1979年の登場から今日に至るまで、日本のベーシックな軽自動車の代表格であり続けるスズキ・アルト。同車両はその歴史の中で、かなりの思考錯誤を繰り返しています。
「アルト47万円」はスタートに過ぎない!
1979年に登場以来今日に至るまで、日本のベーシックな軽自動車 の代表格であり続けるスズキ・アルト。それまでの自動車はやや敷居が高く、なかなか手が出なかったところを、新車価格で「47万円」(1979年当時)を打ち出し、「女性でも運転しやすい」よう設定したことで大ヒット。その後は一般ユーザーから愛され、多くの企業で商用としても採用されるようになりました。
そうした“身近”や“手軽”といったイメージ戦略でヒットしたアルトですが、振り返ると45年という長い歴史の中で、かなりの試行錯誤を繰り返していたことがわかる「挑戦的」「変則的」モデルも数多く発表しています。
3代目アルトの派生モデルだったアルトスライドスリム(画像:スズキ)
そもそも初代からして税金対策として2サイクルの商用規格バンという体で物品税の非課税車として販売しており、かなり挑戦的でした。ただ、ビジュアル面に関しては今日のアルトとはまるで違うエッジのついたもので、まだ70年代までの感覚で無難な形に落とし込んだというイメージ。しかし、1984年登場の2代目以降は、臆することなく試行錯誤を繰り返し、業界の度肝を抜き続けることになります。
初代の大ヒットを受け、大胆なフルモデルチェンジを行った2代目は4サイクルに変更。女性ドライバーの声を多く受け入れ、なんと日本初となった運転席のシートが回転する構造を採用しました。
CMでは当時人気のあったモデルの小林麻美さんを起用。長いスカートでも、たくし上げることなく、そのままスムーズに運転座席へ座れることを大きくアピールします。この試みにより性別問わず乗れる自動車になりました。発売の翌年には国内販売台数が100万台を突破。「軽自動車=アルト」の地位を欲しいままにしました。
この2代目はアルトワークスなどの“走りに振り切った”モデルも大きな注目を浴びましたが、一方でカタチの試行錯誤もありました。1987年には派生モデルとして、アルトウォークスルーバンが登場。荷物の積み下ろしの利便性に特化させた箱型モデルで、その名の通り積載スペースにウォークインできるというもの。運転席と積載スペースの仕切りもなく、当時の軽自動車としてはかなり珍しい作りのモデルでした。
1988年には3代目アルトが登場。「ザ・パーソナル・ミニ」というコンセプトで、プラスチック部品が多用され、過不足のないすっきりかわいいデザインが、性別・世代をも超えた支持を集めました。
実はこの3代目にも独特の派生モデルがありました。それがアルトスライドスリムで、運転席・助手席双方のドアがスライドで開閉するという珍しいクルマになっています。さらに2代目でも採用された回転式ドライバーズシートを装備しており、スカート姿の女性でもエレガントに乗り降りできる構造として、より女性需要を意識したデザインとなっていました。
大きな箱が乗ったアルト登場!
1991年には多目的モデル、アルトハッスルが登場。フランス車などに多く見られる「フルゴネット」のスタイルで、後部座席と荷室に当たる部分に、大きなカーゴを乗せたようなフォルムとなっています。今となってはアンバランスな形に見えてしまいますが、高い天井の箱型にすることで、車内の居住性や積載力を高めるという工夫は、2024年現在のスペーシアやN-BOXなどのトールワゴン型軽自動車に通ずるものがあります。
さらに、1992年には早くもアルトをベースとした電気自動車も発売しています。1997年には、電費を大幅に向上させ、さらにブラッシュアップさせたモデルを発表。床下にバッテリーを置いたことで、車内スペースは従来のアルトより広く確保していました。
もちろんこの当時はEVのニーズもインフラもほとんどなく、アルト電気自動車の販売台数は極めて限られていましたが、スズキがいち早くEVの未来を見据えていたことを証明する意義深いモデルでもあります。
初代アルト(画像:スズキ)
1994年に登場した4代目アルトは、軽自動車最大のロングホイールベースを実装。1998年の5代目では、軽自動車でありながら普通小型車と同等の安全性を実現し、新開発のエンジンと電子制御スロットルで大幅な燃費向上を図るなど、スズキの矜持はもちろん、その技術力の高さを強く感じるモデルとなりました。
一度見たら忘れられない8代目アルト…
また1999年にはクラシックデザインのアルトCも展開。2000年前後には最新車両のクラッシックデザイン化が流行しており、アルトCもクラシカルでありながら、このモデルからはSRSエアバッグ、ABSを標準装備しました。
以降もアルトは約4~6年の間に定期的にフルモデルチェンジを行いますが、これらの変遷の中において、近年特に評価が高かったのは35周年の年である2014年に登場した8代目です。
特徴的なツリ目っぽいヘッドランプはボディ同色で縁取りされおり、メガネをかけたような表情ともいわれ、とにかく一度見たら忘れられないデザインです。従来の日本車、それも軽自動車にはなかったスズキの独創性で業界の度肝を抜きました。また、大幅な軽量化などで「ガソリン車ナンバーワンの低燃費」を実現したことで、アルトの素晴らしさを従来のユーザー以外にも知らしめ、数々の賞を受賞したことでも知られるモデルです。
現状最新型の9代目アルト(画像:スズキ)
2021年登場の現行9代目モデルに至るまで、走行性・安全性・実用性・快適性すべての向上をはかり続けながら、一方で従来のスタイルにとらわれることなく柔軟なアイデアを多く取り入れてきたのもアルトでした。近い未来では、どんなデザインのアルトが登場するのでしょうか。