連日「熱中症警戒アラート」が発令されている7月。この時期は人間だけでなく、ペットの熱中症にも注意する必要があります。猫とともに暮らしている人の中には、暑さによる愛猫の体調を気にする人も多く、「猫も熱中症になるの?」「体調不良の見分け方が分からない」など、疑問の声が多く聞かれます。
飼い主が知っておくべき「猫の熱中症」リスクや見分け方について、ますだ動物クリニック(静岡県島田市)院長で獣医師の増田国充さんに聞きました。
口を開けて呼吸している=高体温
Q.そもそも、猫も「熱中症」になるのですか。
増田さん「はい。猫も、人間や犬と同じように熱中症になることがあります。熱中症になるメカニズムもほぼ同様で、著しい高体温状態が続くことによって正常な内臓機能の維持ができなくなります。体温が41度以上になると、身体を構成するタンパク質が変性します。ゆで卵を冷やしても生卵にならないのと同様に、不可逆的なものなのです。
哺乳類は、外部の温度に変化があっても体温を一定に保っています。体温が高くなった場合に、人間は汗をかくことで体を冷やします。猫は肉球周辺で汗をかきますが、人間の発汗と比べ、十分な冷却をするには限界があります。そのため、『パンティング』という呼吸で呼気から熱を逃がします。
パンティングは犬が興奮しているときに行う浅く速い呼吸ですが、猫では高体温あるいは極度の緊張状態でみられることがあります。体を触って熱があり、パンティング呼吸をしているときは要注意です。また、これらに加えて、吐き気や下痢、ふらつきがみられることがあります。重症化すると意識がもうろうとし、命を落とす危険もあります」
Q.夏場、自宅の中で過ごしている猫の様子がおかしくなったとき、熱中症なのか、それ以外の症状なのかを見分ける方法はありますか。
増田さん「猫は、犬と比べると比較的暑さに対して耐えうる動物種といわれますが、もちろん限界があります。もともと暑く乾燥した地域にいたことがルーツといわれますが、残念ながら室内であっても猫が熱中症になる事例は存在します。体の変化にいち早く気付くことで救える命があるということを知っておくのが重要です。
猫が口を開けて呼吸している状態は、高体温であることが考えられます。体を触って熱さが感じられる場合、明らかに元気がなくなっている場合は熱中症の可能性があるかもしれません。特に、おなかや、首から頭にかけて熱さが感じられるとき、歯茎や舌の色が鮮紅色のときは、体内にかなりの熱を持っている可能性が考えられます。重度の場合は『チアノーゼ』と呼ばれる状態で、粘膜の色が紫色になり、かなり危険な状態になっているサインです」
「水を飲ませる」ときも要注意
Q.愛猫に、熱中症と思われる症状・様子がみられた場合、どうすればいいですか。
増田さん「迅速に行うべきは『体を冷やすこと』です。血液、特に動脈血を冷やすことで、脳や重要な臓器の熱による損傷を抑える必要があります。首周辺や脇、『そけい部』と呼ばれる後肢の付け根などを重点的に冷やすことが推奨されます。冷たいタオルや保冷剤、現在はネッククーラーが普及してきたので、これを活用してもよいでしょう。ただし、あまりに冷たすぎると、血管が収縮してしまうことがあるため注意が必要です。
水を飲ませることも対策の一つとなりますが、あくまでも『猫が水を飲める状態かどうか』の判断が重要です。意識がもうろうとしているようなときに無理矢理、水を飲ませようとするのは危険を伴います。
同時に、猫の状況を動物病院に知らせておきましょう。そうすることで、スムーズに熱中症の治療を始めることができ、回復への近道になります」
Q.近年の猛暑・酷暑により、人間だけでなく猫の熱中症リスクも上がっていると思います。愛猫が熱中症にならないように、飼い主は普段からどのようなことに気を付けるべきでしょうか。
増田さん「先述のように、猫は犬よりも比較的暑さには強いといわれてはいますが、年齢や、持病の有無といった猫自身の要因、あるいは生活環境による要因などにより、熱中症に至ることがあります。
猫にとって夏場は温度20~25度くらい、湿度50~60%程度の環境を維持することが推奨されています。また、人間と同様に『体感温度』にも気を配ることが重要です。温度や湿度のほか、風通しをよくしておくことや直射日光が当たらないようにするなど、猫の行動範囲の中でも暑さをしのげるスペースを確保しましょう。
いつでも新鮮な水が飲めるようにしておくことも重要です。時折、冷房を避け、わざわざ暑さのある場所でくつろいでいることがありますが、特に体温調節機能が衰える老齢の猫がご家庭にいる場合は、快適な環境を整えるほか、日々の食事の量や水の取り方などにも気を配りながら健康状態をチェックしておきましょう。暑い夏はまだ続きますが、熱中症にならないようお過ごしください」
オトナンサー編集部