「トロフィーワイフ」という言葉があります。社会的に成功した男性が、社会的立場や性格が合うかどうかははともかくとし、ステータスとして容姿端麗な女性を妻に迎えるという、ご褒美のような意味づけです。女性に対する軽視が否めませんね。
しかし、逆パターンはどうなのでしょう。女性が“トロフィーハズバンド”ならぬ、容姿だけで結婚を決めるようなことはあるのでしょうか?
女性の結婚相手への条件、過去最高となったのは…
2021年に実施された、結婚と出産に関する全国調査「第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、結婚相手の「容姿」を重視・考慮する女性は1992年調査の67.6%から81.3%と過去最高を記録したそうです。
さらに、相手の「家事・育児の能力や姿勢」を重視する女性は、43.6%(1997年)から 70.2%(2021年)へと大幅に増えています。
一方、男性は、相手の「経済力」を重視・考慮する人が、26.7%(1992年)から48.2%(2021年)へと増加しました。
まさに、今の世の中における男女のパワーバランスを表している数字ではないでしょうか。昔は「容姿がよくないとお嫁に行けない、行き遅れる」と女性を揶揄(やゆ)するような表現がありましたが、今や男性も「稼ぐ力をジャッジされている」という苦々しい思いを味わっているのかもしれません。
結婚相手に求めるものは「ルックス」か「稼ぐ力」か。さあ、この極端な選択肢を示されたらどう対峙(たいじ)しますか。
「イケメンは◯◯だからしょうがない」母の放った一言
亜里沙さん(仮名)の母親、由子さん(68歳、仮名)はイケメン好きです。一緒にテレビを見ていても、街を歩いていても目ざとくイケメンを見つけます。しかもイケメンの基準は“ザ・王子様”。韓国の人気グループ「BTS」だったらジョングクさん、「テテ」ことVさん、俳優なら中川大志さん。いわゆる正統派の端正な顔立ちが好きなのです。
そんな母親の結婚したお相手、つまり亜里沙さんの父親、雄一さん(72歳、仮名)は正統派の二枚目。死語かもしれませんが「ソース顔」だということです。若い頃は草刈正雄さんに似ているとうわさされました。自衛官だったので、制服でお見合いの席に現れたその姿に由子さんは一目ぼれ。すぐに結婚を決めたそうです。
結婚してみたら、雄一さんは酒癖が悪くて女好き。酔っ払って帰ってきたら、母にピシャリと平手打ちしているところを幼い亜里沙さんが抱きついて止める、ということが何度かあったそうです。
妻のことを「ブス」とののしる雄一さんですが、亜里沙さんのことは猫かわいがり。亜里沙さんは3人姉妹の長女です。父親は「おまえが一番かわいい」と言い、「自分がいないときには亜里沙の言うことを聞くように」と母や妹たちに命令。亜里沙さんは「母より大事にされている」と感じたそうです。
ひどい扱いを受けている母でしたが、娘たちに事あるごとに言っていたのは「お父さんの顔が大好きだから、どんなことをされても嫌じゃない。あの顔見たらすぐに忘れる。だって、嫌いな顔の人が横に寝ていたら耐えられないじゃない。あなたたちもハンサムと結婚しなさい」でした。
亜里沙さんが高校生になった頃、父の愛人らしき人から家の固定電話に直電がかかってきました。母が問い詰めても知らんぷり。それでも母は泣いてはいません。亜里沙さんは「父はかっこいいからモテるのはしょうがない。容姿の悪い母さんとなぜ結婚したんだろう」と思ったといいます。
やがて亜里沙さんは、周りの誰もがイケメンと評する4つ年上の男性と結婚し、娘を出産。その直後、母親は父親と離婚。長く続いていた愛人が乗り込んできたというのです。さすがに言い訳ができなくなった雄一さんは、なんと逆ギレ。「おまえなんかといるより◯◯と一緒にいた方が、気分がいい」と暴言を吐き、ジ・エンド。亜里沙さんは、母の味方をするでもなく「しょうがないか」と感じたそうです。
一方、亜里沙さん夫婦にも似たような危機が訪れました。スマホで発覚した夫の浮気疑惑。ショックを受ける亜里沙さんに、母親は動揺もせずに一言。
「イケメンはモテるからしょうがないのよ」
亜里沙さんは妙に納得して、怒りが半減したと話してくれました。
好きになるきっかけが容姿だったとしても
ルックスで相手を選ぶことが悪いわけではありません。「顔じゃない! 心で選べ」との正統派意見はごもっともですが、見ているだけで幸せになる異性は、結婚条件の上位に来てもおかしくありません。
周りに、ルックス重視で恋愛相手を決める女子友達はいませんか。イケメンだけど、ちゃんと仕事をしていない男性と付き合っている女性。「それってヒモ彼氏じゃん」と突っ込みたくなる女性――。
性格も温厚で浮気しないイケメン、美人はたくさんいます。ポイントは、好きになるきっかけが容姿だったとしても、その後のお付き合いや、結婚までの過程において、相手の人間性をしっかり見極めることができるかどうか。もちろん、自分が相手に合わせることができる寛容性も必要です。
結婚生活は山あり谷あり。パートナーが借金したり、子どもにつらく当たったり、姑(しゅうとめ)さんの味方をしたりと、ざわつくことも多々あります。「好みの顔だから許せちゃう!」とマインドセットできるなら上等の結婚相手です。今回お話を聞いた亜里沙さんのお母さんは、腹が据わっています。
結婚相手をいつまでも愛することができるか、ざわつきが止まらないかは、自分次第でもあります。好きな顔であろうがなかろうが相手を尊重し、丁寧にコミュニケーションを重ねることで、結果は違ってくるでしょう。
健康管理を怠り、美容意識を持たないでいると容姿はどんどん劣化するので、イケメン夫も美人妻も過去の残像と化します。お互いに愛情を注ぎ合い、健康と容姿を気遣うマインドがあれば、永遠に二人とも「好みのタイプのアイドル」となるのです。
「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美