現代人は「鉄分」が不足しているといわれており、積極的に摂取するよう推奨されています。そもそも、鉄分にはどのような働きがあるのでしょうか。「女性は鉄分が不足しやすい」といわれていますが、本当なのでしょうか。
鉄分不足で生じる可能性がある症状のほか、鉄分を効率的に摂取する方法などについて、著書に「人生を好転させる2-week鉄活」(幻冬舎)がある、広島ステーションクリニック(広島市東区)理事長で、医師の石田清隆さんに聞きました。
鉄分不足で「肌」「睡眠」に悪影響
Q.そもそも鉄分には、どのような働きがあるのでしょうか。
石田さん「鉄分の主な働きは次の4つです」
(1)酸素の運搬(Oxygen Transportation)
(2)神経伝達物質の合成(Neurotransmission)
(3)コラーゲンの合成(Collagen Synthesis)
(4)エネルギーの産生(Energy Production)
私は、これらの頭文字を取って「ONCE」と名付けました。
Q.鉄分が不足すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
石田さん「鉄分が不足すると、先述のONCEの働きが弱まるため、次のような状態となり、さまざまな症状を引き起こす可能性があります」
【酸素不足】
鉄分不足により酸素が全身に運べなくなると、酸欠症状として息切れや動悸(どうき)が起こります。また、酸素が脳に運ばれないと立ちくらみや頭痛が生じるほか、筋肉に酸素が運ばれないと肩こりが起こりやすくなります。
【神経伝達物質が不足】
鉄分が足りないと、神経伝達物質であるセロトニンやメラトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンが合成できません。
神経伝達物質を調整するセロトニンがないと心が不安定になり、うつやパニック症状になりやすくなるため、注意が必要です。また、睡眠の神経伝達物質であるメラトニンが合成されないと、睡眠が浅くなって、寝ている途中に起きたり、変な夢を見るようになったりします。
このほか、ドーパミンが合成されないとやる気が起きないほか、ノルアドレナリンが出ないと集中力が欠けるようになります。
【コラーゲン不足】
鉄分が不足すると、コラーゲンが合成されにくくなります。その影響で、肌が乾燥してカサカサしたり、ニキビが治りにくくなったりします。また、爪がもろくなって割れやすくなったり、髪が細くなり、抜けやすくなったりします。また血管の壁も弱くなり、あざ(内出血)ができやすくなります。
【エネルギー不足】
鉄分が不足すると、エネルギーがうまく作れなくなります。その影響で疲れやすく、朝起きにくくなるほか、夕方にはエネルギーが切れてしまい、休まないと動けなくなります。また、エネルギーが不足すると、冷え性になりやすい傾向にあります。
Q.「女性は鉄分が不足しやすい」といわれていますが、本当なのでしょうか。理由も含めて、教えてください。
石田さん「本当です。私たちは、1日に10~15ミリグラムの鉄分を食事から取り、そのうち1ミリグラムの鉄分を体内に吸収しています。それと同時に、1ミリグラムの鉄分を便や尿、汗によって排せつしており、鉄分の吸収量と排せつ量はほぼ同じで、バランスが取れています。
ただし、女性は月経による出血によって、鉄分を失ってしまいます。月経の出血量は、1カ月当たり平均約60ミリリットルといわれていますが、この中には30ミリグラムの鉄分が含まれています。
つまり、月経のある女性が1カ月当たり30ミリグラムの鉄分を吸収したとしても、ほぼ同量の鉄分が排せつされるほか、月経による出血でさらに30ミリグラムの鉄分が排せつされるため、鉄不足になりやすいのです」
Q.鉄分はどのような食材に多く含まれているのでしょうか。鉄分を効率的に摂取する方法も含めて、教えてください。
石田さん「食事の中に含まれる鉄分は、肉や魚などに含まれる『ヘム鉄』と、ホウレンソウや卵に含まれる『非ヘム鉄』に大きく分かれます。レバーは鉄分が豊富な食品です。例えば、豚レバーは100グラム当たり13ミリグラム、鶏レバーは100グラム当たり9ミリグラムの鉄分をそれぞれ含んでいます。
レバーは鉄分だけでなく亜鉛やビタミンAなども豊富で、栄養価に優れた食品ですが、苦手な人も多いのではないでしょうか。そこで、私の1番のお勧めは赤身の肉を食べることです。肉の赤色は、細胞の中のミトコンドリアの鉄分を反映しており、赤身の牛ヒレ肉は鶏の胸肉より鉄分を多く含みます。
中でも、馬や鹿、イノシシといった、いわゆるジビエ肉は赤みが強く、含まれている鉄分の量も多くなっています。鉄分の含有量ですが、馬肉は100グラム当たり4.3ミリグラム、鹿肉は100グラム当たり3.9ミリグラム、イノシシは100グラム当たり2.5ミリグラムです。
魚は肉と同様、赤身のマグロやカツオなどに鉄が多く含まれています。ただ、マグロなどの大型の魚はメチル水銀も多く含まれているため、妊活中の女性にはお勧めできません。
非ヘム鉄は、タンパク質と結合していない無機鉄です。納豆や豆腐といった大豆加工品のほか、小松菜やホウレンソウなどに多く含まれています。実は、卵も非ヘム鉄の食品に分類されます。
調理の際は、鉄のフライパンや鍋を使うのも有効です。その際、酸味がある物を加えると、食材に含まれる鉄分をより引き出せるため、トマトや酢を使った料理がお勧めです。
ただ、多くの人は、食事だけで十分な鉄分を摂取することが難しいですね。特に、生理出血量が多い人や妊娠・授乳中の人、成長期のお子さま、肉が苦手な人は、どうしても鉄不足になりやすくなります。
その場合は、鉄剤のサプリメントを使用することが非常に有効です。お勧めは、『ヘム鉄のサプリメント』です。症状に合わせて、サプリメントで1日に10~20ミリグラムの鉄分を摂取すると、症状が改善するケースが多いです。
保険診療で使用される無機鉄の処方薬のほか、自然界には存在しないアミノ酸キレート鉄のサプリメントは、鉄過剰になったり、炎症を起こしやすくなったりするため、注意が必要です。
鉄分を上手に取ると元気で疲れにくくなるほか、肌もきれいになります。それにより、心も安定し、人生は好転します。ぜひ鉄分の摂取を心掛けてみましょう」
オトナンサー編集部