取材・文:ミクニシオリ
撮影:大嶋千尋
編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部
自分の仕事って、誰の役に立っているのだろう。生活者から離れた仕事をしていると、どこにやりがいを感じればいいか分からなくなる時もあります。
「お客さんと直接関わらなくても、どんな仕事も誰かの役に立っているもの」
そう話してくれたのは、ジェネリック医薬品を製造販売する沢井製薬株式会社で、自社の医薬品情報を伝える医薬品情報センター/お客様相談室でセンター長を務め、この春からメディカルコミュニケーション部の部長に昇格した二出川 真由美さん。
「患者さんのお役に立つこと」をポリシーに薬剤師として働いてきた二出川さんですが、今は企業の重役。患者さんとの距離は離れてしまっても「自分の仕事は、最終的に患者さんに届く」という思いで、今は社内マネジメントを主業務としながら、サワイグループホールディングスのID&E推進室の室長も兼任しています。
「コミュニケーション」を軸にキャリアを積んできた二出川さん。思いの込もった言葉や行動で部下を成長させてきた彼女の人生を振り返っていただきました。
二出川 真由美さん
サワイグループホールディングス株式会社 グループ人事部 ID&E推進室長 兼 沢井製薬株式会社 信頼性保証本部 メディカルコミュニケーション部長。1999年に病院薬剤師として入職、2001年に別の病院に転職し服薬指導業務を立ち上げたのち、2002年製薬会社(前職)へ入社。2007年に沢井製薬株式会社に入社し、医薬品情報センターの立ち上げに携わる。2017年より医薬品情報センター長を務め、2024年4月より現職。
■「なによりも患者さんのために」。企業理念に共感し、4社目で沢井製薬へ
Q.1 幼少期はどんな性格でしたか?
幼い頃は「みんなと同じ」なのが嫌で、人と違う行動をしたがる変わった子でした。下に弟が2人いる長女なのですが、身体を動かすのも好きな、完全なるおてんば娘。小学校の時にはいじめの対象になったこともありましたが、当の本人である私が、全くそのことを気にしていませんでしたね。器械体操の練習に毎日通っていて、興味関心の矛先は、学校よりも習い事に向いていました。
Q.2 思春期は学校でどんな存在でしたか?
物心ついた頃から、交渉が得意でした。通っている中学校に体操部がなかったので、教頭先生に直談判しに行ったんです。「3人集めたら部活を作っていい」と言うので、言われた通りに部員を集めて、3人きりの体操部をつくって所属していました。結局、他の子は途中で転部してしまったので、1人で隣の中学校に通って練習に参加させてもらっていましたね。自分がやりたいことをしていたので、1人で行動するのは特に苦ではなかったし、むしろ、他校に友達ができて嬉しいなと思っていました。
Q.3 学生時代に注力したことはなんですか。
中学の進路指導が化学の教員で、私も化学が得意だったので「薬剤師を目指したら?」と言われ、調子に乗って「はい」と返事をしてしまったことをきっかけに、薬学部受験を志しました。大学に入ってからは、大好きな運動を続けながら、様々なアルバイトにも注力しました。しかし、下に弟も控えていて、両親からは「絶対に4年で薬剤師になれ」と言われていたので、試験勉強にもそれなりに時間を割きました。
Q.4 これまでのキャリア変遷を教えて下さい。
学生時に実習で行った研修先の病院で様々なことを学んだこともあり、調剤薬局よりも多くの職種の方々が働いている病院に就職しました。病院では患者さんとのコミュニケーションが楽しかったです。その後初めて転職した先の病院では、服薬指導業務の立ち上げを行いました。その後、企業の管理薬剤師に転職した後に、沢井製薬株式会社に入社しました。
Q.5 現在の会社を選んだきっかけを教えて下さい。
転職した時期は、ちょうど政策でジェネリック医薬品の使用促進が進められ、ジェネリックの普及に追い風が吹きはじめた頃でした。薬剤師として、ジェネリックのことをきちんと学んでおく必要性を感じ、ジェネリック製薬会社の大手である、沢井製薬に魅力を感じました。それに、沢井製薬の企業理念である「なによりも患者さんのために」という言葉が、それまで薬剤師として大切にしてきた私のポリシーにぴったりフィットしたことも大きかったですね。
■「それぞれに合ったコミュニケーション」が成長スピードを加速する
Q.6 リーダー職に就いた時の心境を教えてください。
正直、役職にはあまりこだわりがないんです。私はただ「どうしたら患者さんに適切な情報を届けられるのか」を第一に考え、問い合わせてくれた医療関係者の方が患者さんのお役に立てるよう、丁寧な情報を伝えることに注力してきただけなんです。気づいたら、そこに役職がくっついてきたような感覚ですね。身の周りの誰かが「まとめ役を任せるなら、二出川がいいんじゃない?」と言ってくれたようで、それはシンプルに嬉しかったです。
Q.7 現在の仕事内容を教えて下さい。
医薬品情報センターとお客様相談室には、沢井製薬のお薬に関する問い合わせが、毎日200件ほど入ってきます。医療関係者は忙しい方が多いので、問い合わせに対しては迅速に丁寧に、かつ正確な情報を伝える必要があります。私が入った頃は、患者さんから問い合わせは別の部門が担当していたのですが「一本化できたらいいのに」と思い、当時の本部長に話して合意してもらったんです。なので、今は患者さんからのご相談も受けつけています。役職の高い方々も、平社員だった私のお話を聞いてくれるくらい、風通しがいい会社なんですよ。
Q.8 リーダー職についてから大変だったことは?
私が入社した2007年当初と比べると、ジェネリック医薬品のシェアはすごく伸びていて、問い合わせの量もどんどん増えています。問い合わせが増えても、情報のクオリティは落としたくなかったので、メンバーを少しずつ増やし、いつの間にか4人から、15人のチームに。2024年度からはメディカルコミュニケーション部の部長に昇格し、サワイグループホールディングスのID&E推進室の室長も兼任することになりました。けれど「リーダーだから大変」と思うことはないですね。「こうしたらどうかな」と思ったことを実行・実現していくことは、やりがいがありますよ。
Q.9 仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?
やっぱり、お客様や患者さんのお役に立てたと感じることが、一番のやりがいです。医療関係者や患者さんのお困りごとにアプローチするのも、社内でお困りごとを抱える人のために社内改善するのも、クライアントの課題解決をしていくという共通点があると思っています。見えている課題を解決することそのものも楽しいですし、それによって誰かが助かるのなら、積極的にやりたいと思えますね。
Q.10 リーダー職として気をつけていることはありますか。
部下に対して気をつけているのは、一人ひとりに合ったアプローチをかけることですね。一緒に働くメンバーの成長が見られるのは嬉しいですから、もっとパーソナライズ化したアプローチができたらと思って、カウンセラーやセラピスト、コーチングなどの認定資格を取得しました。それぞれの性格や段階によって、かけるべき言葉や投げかける疑問も変わってきます。自分が選んだ言葉や行動の影響で、メンバーが成長できた瞬間を見るのが、泣けるほど嬉しいんですよね(笑)。マネジメントを学んでやってきたというより、やってきたことを振り返ったらマネジメントだったという感じです。
■ただ、人の役に立ちたいだけ。手に届く範囲から、変えていく
Q.11 仕事終わりやお休みの日は何をされていますか?
満員電車が苦手なので、朝は早めに出社しています。なぜか外国の方に道を聞かれることが多いので、スムーズに道案内できるよう、始業時間までアプリで英語のスピーキングを勉強しています。今は自分が問い合わせの電話を取ることはないのですが、メンバーの受けている問い合わせを把握して、困っている子のフォローに回ることが多いですね。あとは、他部署とのやり取りをしたり、 ID&E推進室の会議に参加したり。家に帰ってからは、新しい資格の勉強をしたりしています。
Q.12 ストレス発散の方法を教えてください。
身体を動かすのが好きなのは昔から変わらないので、休日はバイクに乗ったり、ダイビングに行きます。海は日常とは全く違う世界なので、気持ちいいんですよね。土日も仕事のことを考えてしまうことも多いので、海に潜ったり、バイクで走ったりしている時間は、私にとって貴重な「無になれる時間」です。仕事も考えることも好きだからいいんですけど、デトックスとして楽しんでいます。
Q.13 プライベートや仕事の悩みはありますか?
目下「どうしたらもっとジェネリック医薬品を患者さんに届けることができるか」について、悩み続けています。ジェネリック医薬品はいわゆる後発医薬品なのですが、飲みづらさやサイズなど、先に出たお薬が持っていた課題を解決して世に送り出されることも多いんです。その上、患者さんの自己負担額も安く、いいところはいっぱいあるんですけど……。
情報をうまく伝えてあげないと、医療関係者に選んでもらえるお薬にならないんです。だから、私たちの目指すところはやっぱり「薬剤師さんが選びたくなるような薬を作って、その情報を伝えていくこと」なんですよね。
Q.14 今後の展望を教えてください。
今までもこれからも、目指すところは変わらず「人の役に立てることを続けていく」ことです。どんな役職についても、患者さんとの距離が遠くなっても、持ち続けてきたポリシーは貫いていきたいです。
せっかく色々な資格も取得してきたので、今後は企業のコミュニケーション推進にまつわる仕事にも関わっていきたいですね。日本では、仕事が忙しくて休めないから、すぐに病院に行く人が多いといいます。だけど、上司や会社ときちんとコミュニケーションができて、心身共にきちんと休息が取れたら、病院に行く前に体調が良くなることもあるでしょう。小さな部分から改善して、忙しすぎる医療機関の現状も変えていきたいですね。