世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」が6月26日にフランスで開幕しましたが、その初日、集団の先頭付近を走っていた選手の一人が、沿道にいた女性が掲げていたプラカードにぶつかって転倒し、後続の選手数十人が相次いで倒れる事故が発生しました。現地メディアによると、女性は事故後、現場から立ち去っており、地元警察が傷害事件として捜査に乗り出したほか、大会の主催者も女性に対して法的措置を取ると表明しています。
この事故は日本人にとっても決して人ごととはいえず、7月23日に開幕予定の東京五輪では、マラソンや競歩といった競技が札幌市内の公道で実施される予定で、沿道に観客が集まることが予想されます。沿道の観客の行為が原因で選手がけがをしたり、順位が下がったりするなどの損害を受けた場合、観客は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
傷害罪や暴行罪の可能性
Q.沿道の観客の行為により、選手がけがをしたり、順位が下がったりする損害を受けた場合、観客が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
牧野さん「選手や大会関係者にけがをさせた場合や意図的に競技を妨害するような行為をした場合、観客が刑事責任を負う可能性があります。
例えば、『コースに侵入して、選手に殴りかかった』などのように、意図的な行為で選手や大会関係者にけがをさせた場合、傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役、または50円以下の罰金)に、けがをしなかった場合でも暴行罪(刑法208条、2年以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金、または拘留・科料)に、死亡させれば、傷害致死罪(刑法205条、3年以上の有期懲役)に該当する可能性があります。また、『コースに物を投げ込んだ』などの行為で意図的に競技(業務)を妨害すれば、威力業務妨害罪(刑法234条、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金)に該当する可能性があるでしょう。
一方、『沿道での応援の際に、自分の手が選手に当たってしまった』『何かのはずみでコースに侵入してしまい、選手とぶつかった』などの過失(不注意)による行為で選手にけがをさせれば、過失傷害罪(刑法209条、30万円以下の罰金、または科料)に、誤って死亡させれば、過失致死罪(刑法210条、50万円以下の罰金)にそれぞれ該当する可能性があります。
なお、順位の低下による精神的な損害に関しては、妨害と損害との因果関係の証明が非常に難しく、『観客から妨害されていなければ、優勝していたはずだ』と考えられるようなケースでも賠償の請求が認められないこともあるでしょう」
Q.選手に損害を与えた観客は一般的に、どういう扱いをされるのでしょうか。現場から立ち去った場合は。
牧野さん「他人から見て、明らかに犯罪に該当する行為だった場合、その行為が意図的であっかどうかにかかわらず、現行犯逮捕される可能性があります。その場から立ち去った場合、警察から指名手配を受ける可能性もあるでしょう」
Q.観客の行為によって選手が損害を受けた場合、主催者側の責任は問われるのでしょうか。
牧野さん「『妨害行為が予見できたのに、不注意により不十分な管理体制だった』といったように、競技コースの管理に過失があった場合、主催者側は不法行為に基づく民事責任(損害賠償責任)を負う可能性があります」
Q.公道で行われていたスポーツ大会時の事故やトラブルに関する事例について教えてください。
牧野さん「2004年アテネ五輪の男子マラソンで、レース後半にトップを走っていた選手が沿道から乱入した男に走行妨害され、結局、3位でゴールするという事件がありました。男は逮捕されたと報道されています」
オトナンサー編集部