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地面師詐欺事件のあった積水ハウスで何が起きていたのか?

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住宅メーカー、積水ハウスが2017年6月に「地面師」グループから55億5900万円を騙し取られた事件があった。なぜ、見抜けなかったのかと当時、疑問に思った人も多いだろう。

本書「保身 積水ハウス、クーデターの真相」は、その事件の原因究明の裏で、同社で起きた「クーデター」の真相に迫ったものだ。「解任」「事件」「不正」「暗闘」「隠蔽」「腐敗」など、おどろおどろしい章タイトルが並ぶ。企業のガバナンスに関心のある人に勧めたい本である。

「保身 積水ハウス、クーデターの真相」(藤岡雅著)角川書店

2兆円企業の会長が解任された

まず、地面師詐欺事件から振り返ろう。積水ハウスの地面師詐欺被害は、2017年6月9日、東京法務局に東京・西五反田にある海喜館の土地の「所有権移転登記」が却下されたことで発覚した。積水ハウスは警察に通報し、発覚から2か月後に被害を公表した。2018年10月以降、17人が逮捕された。

同社の調査対策委員会は、以下のような極めて厳しい文言で、詐欺被害を招いた経営陣を批判している。

「本件は、不動産を専業とする一部上場企業が、55億5千万円という。史上最大の地面師詐欺被害にあったということである。また、被害金が裏社会に流れたと推定される。大手金融機関が振込詐欺で甚大な被害を受けるのと同じで、通常起こりえないことであり、絶対にあってはならないことである」

この調査報告書が提出された取締役会(2018年1月24日)で、阿部俊則社長は責任を一切問われず会長に就任、和田勇会長だけが退任した。円満な世代交代のように演出されたが、それから3週間後、日本経済新聞の電子版が「実は『解任』だった...積水ハウスの会長交代」とスクープ。「週刊現代」記者の藤岡雅さんが動き出す。すぐに関西に住む関係者を直撃、和田氏と阿部氏を軸とする本書の長い取材が始まった。

売上高2兆円に成長した住宅メーカーの隆盛史から説き起こしている。和田氏が入社したのは創業5年目の1965年、まだ売上高が28億円の頃だ。名古屋営業所に赴任した和田氏は、凄まじい勢いで営業した。

入社3年目には販売成績で全国トップに立った。4か月で40棟の成約に成功したという。5年目には名古屋東営業所長に。本社に内緒で始めた鉄骨賃貸事業も実績を上げ、「シャーメゾン」の名称でその後全国展開し、売上高の2割を占める中核事業になった。順調に出世し、1998年に社長に就任した。「積水ハウス史上初めての生え抜き社長は、自他共に認める営業のエースだった」。

これに対し、1975年に入社した阿部氏には「目を見張る実績を残したという話は出てこない」。規模の小さい東北営業本部が長かったからだ。本部長だった頃、契約の水増しが常態化していたという元役員の証言を紹介している。

「当時、調べたところ、東北営業本部のほぼすべての支店で契約の水増しがありました。水増しをしとったのは東北だけやない。でも東北のやり方はえげつなかった」

東北のプレハブ工場から資材が出荷された形になる。でも実際には架空の契約だから、資材の行き場所はない。夏までに出荷したはずの資材が、冬になっても工場に放置されて、雪をかぶっていたという。

アラートは9回鳴ったが、止まらなかった取引

営業マンとして優秀だった2人の後継候補が亡くなり、2008年、阿部氏は社長に抜てきされる。「かつては親子のような関係だった」とも書いている。CEO(経営最高責任者)になった和田氏は国際事業のトップ営業に乗り出す。阿部氏は国内の留守役だったのでは、と藤岡さんはみている。

和田氏は国際事業をわずか2年で黒字化する。売上も約3900億円まで急伸した。だが、財務部門の責任者だった副社長とは方針に大きな溝があり、クーデターの「黒幕」は、社長の阿部氏ではなく、この副社長の名を挙げる幹部が多かったという。

ところで地面師事件に戻ると、調査報告書は取引から撤退を促すアラートは都合9回も鳴っていたという。本物の地主から「私は取引をしていない」という内容証明郵便が送られてきたのに、「怪文書」扱いし、地主の本人確認をしていなかった。中間会社がペーパーカンパニーだったなどだ。

海喜館の土地取引は阿部氏の「社長案件」として現場は捉え、異様なスピードで進められたという。この土地はマンション事業として購入されたが、積水ハウスの中でマンション事業は傍流で、売上高も全体の3%に過ぎなかった。和田氏の影響があまり及んでいないマンション事業で阿部氏は力を伸ばそうとしたのでは、と関係者は見ている。

地主と接触しないうちに、仲介者だけの話で取引を信用し、稟議書を完成させ、社長が視察。社長決裁をもらい、売買契約を結んだのは、最初の情報入手からひと月にも満たなかった。

調査報告書は異常なスピードで進んだ背景を、こう説明している。

「不動産部長が通常とは異なるステップで稟議を進めた根拠は、マンション事業本部長からの至急要請があったことによるが、社長が現場視察を済ませていると聞かされていることが影響している」

こうした事件への社長責任が明記された調査報告書があったが故に、責任を問われた社長が会長を返り討ちしたのが、クーデターの本質である。

クーデターは「隠蔽のための解任」と映り、海外の株主や専門家の反発を買った。積水ハウスの海外の法人株主は約3割を占める。昨年(2020年)の株主総会でも取締役の選任案に3割もの反対票が投じられた。今も厳しい目が注がれている。

住宅は人生で最も高い買い物だと言われる。あまりうかがい知れない住宅メーカーの内部を描いたルポとしても興味深く読むことができる。そもそも積水ハウスの源流は、日本窒素肥料株式会社(現チッソ)であり、敗戦と財閥解体で「日窒コンツェルン」は消滅。チッソ、積水化学工業、旭化成などに分派していった歴史も初めて知った。

「保身 積水ハウス、クーデターの真相」
藤岡雅著
角川書店
2090円(税込)

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