飛行機が都心上空を飛行するように
2020年4月から、羽田空港(大田区羽田空港)を利用する飛行機の新ルート運用が始まりました。
新ルートは国際線増便に対応するためで、南風が吹くときに限って従来の東京湾上空とは別に、都心上空を飛行するというものです。
ただ新型コロナウイルスの影響で国際線の本数そのものが減少したこともあり、現在はさほど活発に使われていません。
初利用は南風の吹いた4月3日(金)となりました。この日は15時15分から約2時間40分の間に、着陸が68便、出発が36便使われました。
騒音に対する苦情の声も
さて羽田空港の国際便増加へ対応するために導入された新ルートですが、人口の多い都心上空を通過することもあり、懸念の声も上がっています。
事故の可能性がゼロではないこともその理由ですが、もっとも危惧されているのは騒音です。飛行ルート周辺の地域では、運用前に行われたテスト飛行の際から騒音に対する苦情が絶えませんでした。
とりわけ騒音が問題視されているのは、南風時の着陸ルートです。運行時間帯は15~19時のうち、3時間程度と限定されていますが、現在、1時間あたり14~30回の飛行が想定されています。
飛行機の高度は新宿付近で約915m、渋谷付近では610mです。実際はこれより少し高い高度で飛行していますが、騒音は63~70dB程度。だいたい、窓の近くで電話のベルの音が鳴る程度の大きさです。
前述の通り、現在は新型コロナウイルス感染拡大で運航本数が激減しているため、あまり問題になっていませんが、運行本数が回復したら再び議論が高まりそうです。
浮かんでは消えた「第3の空港」案
さまざまな問題を抱えながらも新ルートの使用が開始された理由は、羽田空港と成田空港の需要が逼迫(ひっぱく)しているためです。
現在、羽田空港は4本、成田空港は2本の滑走路が運用されています。成田空港は2019年、2030年をめどに3本目の滑走路を新設する計画を示しましたが、これでも十分とは言えないのです。
1990年代から、首都圏の空港がパンクする可能性は予測されていました。そこでたびたび検討されてきたのが、「第3の空港」を建設する計画です。
新しい空港を作る場所を巡っては無数の案が浮上し、そして消えていきました。海ほたるパーキングエリア(千葉県木更津市)からアクセスできるようにするという案や、同じく千葉県の九十九里沖合の埋め立て案、神奈川県金沢区の沖合埋め立て案などなど。
国土交通省のサイトには、これまで提案された候補地の一覧が掲載されています。
これはあくまで構想のため、かなりとがった案が多くなっています。海ほたるを利用する計画では巨大なメガフロート(浮島)をつくって滑走路にすることが提案されています。
西多摩に「最上階が着陸帯の3層構造体」
また、アイデアが際立つのは西多摩に新空港を建設する案です。
ここでは「最上階が着陸帯の3層構造体」を建設し、3200mの滑走路を2本建設するとしています。つまり、屋上に滑走路がある超巨大な3階建ての建物というわけです。完成すれば、なかなか壮観です。名作マンガ『エリア88』に出てきた、地上空母のような雰囲気かもしれません。
とはいえ、提案者も「新技術の使用、技術開発が前提」としており、とても実現は困難なようです。
いずれにせよ、空港を新たに建設するには大規模な投資が必要です。しかし成田空港でいまだに反対運動が続いていることから見ても、内陸部への新空港の建設は困難なため、海上空港になることが必至です。
そのため、政府が2000(平成12)年に設けた「首都圏第3空港調査検討会」は羽田空港の拡張で対応することを決めました。その間にも、在日米軍が使用している横田基地(福生市福生)の軍民共用化案も出ましたが、こちらも実現しませんでした。
2010年開港、茨城空港の存在感
そうしたなか、にわかに存在感を示すようになったのが2010(平成22)年に開港した茨城空港(茨城県小美玉市)です。
航空自衛隊の百里基地(同)の一部を民間に転用して建設された茨城空港ですが、開港当初は赤字必至の空港でした。東京から車で1時間半。最寄り駅から10km以上離れた「陸の孤島」のような場所にあったからです。
当初は、定期便がスカイマークの神戸線のみでスタートした茨城空港ですが、国際線需要が堅調な伸びを見せます。2010年10月に中国の春秋航空が上海線を就航させたのを始め、韓国やソウルへと路線は拡大していきます。
2010年度に20万3070人だった利用者は、2019年に76万402人まで伸びを見せ、この内、59万4853人が国際線利用者という、もはや国際線のための空港となりました。
利用者が伸びた理由は、使用料が安く、その分運賃も安くなるから。茨城県の支援によって、東京駅から空港までのアクセスバスが飛行機の利用者に限り、500円で利用できたことが挙げられます。
出国前からすでに海外気分
また国際空港にもかかわらず、ローカルな雰囲気であることも人気の理由になりました。なにしろ荷物検査は1か所のみで、免税店は駅の売店程度の規模。ターミナルから飛行機までは徒歩なのです。
とりわけ中国便の利用者が大半だったためか、東京駅のバスの案内も中国語対応のみで、出国前からすでに海外に行った気分を味わえます。
こうして首都圏第3空港として急速に成長しつつあった茨城空港ですが、新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けています。
海外分は全便運休。国内便も5月22日(金)まで運休となっており、空港そのものがほぼ休業となっています。
観光客の増加もあって、ここ数年はにぎわっていた首都圏の空港。そのにぎわいが早く戻ってほしいと願ってやみません。