航空自衛隊も導入を進める新型のステルス戦闘機F-35が生産数1000機の大台を超えました。今後も導入国が増えることは確実な同機ですが、売れれば売れるほどアメリカ以外の西側諸国にとっては新型機開発がしにくくなる可能性があります。
世界で最も作られたステルス機になるか
2024年7月、ロッキード・マーティン社はステルス戦闘機F-35「ライトニングII」の累計引き渡し数が1000機を超えたことを明らかにしました。
F-35は、2006年に製造を開始していますが、それから18年で1000機の大台を超えるというのは、現代戦闘機としては異例ともいえるスピードで、航空史に新たな1章を刻む出来事になります。ちなみに、2024年10月現在、同機は年間約150機という驚異的な生産ペースを維持しており、2000機、さらには3000機の達成も時間の問題といえるでしょう。
ロッキード・マーティン製のF-35A「ライトニングII」戦闘機(画像:チェコ国防省)。
このように、F-35は今日、世界で最も量産されている戦闘機といえ、その生産規模は他の追随を許しません。大量生産は、一般的に製品のコスト削減をもたらします。F-35も例外ではなく、初期のシステム開発実証機(SDD)はF-35A 1機あたり約1億5000万ドル(2011年度)ほどでしたが、2020年には7790万ドルに、およそ半額に至る大幅な価格低下を実現しています。これは生産ラインの効率化、部品の共通化、サプライチェーンの最適化など、複合的な要因が寄与した結果です。
2024年引き渡し分からは、新しい性能向上型F-35テクニカルリフレッシュ3(TR-3)が適用され、主にミッションコンピューターを中心にハードウェアが更新されました。これにより価格はわずかに上昇しており、現在のF-35A 1機あたりの価格は8200万ドルとなっています。とはいえ、TR-3適用機の量産が進むにつれ、価格は再び緩やかに低下すると予想されます。
性能が大して変わらないならF-35で十分じゃない?
なお、日本もF-35Aを導入していますが、我が国は円安の影響もあり価格低下を実感しにくい状況です。来年度(2025年度)概算要求ではF-35A 8機、総額で1249億円を計上しており、1機あたりの平均価格は156億円(1億400万ドル)となります。
特に影響が大きいのは、元々高額である短距離離陸・垂直着陸型のF-35Bです。来年度概算要求では3機で608億円が盛り込まれていますが、1機あたりの価格は203億円にも達します。これは予備のエンジンなど機体以外の費用も含まれた価格ですが、それを考慮してもかなり高くついていることがわかります。
皮肉なことに、1機あたり1億5000万ドルであったシステム開発実証機の生産時は円高であったことから、当時は1ドル=80円程度であり120億円程度で済みました。その頃と比べると日本が取得するF-35の価格はかなり上昇しています。とはいえ、これはF-35自体の問題ではなく経済状況によるものと言えます。
日本ではF-35の調達価格低下の恩恵が十分に受けられない一方で、安価かつ高性能な戦闘機としてF-35導入国が増えることはほぼ確実です。また、既存導入国による追加発注も期待されます。
艦載型のF-35C「ライトニングII」戦闘機。主翼が大きくなり、降り畳めるようになっているほか、カタパルト射出が可能などの特徴がある(画像:アメリカ海軍)。
現在、日本を含む各国では新型戦闘機の開発が進行中です。たとえば日本とイギリス、イタリアの3か国が共同開発している「GCAP」や、フランスとドイツ、スペイン共同開発の「FCAS」などが挙げられます。各国は自国の産業を育成するため、こういったプロジェクトを是が非でも成功させたいところですが、これら新機種の生産数は数百機がせいぜいであり、数千機が確定しているF-35と比べると一桁少ないのは間違いないでしょう。
F-35はあらゆるミッションを高いパフォーマンスで遂行可能であり、圧倒的なコスト競争力を有しています。そのため、なぜF-35以上に高額となることが確実視されるこれら新型機の開発が必要なのか、プロジェクトが進展するにつれ、各国でその意義を問う声が上がるかもしれません。