かつては手堅かった書店業界
いつでも本が買えるネット書店に押され、日本国内の書店数は減少傾向にあります。日本出版インフラセンター(千代田区神田神保町)のデータによると、2010年度に全国で1万6974店だった書店数は、2020年8月時点で26%減の1万2522店まで落ち込んでいます。
1990年代以前、書店は「真面目に店を開けていればつぶれない」手堅い商売と言われていました。
しかし1990年代以後、コンビニが雑誌や単行本を広く扱うようになり、中小規模の書店は次第に姿を消していくことに。そんなコンビニも、今ではネット書店の影響で雑誌や単行本の取り扱いを減らしているのが現状です。
しかしコロナ禍の余波で、書店を訪れる人が昨今増えているようです。もしかしたら、人々はこれを機に、すてきな本との偶然の出会いを求めているのかもしれません。
ジュンク堂書店の登場
書店はとてもワクワクする場所――そんなブームが東京を中心に巻き起こったのは、1990年代半ばでした。
前述のとおり、中小規模の書店が数を減らしていた時代に地価下落や規制緩和を見て取った大手チェーンや異業種参入の大型書店が相次いで誕生したのです。
契機となったのは1997(平成9)年に池袋にオープンしたジュンク堂書店池袋本店(豊島区南池袋)です。

同店は当初、3000平方メートルの店舗面積を売りにして、「図書館よりも、もっと図書館」というキャッチフレーズを掲げていました。
9階建てのビルを利用した店内では、売れ筋はもちろんのこと、専門書やマニアックな本も手に入れることができたのです。
当時、ネットはまだ普及しておらず、探している本を手に入れるには書店を訪れて在庫検索をするのが当たり前でした。
普段は池袋を訪れない人も、神保町あたりの書店を回って「在庫がないから池袋に行こう」と御茶ノ水駅から地下鉄丸ノ内線に乗る――本が好きな人の新たな流れがここから生まれました。また店内の椅子で「座り読み」できるというのも、当時は物珍しかったものです。
強烈な個性を放つ書店であふれていた90年代
このジュンク堂書店とともに1990年代の大型書店ブームをつくったのが、1998年6月にオープンしたブックファースト渋谷店(2007年10月閉店)です。

それまで、渋谷には大盛堂書店という大型店がありましたが、それとは異なる雰囲気がありました。
文化村通り沿いに立地し、東急百貨店本店(渋谷区道玄坂)の真向かいのビルだけあって、書店に入っただけにもかかわらず自分がオシャレになったと感じる独特さを放っていました。
実際、照明の明るさがフロアごとに微妙に異なるといった、かなり凝ったオシャレな演出をしていたのです。
そうした演出もあってか、ほかの大型書店とは異なり、デートの途中に立ち寄るカップルがとても多い書店としても知られていました。
ちなみにブックファーストは阪急電鉄系列ですが、ブックファースト渋谷店が当時入居していたのは東急のテナントビル。関西私鉄の雄が、東京私鉄の雄のビルに入居することが興味を引き、開店前から話題になるエピソードもありました。
そのほかにも、アート系の本が多かったリブロ池袋本店(2015年7月閉店)や、サブカルチャー系の本であふれていたパルコブックセンターなど、都内にはとにかく個性が強烈な書店が軒を並べていた時代でした。
本好きが使いこなしたガイド本
そんな時代に、本が好きな人は東京の数ある書店や古書店の情報をどうやって得ていたのでしょうか。
ツールとしてもっともよく使われていたのは、書籍情報社が毎年刊行していた『東京ブックマップ―東京23区書店・図書館徹底ガイド』です。

1985(昭和60)年から2005(平成17)年まで刊行されていたこの本は、新書サイズで新刊書店と古書店に加えて、専門図書館の情報までが掲載されており、本が好きな人、本を探している人には欠かせないものでした。
なにしろ膨大な情報を新書サイズに収めるため、それぞれの書店や図書館などの特徴・得意な分野などが簡潔な記述で網羅されていました。これが一冊あれば、東京の書店巡りができるという、とても価値のある本でした。
今は古書店でもネット検索を使って、ピンポイントで欲しい本を見つけられる時代です。しかし、意外な本に偶然出会う楽しみも失わないでおきたいものです。
