史上最多のメダルラッシュに日本中が沸いた東京五輪が8月8日の閉会式で幕を閉じます。コロナ禍で直前まで開催を危ぶまれていたものの、始まってみれば、アスリートたちの奮闘もあって、連日の競技中継が世間の話題を独占。コロナ禍の重苦しいムードを感じていた人々にとって久々に明るい話題となりました。
ただ、各局の競技中継が盛り上がる一方、一部でささやかれていたのが「主題歌が盛り上がらない」という声。それどころか、「今回は主題歌、何だっけ?」と中継を見ているにもかかわらず、印象にすら残っていないことを指摘する人すらいます。
東京五輪では、NHKが嵐の「カイト」、民放は民放共同企画“一緒にやろう”応援ソングとして、桑田佳祐さんの「SMILE~晴れ渡る空のように~」を主題歌に採用。文句なしの国民的アーティストであり、活動休止中の嵐は歌声が聞ける希少さがあり、桑田さんの曲も民放が「今回は地元開催だから」と団結して実現したものだけに「なぜ浸透しないのだろう」という声が上がるのも無理はないでしょう。
サビの歌詞が人々に響いていない?
特に放送時間の長いNHKの五輪主題歌は、アテネのゆず「栄光の架橋」、北京のMr.Children「GIFT」、ロンドンのいきものがかり「風が吹いている」、リオデジャネイロの安室奈美恵さん「Hero」と、人々に浸透し続けてきました。業界内には「夏期五輪のNHK主題歌は絶対にはやる」という定説があるほどでしたが、今回はそのムードが見られないというのです。
これにはいくつかの理由が推察されますが、実は主題歌が発表されたばかりの頃から、「過去の曲より歌詞が響きづらいかもしれない」という不安の声が上がっていました。前述した主題歌に共通していたのは、強烈なサビのフレーズ。これが競技中継やハイライト番組などで繰り返し流れることで、ジワジワと視聴者に浸透していったのです。
その点、「カイト」のサビは「風が吹けば 歌が流れる 口ずさもう 彼方へ向けて 君の夢よ 叶えと願う 溢れ出す ラルラリラ」ですが「スポーツやアスリートのイメージから遠いのではないか」「競技中継やハイライト番組より、選手を送り出す事前番組向きでは」などの声を業界内やネット上で見聞きしました。
一方、「SMILE~晴れ渡る空のように~」のサビは「栄光に満ちた孤独なHERO 夢追う人達の歌 情熱を消さないで 歩みを止めないで」ですが「HEROというメインフレーズはリオで安室さんが使ったばかりなのに大丈夫か?」という声を何度も聞きました。確かに安室さんの「Hero」のサビは「君だけのためのhero」であり、「I’ll be your hero」というフレーズも繰り替えされていたのです。
もちろん、楽曲としてはどちらも優れているのでしょうが「夏期五輪の主題歌として日本中の人々に浸透させる」ことは、それだけハードルが高いということでしょう。また、いまだに五輪関連の番組では、「栄光の架橋」や「Hero」が流れるように、過去作のインパクトが強すぎることも難しさの原因となっているのかもしれません。
民放5局の足並みはそろわなかった
もう一つ、見逃せないのは「民放共同企画“一緒にやろう”応援ソング」と掲げながらも、民放5局すべてが桑田さんの「SMILE~晴れ渡る空のように~」をフル活用しているわけではないこと。
日本テレビ、TBS、テレビ東京は繰り返し使用していますが、フジテレビは“FUJI Network.Song for Athletes”と題して関ジャニ∞の「凜」、テレビ朝日はTEAM SHUZOの「CANDO」を優先させているのです。これはそれぞれ、村上信五さんと松岡修造さんがキャスターを務めていることによるものですが、民放5局の足並みがそろっているとは言えないでしょう。
ただ実際のところ、五輪の主題歌が浸透するかどうかは、終了後の扱い方次第ではないでしょうか。閉会式後は、さまざまな番組にアスリートたちが招かれ、それは年内いっぱい続くとも言われています。感動のシーンを振り返るとき、主題歌は必ず流されるだけに「カイト」も「SMILE~晴れ渡る空のように~」もまだまだ、人々の間に浸透する可能性は残されているでしょう。
コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志