トコジラミが欧州で社会不安を与えています。ロンドンでは迷惑系TikTokerが地下鉄でウソの放送をする事件も。いっぽう、フランスでは実際に車内で発生が確認されるなど、事態は良くないようです。
迷惑系TikTokerが騒動に
「ご乗車のお客様にお知らせします。この車両はトコジラミが大量発生していることが確認されました」
地下鉄が駅のホームに着くと同時に、衝撃的な「偽アナウンス」が流れ、席に座って談笑したり、くつろいだりしていた乗客たちが、我先にと競い合ってホームへと逃げ出す様子を映した動画が、2023年10月にSNSでアップされています。
実はこれ、イタズラだったのです。ロンドンの地下鉄の駅やホームで撮影した動画をアップして年間5万6千ポンド(約1千万円)を稼ぐという、英国のお騒がせTikToker「MoreTalentlessLimited」の仕業でした。
地下鉄車内で衝撃のアナウンスが…?(画像:写真AC)。
彼の常套手段は、拡声器を首から下げて、駅のホームや地下鉄車内で「偽アナウンス」を行うこと。キスしているカップルの横で「この駅でキスするのは禁止です」と拡声器で構内アナウンスのふりをすると、イチャイチャしていたカップルが大慌てで取り繕った顔をする――そんな滑稽な瞬間を見られるのが、視聴者に大人気だというのです。
幼稚なイタズラばかりですが、公式なアナウンスを装ったイタズラには「公的な圧力に従順なロンドンっ子の特性が現れている」などと冷静に分析するメディアもあるほど、ちょっとした社会現象になっています。
ただ、今回の「トコジラミのイタズラ」に対する乗客の反応は尋常ではありません。というのも、現在ロンドンにとっては「対岸の火事」が「いつ飛び火してくるか」と戦々恐々としている状態。まったくもってシャレにならないのです。
パリの電車はすでに「トコジラミ地獄」!?
英国とドーヴァー海峡を隔てたフランス、パリでは、2023年9月末から地下鉄などの公共交通機関で「トコジラミを目撃した」、あるいは「トコジラミに噛まれた」という情報が相次ぎました。
イギリスとフランスをむすぶ旅客高速列車「ユーロスター」(赤川薫撮影)。
トコジラミと見られる動画がSNSで拡散され、パリは大騒動。パリの地下鉄内では席に座らずに立ったまま乗る人が増えるなど不安が続いています。
2024年1月にも、パリの地下鉄と見られる車内で「トコジラミがいるから座らない」と断固とした表情で座席に背を向けて立っている写真が、米CNNの特派員によってSNSに掲載されました。
いっぽう、フランスのクレマン・ボーヌ運輸相は公共交通機関内での「大量発生」を否定。人々に冷静な対応を呼びかけています。
トコジラミの目撃情報自体はパリ交通公団(RATP)に10件、フランス国鉄(SNCF)に37件あったことは認めましたが、「事後調査でトコジラミは確認できなかった」としています。
それでもロンドンでの単なるいたずらとは異なり、パリでは病院やホテル、映画館でもトコジラミの目撃情報が伝えられており、実在の可能性が限りなく高いと見られています。それゆえ運輸当局は「3か月ごとにトコジラミの発生状況を報告する」と約束し、電車の清掃の強化と「トコジラミ探知犬」の導入も公表しました。車両内の空気をビニール袋に取り、それを探知犬に嗅がせるだけで判断できるとか。
決して「対岸の火事」ではない事情
パリ~ロンドン間は、ドーヴァー海峡をくぐる海底トンネルで繋がっており、国際高速列車のユーロスターが毎日15往復以上走っているため、パリの公共交通機関でのトコジラミ発生はロンドン市民にとって「待ったなし」です。「海で隔離されているから安全」と思っていたのに、あっという間に上陸したコロナ禍の前例もあります。
とあるTikTokerは、顔以外すべてをビニールのような素材で「徹底防御」した状態でユーロスターに乗り込むビデオを公開。このように騒動を利用してバズろうとする「便乗TikToker」のイタズラ動画や、不安をあおるようなSNS投稿が、騒動をさらに広げている側面もあるようです。
今夏にはオリンピックも開催されるパリですが、観戦目的で世界中から来る観光客がトコジラミを世界中に「拡散」することはどうにか防ぎたいものです。清掃の強化と探知犬の導入だけで半年以内に本当に退治できるのでしょうか。「SNSの拡散で騒動が大きくなっているだけ」と高をくくらず、対応が急がれます。