東京オリンピックが終わりました。次のオリンピックは2024年のパリです。日本からフランスへのバトン受け渡しが演出されましたが、両国は宇宙分野でも強い結びつきがあります。知られざる日仏の衛星打ち上げをひも解きます。
オリンピック旗をともに掲げた日仏の結びつき
2021年8月8日(日)に行われた東京オリンピックの閉会式において、国際宇宙ステーション(ISS)で撮影された映像が使われました。地球がよく見えるキューポラという場所でペスケ飛行士がサックスでフランス国歌を吹くシーンです。
同じタイミングで、ペスケ飛行士は自身のTwitter(ツイッター)で、日本の実験棟「きぼう」の中で、星出彰彦宇宙飛行士からトマ・ペスケ(Thomas Gautier Pesquet)宇宙飛行士に五輪旗を手渡す動画を投稿しました。
星出飛行士は今回の開催国である日本の出身、ペスケ飛行士は次回開催国のフランス出身ですから、宇宙開発を通じて両国の交流が行われたといえるでしょう。
ISS「きぼう」で五輪旗を持つ星出宇宙飛行士(左)とペスケ宇宙飛行士(トマ・ペスケ宇宙飛行士のTwitter〈@Thom_astro〉より引用)。
フランスと言えば料理、芸術、観光あるいは高級ファッションブランドといったイメージが強いかもしれませんが、宇宙開発分野でも日本と深い繋がりがあります。
日本とフランスが、宇宙開発分野で国どうしの協力を行うようになったのは、1980年代のことです。その後1996(平成8)年に打ち上げた地球観測衛星「みどり」(ADEOS)に、フランス国立宇宙研究センター(CNES)の観測機器が搭載されたことを契機に、宇宙開発事業団(現JAXA)とCNESとの協力協定が結ばれました。この協定は2015(平成27)年に改定され、企画担当の役員同士の会合が設置されるなど、さらなる関係強化が行われています。
一方で、民間の通信・放送分野での関係もあります。
スカパー!もNHKも 放送衛星打ち上げたフランスの会社
日本の衛星放送、いわゆるBS放送やCS放送では、地上波と異なりNHKや民放だけでなく、CS専門チャンネルなど衛星放送でしか流していないチャンネル/番組が数多くありますが、全ての衛星放送局が自前の放送衛星を持っているわけではありません。
2021年8月現在、自社で衛星を保有して衛星放送局向けにサービスを提供している企業(基幹放送局提供事業者)は、日本では株式会社放送衛星システム(BSAT)と、スカパーJSAT株式会社の2社のみです。そして、この2社の衛星の多くが、フランスに本社を置く世界最大の宇宙輸送企業、アリアンスペース社のロケットを使って打ち上げられています。
ギアナ宇宙センターにて打上げを待つアリアン5(画像:東京とびもの学会/金木利憲)。
アリアンスペースは、1980(昭和55)年にヨーロッパ12か国計53社の出資で設立された多国籍企業です。同社はロケット打ち上げ関連事業のみ行う専門企業で、自社での機体製造は行わず、販売と打ち上げサービスの提供に特化しているのが特徴です。本社はフランスにあり、日本とアメリカ、シンガポールに現地事務所を設けています。
代表的なロケットは、欧州宇宙機関(ESA)が開発するアリアンシリーズで、最初のモデルである「アリアン1」を1979(昭和54)年に打ち上げて以来、2、3、4と改良を進め、現在は「アリアン5」を運用しているほか、まもなく新型の「アリアン6」を打ち上げる予定です。
ほかにも2011(平成23)年から「ソユーズ」を、翌2012(平成24)年から「ヴェガ」の打ち上げを行っています。大型衛星と、大きな搭載能力を活かした複数機の打ち上げは「アリアン5」、中型衛星は「ソユーズ」、小型衛星は「ヴェガ」という役割分担になっており、バランス良く打上げ機を保有しています。
とはいえ、アリアンスペースの発射場所はヨーロッパにはありません。
知られざる南米打ち上げの日本衛星群
アリアンスペースは設立以来、南アメリカ大陸のフランス領ギアナにあるギアナ宇宙センター(所有はCNES)を射場として使用しています。
日本の人工衛星で、最初にアリアンスペースで打ち上げたのは、JSAT(現スカパーJSAT)の通信放送衛星JCSAT-1です。いまから30年以上前、1989(平成元)年3月7日(日本時間)に「アリアン4」の3号機で発射され、成功しました。以後、2021年8月までに日本の民間企業からは約50機(外国企業との共同保有含む)の通信・放送衛星が打ち上げられてきましたが、そのうち7割がアリアンスペースのロケットを使用しています。
日本の商業衛星市場での圧倒的シェアだけではなく、世界でも大きなシェアを誇っています。2018年のデータでは、世界の静止商業衛星打ち上げのうち実に5割がアリアンスペースです。2020年代に入ってからはスペースXの「ファルコン」シリーズの追い上げも激しいですが、依然として大きな存在感があることには変わりありません。
アリアン5によるベピ・コロンボの打ち上げ(画像:東京とびもの学会/金木利憲)。
また民間以外においても、防衛省のXバンド防衛通信衛星「きらめき1号」、日本(JAXA)とヨーロッパ(ESA)合同の水星探査機「ベピ・コロンボ(BepiColombo)」が、ともに「アリアン5」を使って、それぞれ2018(平成30)年4月6日(日本時間)、同年10月20日(同)に打ち上げられています。
普段、なかなか意識しないものの、こうして見てみると宇宙分野でも日本とフランスは深い関係にあるのです。
このように、日本の衛星を多数打ち上げている南アフリカ大陸のギアナ宇宙センター、日本人でも見学できるそうです。公式サイトによれば、事前申し込みで3時間程度の施設見学案内ツアーがあり、フランス人以外も申し込めるとのことでした。
新型コロナの感染拡大によって2021年7月時点では海外渡航はなかなか難しい状況にありますが、世界的流行が収束したら行ってみると面白いでしょう。タイミングが良ければ、日本の種子島宇宙センターとはひと味違うロケット発射のシーンも見られるかもしれません。