テレワークは1990年代から日本でも外資系企業などが導入していたが、都市の住宅事情が欧米に比べて恵まれていない日本では、インターネットが行き渡る中でも、その普及は有望視されてはいなかった。
ところが、奇襲ともいえるコロナウイルスの感染拡大で導入が一気に拡大。今後も、有力な働き方の一つとして定着しそうで、企業ではオフィスの縮小や解約が進んでいる。
「これからのテレワーク 新しい時代の働き方の教科書」(片桐あい著)自由国民社
「テレワークができない人は仕事ができない人」という時代
日本生産性本部が2020年5月、「雇用者」を対象に実施した調査によると、「テレワークの導入」について6割弱が満足を感じているという結果がわかった。また、「コロナ収束後もテレワークを続けたいか」という問いにも、6割以上が肯定的な回答を選んだという。
ところが、この調査で在宅勤務での効率性を聞くと、「上がった」と感じたのは3割強。7割近くは「下がった」のが実感であり、成果という点では、コロナ前の出社勤務のレベルと同じとはいかなかった。
テレワーク従事者の多数が満足を感じ、なお続けたいと思いながらも、効率性はイマイチ。このことは、テレワークの自由度が高く、オン・オフのけじめがつけられなくなるからに違いない。
だが、これからはテレワークが続くからという理由だけで、これまでと同じように漫然と自宅でパソコンに向かえばいいというわけにはいかないようだ。
テレワークが本格化すれば、「テレワークができない人は、仕事ができない人というレッテルを貼られる場合もあるから」で、そう警鐘を鳴らすのが本書「これからのテレワーク 新しい時代の働き方の教科書」だ。
著者の片桐あいさんは、サン・マイクロシステムズ(現日本オラクル)のサポート・サービス部に23年間勤務。2013年に独立して企業研修講師となり、現在は会社を経営しながら産業カウンセラーとして活躍している。勤務していたサンマイクロでは海外マネ―ジャーが国際的にテレワーカーを統括していたという。
本書は、本格化の緒についた日本のテレワークをとらえ、わたしたちビギナーに向けた、まさに「新しい時代の教科書」。出社勤務に比べて自由に振る舞えるテレワークでは、自律のための「セルフマネジメント力」が要求されることを説き、その鍛え方を解説。また、さまざまなツールを人や状況に合わせて使いこなす「マルチコミュニケーション力」、仕事を適切に管理し提示する「成果の見せる化力」なども必要とされると述べる。
「成果の見せる化力」では、上司の性格を9つのタイプに分類。それぞれの対応マニュアルが用意されている。
「ファシリテーション」のスキルを磨け
テレワークというと「自宅などで、一人で黙々と」、というイメージがあるが、すでに普及の兆しがあるオンライン会議のように、複数でコミュニケーションをつらなければならない場面もある。
テレビ番組でも多用されているが、出演者が慣れていないため、まだまだぎごちない。本書では、人に先んじて「ファシリテーション(司会進行)」のスキルを磨いて、アピールすることを提唱する。
オンライン会議では、リアルでは気にならない、同時発言がどれも発言者不明となるため、避けなければならないことの一つ。そのため、発言は「許可」制にすると進行はスムーズになる。また、参加者の互いの反応が見えにくいので、大きくうなずくことや、拍手、「GOODポーズ」などのリアクションのルール化は一案といえるなどがリストアップされている。
従来、日本の企業は、職場を共有し「ピアプレッシャー」と呼ばれる「同僚からの圧力」「仲間との和」により、互いに刺激し合い、またお互いに様子を見ながら助け合う関係性を活かして、組織全体で業績を上げていた。
テレワークでは、セルフマネジメント力による業務の遂行が大切だ。
著者の片桐さんは、
「仕事の成果を積み重ねて信用され、信用を積み重ねて初めて信頼を得られます。相手にサボっていると思わせないような仕事の結果を見せましょう」
と、エールを送っている。
「これからのテレワーク 新しい時代の働き方の教科書」
片桐あい著
自由国民社
税別1400円