何があるかよく分からない街?
JR総武線の駅の中でも、際立って「何があるかよく分からない街」である平井駅周辺。
西には亀戸、東には新小岩と、キャラの立った人気の町に囲まれていることも、さらに平井の立場を悪くしています。
ところがこの平井という街は、江戸川区で最も古い商店街のある街であり、住宅地であり、工業地帯でもあり、川に囲まれた豊かな自然があり、歴史ある神社仏閣がいくつもあり、元三業地でもあるという、調べれば調べるほどに奥深い面白い土地なのです。

今回はこの掘れば掘るほど謎が深まる平井駅周辺を紹介します。
●立地
平井は江戸川区の街で、南端が京葉道路に面しており、それ以外の三方は旧中川と荒川に取り囲まれているという、非常に珍しい地形になっています。
特に旧中川は墨田区との境界で陸地を分断するように鉤爪(かぎづめ)状に食い込んでおり、地図で見るだけでもその特殊性がひと目で分かります。
こうした特徴的な地形から、水害のリスクは常に考えておかねばならず、江戸川区が発行している「水害ハザードマップ」では、もしもこの辺りで大規模な水害が起きた場合、浸水の深さは5~10m未満、想定される浸水時間は1~2週間とされています。
区の約7割が海抜ゼロメートル地帯である江戸川区にあっても、特に防災の備えが必要なエリアだと言えるでしょう。
いきなり不安要素から書いてしまいましたが、水害リスクの要因である荒川や旧中川の周辺には公園や緑地として整備された場所が多く、そのおかげで23区内とは思えぬほど自然豊かで空が広い、のんびりとした時間が流れる街になっています。
平井エリアの陸路の中心となるのは、南西から北東方向に伸びる蔵前橋通りと、南東から北西方向へ伸びる ゆりのき橋通りです。このふたつの道路は平井駅の東にある平井大橋西詰で交差しており、それぞれ亀戸~新小岩、墨田区北部~大島・小松川をつないでいます。
区内最古の商店街がある!
ただし、どの方向に進むにしてもいずれ必ず川にあたるため、電車を使わず陸路で移動する場合は、どこかで橋を渡らねばならないのですが、平井エリアはぐるっと川に囲まれているにもかかわらず、全体でも数か所しか橋がありません。このため陸の孤島感がとても強く、平井のどこに住むかによって利便性に大きな差が出る可能性があります。
名所旧跡に関しては、特に際立っているのは神社仏閣の多さだと思われます。
平井駅の南側、平井1丁目の逆井公園付近に大小さまざまな神社仏閣が密集しているほか、平井駅の北側には平井聖天として有名な燈明寺(とうみょうじ)が、そのすぐ南側には平井諏訪神社があり、どちらも広い敷地を維持しています。

それ以外でも亀戸寄りの2~3丁目にも複数の神社やお寺があり、7丁目にも天祖香取神社があることから、この一帯がどれほど長い歴史を持つ土地なのかがうかがい知れます。
●商店街と特徴
立地や地形の説明の時点でかなり“ピーキー”な街だということが伝わったと思いますが、この平井には江戸川区で最も歴史が古い商店街があり、実は区内でもかなり早く都市化が進んだエリアでもあるのです。
平井一帯は大正時代の関東大震災(1923年)の被害が比較的軽微で、そのため被害の大きかった他地域から流入する人が増え、繁華街・歓楽街として急成長したという歴史があります。
その代表的な存在が、平井駅南方にある「平井親和会」や「さくら通り春日町商店会」などです。これらの商店街は1本道でほぼつながっており、平井駅からずっと南の京葉道路まで、鉄道駅にして1~2駅分ほどの距離を誇っています。
1930年代頃には、ここが江戸川区内で最大規模の商店街でした。
その頃の平井にはもうひとつの特徴があり、それは花街(三業地)としても栄えていたという点です。置屋が45軒、待合が30軒以上、芸妓は約250人となかなかの規模で、日本橋エリアの若衆が、人目につかないよう、わざわざ平井の歓楽街まで遊びに来ていたという記録も残されています。
ただし、今も平井駅のすぐ南に現存している商店街群と比較すると、三業地の名残はほとんど消えてしまっており、かろうじて駅の南西側にそれらしい建物が1~2軒残っている程度です。
総武線の中でも混雑区間
商店の密度や内訳としては、駅に近い親和会は正統派の生活型商店街として栄えており、生鮮3品をはじめお茶や生活雑貨など、さまざまな専門店が生き残っています。
それと比較すると、駅から遠い京葉道路寄りの春日町商店会辺りは飲食店街化が進んでおり、またシャッター頻度も高めで、商店の密度的に少々寂しさを感じさせます。
買い物環境としては、ゆりのき橋通りと平井駅通りを中心としてコモディイイダ、オリンピック、肉のハナマサなどが点在しており、それらに加えて個人商店系の小規模スーパーも各地に散らばっています。
平井の西端である蔵前橋通りの江東新橋付近には島忠ホームズ平井店があり、生活の足として自転車があれば、買い物場所に困ることは少なそうです。
街を見て回っていて少々気になったのが、銀行やATMの数が足りないのかなという点です。時間のせいかもしれませんが、どこのATMにも行列ができていたので、計画的に現金を管理しておかないと、いざという時に不便があるかもしれません。
●交通機関
交通機関として最も頼りになるのはJR総武線でしょう。平井駅からだいぶ北西に進むと京成八広駅もありますが、ここを徒歩移動で最寄り駅にできるのは平井の北部地域に住む場合だけになりそうです。

ただ、八広駅を通る京成押上線は都営地下鉄浅草線と直通運転しており、東は成田空港、南は羽田空港までつながっているという魅力があり、活用できれば非常に心強い存在です。
それと覚えておかねばならないのが、総武線は都内を走る電車の中でも混雑度ワースト1だということです。
朝の通勤ラッシュは7~9時辺りがピークで、新小岩駅から秋葉原駅までが特に混雑します。夕方の混雑ピークは18~19時で、同じく秋葉原駅を過ぎて錦糸町駅から新小岩駅までの区間が最も混雑します。
これは千葉方面のベッドタウンから都心へ向かう人、もしくは乗り換え駅である秋葉原を経由して千葉方面へ帰る人が集中するためで、新小岩駅の隣である平井駅は常に通勤ラッシュの影響を受けてしまいます。
また、度を越した混雑のせいで遅延も多く、ほぼ毎日どこかで遅延が起きているといった印象を受けます。総武線ユーザーとして生活するのであれば、これは頭に入れておいた方がいいでしょう。
家賃はかなりお得感!
<主な駅への所要時間>
※平井駅からJR線を使う場合
・秋葉原:12分
・東京:16分
・上野:18分
・品川:30分
・新宿:30分
・池袋:33分
・渋谷:37分
※八広駅から京成線を使う場合
・浅草:10分
・東京:28分
・品川:30分
・羽田空港(第1第2ターミナル):46分
・成田空港(空港第2ビル):57分
●家賃相場
平井駅周辺の家賃相場と、その他の総武線沿線の家賃相場の比較は次のようになっています(住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」参照)。
・ワンルーム
平井:6.16万円
亀戸:8.45万円
新小岩:6.58万円
西船橋:6.66万円
・1K
平井:7.10万円
亀戸:9.19万円
新小岩:7.34万円
西船橋:6.96万円
・1DK
平井:7.78万円
亀戸:10.05万円
新小岩:7.78万円
西船橋:8.14万円
・1LDK
平井:9.52万円
亀戸:14.13万円
新小岩:10.08万円
西船橋:10.45万円
・2DK
平井:12.18万円
亀戸:11.45万円
新小岩:9.64万円
西船橋:8.09万円
間取りは関係なく、全ての物件の平均家賃を出すと次のようになります。
・平井:6.87万円
・亀戸:8.44万円
・新小岩:6.90万円
・小岩:6.34万円
・西船橋:7.24万円
このことから、平井駅周辺はベッドタウンとして名高い小岩・新小岩と同レベルで、千葉県の西船橋駅周辺よりも家賃相場が安いということが分かります。
駅周辺の栄え方を加味すると分が悪くなりますが、額面だけを考えればリーズナブルに生活できるエリアだと言えそうです。
犯罪発生件数も少なめ
●犯罪発生件数
次に、警視庁の「犯罪情報マップ」を元に平井エリアの犯罪発生状況を調べてみます。
<犯罪発生件数(2020年)>
・1丁目:A(1~25件)
・2丁目:A(1~25件)
・3丁目:B(26~67件)
・4丁目:A(1~25件)
・5丁目:B(26~67件)
・6丁目:B(26~67件)
・7丁目:A(1~25件)
比較対象として、錦糸町・新小岩・小岩駅などは、駅周辺の繁華街の犯罪発生件数が比較的高く、Cランク(年間68件~155件)エリアが存在するのに対し、平井駅周辺は駅周りであってもそこまで犯罪発生率が高くありません。

<被害別犯罪発生件数(2020年)>
・ひったくり:0件
・侵入窃盗
4、7丁目:1~2件
6丁目:3~5件
・車上ねらい
4丁目:1件
2、5丁目:2~3件
・自転車盗
1~2、6丁目:1~9件、
3~4、7丁目:10~23件
5丁目:24~49件
・粗暴犯
5~7丁目:1~4件
3丁目:5~13件
・万引き
1、3、5~7丁目:1~10件
2丁目:11~36件
・特殊詐欺
4~7丁目:2~3件
3丁目:4~6件
このように、平井では凶悪な犯罪はほとんど起きておらず、駅のある5丁目での自転車盗難や、商業エリアやスーパーマーケットのある場所での万引き被害などが少々見られる程度です。
しかし件数こそ少ないものの特殊詐欺(いわゆる「オレオレ詐欺」)が満遍なく発生していることから、平井一帯は老人のみで生活している世帯が多く、狙い撃ちされたのではという考え方ができます。
子育て世代におすすめな街
●メリット・デメリット
以上のデータを元に判断すると、平井駅周辺は家賃が安く、とてものんびりとした安全な街であると評価できます。旧中川や荒川周辺の緑地帯や公園は子供の遊び場として便利で、点在する橋を別とすれば坂道も少なく(平井~小松川エリア内に限れば)移動は快適です。
そうした点を評価すると、子育て環境としては非常に優れていると言えます。
ただし平井は各エリアごとに特徴が大きく違うため、住環境を選ぶ場合は下調べが必要です。
1丁目:住宅地、商店街
2丁目:住宅地、商店街
3丁目:駅南口、住宅地、商店街
4丁目:住宅地、商店街
5丁目:駅北口、飲食店街、住宅地
6丁目:住宅地、工場地帯
7丁目:住宅地、工場地帯
ざっくり分けるとこのようになり、駅の南側は住宅地と商店街が中心になっており、北側の6~7丁目はゆりのき橋通り沿いや川沿いに大きめの工場が多く、郊外型の町並みになっています。
また、住宅地には道路が整備されていない場所が残っており、一部には行き止まりや車両通行に難のある路地があります。それに築年数の経った小さな建物・住居が密集している場所もあるため、そういったエリアでは火災に注意すべきでしょう。
この街の最大のデメリットは、冒頭に書いてしまいましたが水害リスクの高さで、これは平井に限らず江戸川区全体が直面している問題でもあります。自然豊かな住環境と引き換えのリスクだと言えますが、万が一のための避難経路の確認などは欠かさないようにしてください。

それと、最後にこの街の最大の“特徴”(もやもやポイント)について書かせていただきたいのですが、川(特に旧中川)に圧迫されているせいで鉄道駅と道路がキレイに交わった普通の町並みが造りにくいのか、街の中心点がどこなのかイマイチ分かりません。
これは平井駅のある場所が、蔵前橋通り、ゆりのき橋通り、古くからの商店街といった生活の動線から微妙にズレていることに起因していそうです。
しかし、こういうピーキーな要素のおかげで大規模な開発が起きず、今ののんびりした平井が維持できたとも考えられるので、痛しかゆしだと言えるでしょう。
