激レア? 秋葉原を走る京葉線車両
2021年8月13日(金)夜、ツイッターにアップされた1枚の写真が、鉄道ファンたちを大いに沸かせました。
東京・秋葉原。万世橋交差点(千代田区外神田)にほど近い都道437号(中央通り)をまたぐJR総武線の高架を、赤いラインの描かれた車両が走行している場面です。
鉄道にあまり詳しくない者からすれば何気ない1コマに見えるのですが、実はこれ、非常にレアな光景なのだそう。
「思わず撮影……お許しください」
画像を撮影し投稿したのは、東京を中心に電車などの写真を数多くアップしている東運さん(@shinonome_rs)。
その日は「親のノートPCが不調だったので実機を見て購入しようと秋葉原へ」行ったとのこと。

買い物を済ませた後、牛の顔のロゴマークでおなじみの有名肉料理専門レストランへ。
「総武線が見える席に案内され、ハンバーグを待っていると、突然京葉線が走ってきました。“撮り鉄”のよくない部分が出てしまい、思わず撮影……。お料理が出てくる前だったのでお許しください」
と、投稿画像に当時の状況説明を添えています。
画像の線路は総武線のもの。本来、黄色いラインが車体に引かれた車両が通るはず。一方、今回捉えられた赤いラインは、東京-蘇我駅間を走る京葉線の車両です。
わずか数年に一度の光景だった
東運さんいわく、これはJR東日本の東京総合車両センター(品川区広町)でのメンテナンスを終えた後の出場回送だったようとのことで、見られる頻度はわずか数年に1度ほど。
走行の日時は時刻表やインターネットなどに掲載されないため、眼前に臨むレストランの窓側席でこの光景を見られたのは極めてラッキーなことだったのです。
ツイッターでは、約2000件のいいね(2021年8月16日2時30分現在)とともに、
「これは珍しい!」
「これは撮らずにはいられませんね」
「無理もないです。知らないとなんで? ってなるけれど」
と、共感のリプライ(返信)がいくつも寄せられました。
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鉄道を愛し、また鉄道の写真を撮ることに情熱を燃やし、一眼レフを抱えてさまざまな場所へと“遠征”する通称「撮り鉄」は近年、しばしば世間の注目を集めるようになりました。

レアな運行時にはホームや線路脇に大挙してカメラを構え、理想のアングルが狙えるポジションをめぐって長時間の場所取りをし、と、テレビやインターネットで取り上げられる報道を見る限り、やや極端と感じる事例が多い印象。
つい最近では2021年8月5日(木)深夜、神奈川県藤沢市内で試運転をしていた江ノ島電鉄線を撮影しようと集まった撮り鉄たちが、目当ての車両の前を横切った自転車の男性に「どけ!」などと罵声を浴びせた画像がネットに流れ、物議をかもしました。
撮り鉄を駆り立てるものは何か?
列車の往来を妨害する行為や、一般の通行者や乗客に迷惑を掛ける行為はもってのほかですが、撮り鉄・鉄オタと呼ばれる人たちはなぜ、これほどまでに鉄道やその撮影に魅了されるのでしょう。
前出の「秋葉原の京葉線車両」を撮影した東運さんに、撮り鉄の思いを聞かせてもらいました。
良識派の撮り鉄、東運さんの見解
まず先に明言しておきたいのは、東運さん自身はモラルがありマナーを守る、良識的な撮り鉄であるということ。
自身のツイッターでは、JR東日本が開催した有料の撮影会に参加した際「素晴らしいイベントにご尽力いただいたJR東日本関係者の皆様、本当にありがとうございました」と丁寧な謝辞を書き込んでいます。
前掲の秋葉原のツイートでも、レストランの客席から鉄道の撮影をしたことについて「お料理が出てくる前だったのでお許しください」と、律義に断り書きを付しています。
東運さんが考える、鉄道を撮影する楽しさ、喜びとは、どのような点にあるのでしょうか。
「時代によって変化する車両デザインにこだわりを持つ人もいれば、多くの人によって支えられている『鉄道』というインフラそのものに魅力を感じる人もいます。ですから、何が楽しいのかと問われると、一概に回答しづらいところではあります」
「強いて言えば、東京だけでも数多くの電車が走っているので“コレクション欲”を刺激されるというのは大きなポイントではないかと考えています。私個人は、この部分に楽しさ・面白さを感じることが多いと思っています」
コレクション欲は撮り鉄に限らない
コレクション欲、というのは、ひとつの重要なキーワードと言えそうです。
あるリユース関連事業を展開する企業が過去に行ったインターネット調査によると、何らかのコレクションをしている人の男女別の割合は男性66.4%、女性33.6%と、男性の方が圧倒的に多いとの結果が出ています。
ホビー用品や書籍・漫画、切手、骨とう品、レコードなどをいくつも収集している男性は、身近にひとりやふたり思い当たる人がいるかもしれません。

一方で女性も、例えばお気に入りのコスメや化粧水といった美容アイテムを、あるいは男女を問わず洋服や“推し”グッズなどを、いくつも持っているという人は少なからずいることでしょう。
漫画やキーホルダーや切手やアイシャドウやフィギュアと、鉄道が大きく違う点は、電車は自腹で購入して自宅に保管しておけないもの。コレクションの形態が「写真撮影」へと向かうのも、うなずけるとも言えそうです。
ただ、鉄道撮影に明るくない立場として気になるのは、世の中にはすでに、数えきれないほどの電車の写真があふれているのになぜ、という点。
各鉄道会社のオフィシャル写真から、ポスター、絵はがき、カレンダーまで、美麗な写真はいくらでもあります。なぜ、自分自身で撮影することにこれほどの情熱を燃やすのでしょうか。
この疑問について東運さんは、
「観光名所へ行ったときに、ガイドブックに載っている写真と同じ場所で記念撮影するのと似たようなものだと考えています。自分の足でその場所へ行って、見たものを記録することに喜びを感じるのは、撮り鉄に限った話ではないと思います」。
観光地で写真を撮るのと似た感覚?
それは鉄道以外で例えるなら、東京タワーや東京スカイツリー、浅草・雷門、SHIBUYA109を訪れて、記念に写真を撮るのと同じ感覚。あるいは、ちまたで話題のカフェへ行って、流行のスイーツを注文しスマートフォンで撮影、SNSにアップするのとも近い感覚ということでしょうか。

「電車の場合は、観光名所と違って基本的には“動いているもの”なので、撮影機会が限られてしまうのが難しいところです。気象条件が変わったり、日によって走行する列車が変わったりすることもあります」
「限られた機会のなかで、2度目はないかもしれない貴重な瞬間に立ち会えたことに、喜びを感じるのかもしれません」
マナー・法令の順守は当然のこと
情熱の矛先は違っても、またその情熱の表出の形は違っても、好きなものに接したい、写真に収めて手元に残したい、と感じるのは撮り鉄以外の趣味とも同じ。
最後に、とりわけマナー違反がクローズアップされることの少なくない撮り鉄の現状をどう見ているのか、東運さんに尋ねました。
「マナー違反をしている人が批判されるのは当然です。ただ一方で(きちんとマナーを守っている)無関係な人たちまで巻き込まれているのを見ると、もう少しスマートな方法がないかと考えてしまいます」
「さまざまなケースを見て、自分も迷惑を掛けないよう気を付けています」
マナーや法令の順守は当然のこと。その前提を守ったうえに成り立つ社会は、さまざまな嗜好(しこう)を持つ趣味人たちが互いに尊重し合いながら趣味に猛進できる、楽しく豊かな社会であるはずだと思わされます。
