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「北欧製戦闘機」37年越し初の実戦投入も アジアの紛争国で次々デビューした“新兵器”たち 輸出国は複雑な心境?

乗りものニュース

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停戦に合意したカンボジアとの武力紛争で、タイ軍は4つの兵器を初めて実戦投入し、その性能を実証しました。そのなかには、デビューから37年経った北欧製の戦闘機も含まれています。

タイとカンボジア、停戦に合意も先行き不透明

 国境地帯の領有権争いなどで武力紛争を行っていたタイとカンボジアが2025年7月29日、停戦に合意しました。両国ともお互いに、相手側の停戦合意条件の不履行を理由に批判を続けており、今後も停戦が続くのかは不透明な状況となっています。

Large figure1 gallery9単座型の「グリペンC」(画像:サーブ)

 今回の戦闘において、タイ軍は4つの兵器を初めて実戦投入しました。

●110km届く精密誘導爆弾「KGGB」
 その1つが、韓国の国防科学研究所とLIG Nex1が共同開発した精密誘導爆弾「KGGB」です。

 精密誘導爆弾といえば、我が国の航空自衛隊などが保有している「JDAM」が有名ですが、JDAMの最大射程が28kmであるのに対して、KGGBは投下後に主翼を展開して滑空するため、最大射程は110kmに達します。このため、投下した戦闘機が地対空ミサイルによって反撃されるリスクが大幅に低減しているのが特徴です。

 KGGBの具体的な戦果は明らかにされていませんが、タイ空軍はF-16戦闘機から投下して、カンボジアの軍事拠点を攻撃したと報じられています。KGGBは韓国とサウジアラビアにも採用されていますが、両国は実戦で使用したことがありませんので、今回が初の実戦投入となりました。

●採用はタイだけ 「M758」装輪自走砲
 2つ目は、「M758」装輪自走砲です。M758はイスラエルが開発した、トラック搭載型の155mm自走砲システム「ATMOS」を、チェコのタトラが製造した6×6トラックに搭載したもの。タイ国内で製造され、タイ陸軍とタイ海兵隊にしか採用されていないので、当然ながら今回が実戦デビューとなりました。

 M758は、カンボジア軍が“切り札”として投入した「BM-21」多連装ロケットランチャーへの攻撃に使用されました。具体的な戦果は不明ですが、複数のBM-21を撃破したという報道もされています。

●中国製の「VT-4」戦車
 3つ目は中国から導入した「VT-4」戦車です。VT-4戦車は中国とパキスタンが共同開発した90-II式戦車に、中国陸軍が主力として運用している99式戦車の技術を取り入れた発展改良型です。

 90-II式戦車は輸出専用として開発されたため、中国陸軍(人民解放軍陸軍)には採用されておらず、共同開発国であるパキスタンやミャンマーなど5か国に採用されています。一方、VT-4戦車は2025年7月の時点で、タイを含めた3か国に採用されています。

 すでにVT-4戦車は2021年、ナイジェリア陸軍が武装集団「ボコ・ハラム」との戦いで投入しているため、この戦いは実戦デビューではないものの、タイ陸軍のVT-4戦車は、カンボジア軍の補給路を絶つ作戦で大きな役割を果たしたと報じられています。

初飛行から37年! 実戦経験を得た「グリペン」

 4つ目はタイ空軍が投入したJAS39「グリペンC」戦闘機です。カンボジアは戦闘機を保有していませんので、タイ空軍のグリペンは空対空戦闘を行ったわけではありませんが、一部報道ではカンボジア軍の砲兵陣地を精密誘導爆弾で攻撃して、カンボジア軍に少なからぬ損害を与えたとされています。

Large figure2 gallery10タイが韓国から導入した精密誘導爆弾「KGGB」の実物大モックアップ(竹内修撮影)

 KGGBとM-758は2020年代に入ってから、VT-4も2010年代後半にタイ陸軍が導入した比較的最近の兵器ですが、タイ空軍のグリペンは2010年代前半に導入されていました。配備開始から10年以上を経て初めて実戦に投入されたことになります。同時にこれは、原型機の初飛行(1988年)から37年が経過するグリペンにとって、初めての実戦参加でした。

 ただ、グリペンを開発したスウェーデンは兵器の輸出に最も厳格な規制をかけている国のひとつで、本来、紛争中の国家への兵器輸出は自粛しています。

 スウェーデンは、2024年3月にNATO(北大西洋条約機構)に正式加盟するまで、重武装中立を堅持していました。それまでも1994年にNATOと「平和のためのパートナーシップ」を締結しており、2011年には国連安全保障理事会がNATOの要請に基づき、リビアに設定した飛行禁止区域の監視と実行のためにグリペンを派遣していますが、この時は武力行使を行っていません。

 タイは2024年に発展改良型のグリペンE/Fの導入を決定していましたが、今回、タイがカンボジアとの戦いでグリペンCを投入したことを受け「タイへのグリペンE/Fの輸出をスウェーデンが認めないのではないか」という誤った報道が流れ、タイのスウェーデン大使館がFacebookを通じて否定する事態になりました。この一件からも、スウェーデンが紛争当事国への兵器輸出に慎重になっていることが見て取れます。

ようやく得た「戦場の有用性」だが…

 とはいえ、兵器の輸出にあたっては、実戦で有用性を実証した「コンバットプルーフ」が重視される傾向があります。

 筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は以前、グリペンを開発したサーブのスタッフに、「グリペンは競合機のF-16などに比べコンバットプルーフが不足しており、この点は輸出において不利な要素なのではないか」と尋ねたことがあります。

 この時、スタッフの方は私の疑問に対し、「コンバットプルーフの不足が輸出で不利な要素となっているのは確かだけど、本当は1発も実弾を撃たず、1人の命も奪うこともなく、スウェーデンや輸出国の独立を守って、静かに退役してくれるのが理想なんだよね」と語っていました。グリペンは今回、タイ空軍によってコンバットプルーフを得たわけですが、スウェーデン政府とサーブの心境は、やや複雑なのかもしれません。

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