたトランプ氏は、大統領の座という威光を笠に着て悲願だった空港名も既に手中に収めています。共和党が強い保守的な地域である南部フロリダ州ウエストパームビーチの旧パームビーチ国際空港は、2026年8月に「ドナルド・J・トランプ大統領国際空港」へ改称されました。
新名称には反発の声が上がっており、「アメリカ第一」主義を掲げる排他的なトランプ氏の名前は「世界と結ぶ玄関口にふさわしくない」として利用をボイコットする動きも出ていると報じられています。「トランプ」名が付いた空港がこれ以上できれば航空利用者を混乱させるだけでもあり、打ち止めにすることが最善の選択肢なのは火を見るより明らかでしょう。
