フードロスの4割強は一般家庭から。ごく身近な「自分ごと」
さまざまな要因で、本来食べられるはずの食品が破棄されてしまう社会問題「フードロス」。農林水産省によると、日本国内のフードロスは年間約646万トン(2015年度の推計)といわれており、世界中の飢餓に苦しむ人たちへ援助されている量の約2倍にものぼるといいます。
さらに、先述した日本のフードロスの4割強は、メーカーや小売店からではなく、一般家庭から出ているもの。ごく身近な「自分ごと」なのです。ですがそう捉えている人は、まだそれほど多くはない状況です。
そんななか、フードロスを身近な問題として意識する機会を生み出すサービスが広がりを見せています。その名は「TABETE」。飲食店や惣菜店等で発生してしまう余剰とユーザーとのマッチングを促し、最後まで売りきり、食べきることを応援する仕組みです。
この仕組みは「フードシェアリング」と呼ばれるもので、欧州などでは広く浸透していますが、国内での試みは、同サービスが初といいます。
2019年1月現在、飲食店や惣菜店を中心とした約300の店舗と、20~40代の働く女性を中心とした約8万3000人のユーザーが登録。店舗は「フードロスが出てしまいそう」と思ったとき、その食品をお弁当などに加工し、オンライン上で購入者を募ることが可能です。
ユーザーは、店舗からのレスキューをPCサイトやスマホアプリで受け取り、「この商品を食べたいな」と思ったら、Webで決済。その後、指定した時間にお店へ向かい、商品を受け取ります。
ユーザー登録は無料。ブラウザからであれば、ログインしていなくても、出品されている商品を閲覧することは可能です(アプリは要ログイン)。
「食べ手」のメリットもたくさん
「食べ手」であるユーザーは、フードロスをレスキューしながら、珍しいメニューを楽しむこともできます。というのもまず、出品される商品は、お店の通常単価よりも若干安価な設定のため。さらに、通常は店舗に並ばないものが出品されるケースがあるためです。
たとえば、研修用に焼いたピザや、フェス用に作ったものの余りなど、「食べられるけれど、お店には出すのは難しい」という商品が出品されることも。
八百屋さんが出品するケースも時折あります。その場合には、果物や野菜は、そのままずばりでなく、食べやすい大きさにカットされるなど、何かしら加工され、手渡されるとのこと。基本的に商品は、テイクアウト可能ですぐに食べられる状態のものであることを条件に、店の采配で自由に決められています。
実際に出店している店舗に話を聞きました。五反田の鶏居酒屋「たから」は、焼き鳥丼、親子丼、カレーのうちいずれかを、状況に合わせて出品していると話します。
「焼き鳥として使うお肉が一定期間を過ぎた場合には『焼き鳥丼』、ランチで提供する親子丼が余りそうな場合には『親子丼』、ごはんが危なくなった場合には『カレー』。ロスさせたくない食べものの種類によって、それを生かせるお弁当を作り、レスキューを呼びかけています」(「たから」店長)
一方ユーザー側は、レスキューをどんなときに活用するのでしょうか。
「自炊用の食材が切れたけれど、タイミング的に買い物に行けるのは明日なので、今夜どうしようというときや、疲れすぎてご飯が作れないとき、夫が出張や仕事で晩御飯が別になるときなどに、終業時、PCでレスキューをチェックして購入しています」と話してくれたのは、30代の女性ユーザーです。
レスキューの受け取りのピークタイムは16時~22時。おおよそ夕ご飯の時間帯です。1人で外食するのはおっくうだけど、飲食店のごはんが食べたい……。そう思う人にとってもレスキューとなり得るサービスといえるのでしょう。
さらに、レスキューをきっかけに「店員さんや、お店の雰囲気を確認できるのが良い」「近所の、普段行ったことのなかったお店の雰囲気を知るきっかけになった」という声も。
これは、当初運営側は想定していなかった部分でしたが、サービスを始めたあとにSNS上でユーザーの感想を読み、気づかされたといいます。
「現場の温度感を知るため」運営自らがヘビーユーザー
「TABETE」の飲食店営業やプロダクト設計などを行う、スタートアップ企業コークッキング(港区南麻布)の取締役COO 篠田沙織さんは、自身も同サービスのいちユーザーであると話します。あらゆるお店をお気に入り登録し、お店からレスキューが発される都度、スマホに通知が来るようにしているとのこと。
なぜならば、サービスを運営している人間こそ、ヘビーユーザーにならないと、温度感など、現場のリアルが見えてこないと考えているからと話します。「TABETE」側で提供しているレスキュー用の容器が問題なく使えているかなど、運用に滞りがないかもチェックしているとのこと。
コークッキングはかねてから、音楽を楽しみながら食品廃棄について考える「ディスコスープ」のイベントを開催するなど、フードロスへの取り組みを続けていました。そんななか、「もっと持続可能なサービスの提供を」と考え、立ち上げたのが「TABETE」です。
「TABETE」は、2015年にデンマークで始まった「Too Good To Go(トゥーグッドトゥゴー)」からヒントを得ています。「Too Good To Go」とは、廃棄寸前の売れ残った料理があるレストランをユーザーが探して、それを格安で買うことのできるフードシェアリングサービスです。
「日本にはまだ根付いてないフードロスの概念を、少しでも自然に考えることができるようになればと思っています。『TABETE』を通じてフードロスの存在を知り、日常の他のものに対しても意識が向くようになれば。たとえばスーパーの牛乳パックを、奥にある消費期限が遠いものから取るのを控えてみるとか……。フードロスを考える、というムーブメントをつくり、消費改革をしたいと考えています」(篠田さん)
単に「自社サービスの発展」を目的とするのではなく、もっと広い目で、社会が抱えている消費問題へ作用していくことを、自らのミッションと捉えているという「TABETE」。
そのため、スタートアップ企業をはじめ、フードロスとは直接関連のない企業等とも関わり、連携を深め、消費の意識改革を進めていこうとしています。
2018年10月からは、定額制ランチサービス「POTLUCK(ポットラック)」と業務提携を始めました。これによって、万が一「POTLUCK」で注文された商品がキャンセルされた場合にも、その商品が別の誰かの手に渡ることをサポートしています。
なお現在「TABETE」は、東京を中心に、神奈川、埼玉(一部地域をのぞく)で展開されていますが、今後は店舗数の密度を上げつつ、エリア拡大もしていきたいとのこと。ただし同サービスは、あくまでも店側とユーザー側、双方が求め合ってこその仕組みなため、拡大は慎重に行っていくとしています。
●「TABETE」
・URL:https://tabete.me/
・アプリ:iOS 10.0以降(iPhone、iPad、およびiPod touchに対応)およびAndroid6.0 以上。
※掲載情報は2019年1月時点での情報です。