「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(座長:脇田隆字・国立感染症研究所所長)は感染拡大について、次のように警鐘を鳴らしています。
「感染源が分からない患者数が継続的に増加し、こうした地域が全国に拡大すれば、どこかの地域を発端として、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねないと考えています」。油断していると感染者数が一気に爆発的に増加し、「医療崩壊」を招きかねないのです。
その後は、景気失速の影響を注視しなければいけません。政治家や公務員は休職になっても報酬は保証されます。しかし、労働者はそうはいきません。喫緊に備えなければいけないのです。
「正社員」の地位とは何か
企業が業績悪化に陥った場合、非正規社員など基盤が弱い人ほど深刻な状況に陥ります。正社員は、期限の定めがない雇用契約なので簡単に解雇できません。「解雇の4要件」を満たさない限り裁判で負ける可能性が高いからです。
1.人員整理の必要性
2.解雇回避努力義務の履行
3.被解雇者選定の合理性
4.手続の妥当性
整理解雇であっても手続きの妥当性が問われます。正当な手続きを踏まない限り、無効とされる可能性が高いのです。そこで、人員整理の対象はまずは非正規社員に向かいます。非正規社員は、契約期間が過ぎてしまえば労働者でなくなるからです。パートも同じで、短期契約期間が満了すれば更新される保証はまったくありません。
判例では「非正規は正社員より先行して解雇される」ことが明文化されています。正社員を整理解雇するには、非正規の解雇を先行させなければいけないという判断が示されているのです。地位は正規と非正規で大きな差があります。
企業が労働者の整理を行う場合、まずパートタイムを先にして、その後、フルタイムの労働者に及ぼすべきものであり、それを逆にすることは原則、許されないとされています。労働者は業務の内容、採用時のやりとり、契約更新の回数、更新手続きをしっかり確認する必要があります。
助成金は期待できるのか
さまざまな活動の自粛が続く中、安倍晋三首相は「休職に伴う所得の減少にも、新しい助成金制度を創設することで、正規・非正規を問わずしっかりと手当てしてまいります」と発言しました。その後、助成金の対象と範囲が公開されましたが、どれくらい期待できるのでしょうか。ポイントは次の一文に集約されます。
「保護者が休む場合については、非正規で働く方も含めて、賃金を支払った企業に対する助成金を創設することにしております」
注意しなければならないのは、助成金は個人に支払われるものではないということです。振込先は企業になりますから、賃金は企業ごとの判断になります。
労働契約には「ノーワーク・ノーペイの原則」が存在します。労働者による労務提供と、使用者による賃金支払いという双務契約で成立する考え方です。仕事をしていない場合、請求権は生じません。
新型コロナウイルスの影響で経営に影響が生じた場合の賃金支払いの有無は、各企業が考えることになります。ノーワーク・ノーペイの原則にのっとれば、賃金支払いの義務はないため、賃金を支払わない企業が続出すると筆者は予想しています。
また、助成金を受け取るには審査に受からなければいけません。助成金は審査が通るのに数カ月、場合によっては通らない可能性もあります。それ以前に、経営のダメージが大きければ企業は倒産します。そのため、労働者は助成金に期待すべきではありません。
労働者は「個」の力を高めよ
コロナ不安がさらに進行すると、信用不安による支払い拒否や資金回収が発生する危険性がありました。政府は早急に危機関連保証制度を発動し、資金がスムーズに提供されるようにしました。この流れは一定評価できるものと考えています。
イベント中止、コンサート中止、大型テーマパークは休園、セミナーや研修も中止、結婚式も中止、卒業式も中止…今後、影響はさらに大きくなるでしょう。リスクに対峙(たいじ)するには「個」の力を高めるしかありません。自分で稼ぐことの大切さを考えさせられます。
コロナショックは個人事業主やフリーランス、非正規、正社員へと波及していきます。影響度が大きければ、正社員も今の身分を失うことになります。高みの見物をしていられるのは、政治家と公務員くらいのものでしょう。われわれ一般人は今のうちに、防衛策を考えておくことが必要なのです。
コラムニスト、著述家、明治大学サービス創新研究所研究員 尾藤克之