「葬儀葬式ch」という珍しいジャンルのYouTuberを何年もやっていると、いろんな質問を頂きます。随分前にこんな質問がありました。
「事件や事故で、遺体が白骨化した状態で発見されることがあると思います。白骨化していても、ひつぎに納めて火葬するのでしょうか。それとも、火葬せずにそのまま、骨つぼに納めて埋葬するのですか。また、身元の分からない遺体の場合は、警察が火葬をするのでしょうか。もし、後日、身元が分かった場合、火葬費用などは遺族に請求するのでしょうか」
「きれいに骨だけになる」のは火葬だけ
「事故や事件で遺体が白骨化する」と聞くと、火災や車の炎上事故などで遺体が焼けてしまい、骨になったケースを思い浮かべるかもしれません。しかし、たとえ火災で遺体が燃えてしまったとしても、火葬した場合と同じように「きれいに骨だけになる」ことは考えにくいです。
火葬するときは800度から1000度という高温を保つ、高火力の状態を1時間ほど維持してやっと、腐敗してしまう肉体の部分を取り除き、骨にしてお返しできるのです。そのため、いくら火の手が強い火災だったとしても、きれいに骨だけの状態になることは考えづらく、また、炭化した肉体が付着していますから、きちんと火葬して、遺骨の状態にする必要があります。よって、火事で亡くなった場合でも火葬は必要なのです。
他には、屋内外を問わず遺体の発見が遅れ、腐敗や、昆虫、野生動物などによって白骨化まで進んだケースが考えられます。この場合も純粋に骨だけになっているとは限らず、肉体の一部がまだ残っているケースもあるので、公衆衛生上の観点から、やはり、火葬を行うのが一般的です。
「白骨化した遺体を火葬するとき、ひつぎに納めるのか」については状況によって、「ひつぎ」という物の定義が異なることがあります。事故などで亡くなった場合は、たとえ両脚が欠損していても、通常と同じように細長い箱形のひつぎに納めます。「長さが半分ですから、箱の大きさも半分でいいですね」となりにくいのは、通常のひつぎに納める方が遺族にとっての衝撃が少なく、安らかなお見送りができるからです。
死後、発見が遅れた場合、白骨化した遺体は長期間たつとバラバラになってしまうため、一時的にビニール袋と段ボール箱に収蔵されていることがあります。火葬の際には、部分体用のひつぎ(小さな木箱)に納めて火葬されます。こうしたケースでは、体の全ての部分が発見されるとは限らないので、ひつぎ(木箱)は非常に小さいものになることがあります。
「ひつぎに納めて火葬するのですか」という質問にも、また、「白骨化した遺体」そのものについても単純に答えることはできず、そのときの状況や状態によって対処が変わってきます。言葉にすれば、「白骨化」という3文字の表現ですが、リアルの世界では1つにまとめることができないほど、多様な状況を指すことを分かっていただきたいと思います。
火葬費用は誰が負担する?
公衆衛生上の問題としても、地域による墓地埋葬の条例により、「火葬をしていない遺骨は墓地などに埋葬できない」ことが多いです。つまり、都市部では「必然的に火葬しなければならない」といっても過言ではないのです。一例として、東京都渋谷区の条文を引用してみましょう。
【墓地、埋葬等に関する条例(東京都渋谷区)】
(第14条)区長は、公衆衛生その他公共の福祉を維持するために埋葬を禁止する地域(以下「埋葬禁止地域」という)を指定することができる。
2 墓地の経営者は、埋葬禁止地域においては、焼骨のほかは埋蔵させてはならない。ただし、区長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めて許可した場合は、この限りでない。
このように原則として、「白骨化した遺体であれども、火葬した骨でなければ墓地に受け入れない」という自治体も多いので、慣例的に火葬されることがほとんどなのです。土葬が可能な地域では遺体を埋葬できるので、そのまま埋葬することも可能ではあるでしょうが、やはり、墓地での保存や周りの環境への配慮を考えれば、白骨化した遺体といえども火葬した方が安心感を与えられますから、火葬することがほぼ全てといってよいと思います。
つまり、公衆衛生の観点、条例での墓地の制限、遺族の「ちゃんと葬ってあげたい」意思などにより、白骨化した遺体もきちんと火葬されるということです。そして、冒頭のもう一つの質問「白骨化した身元不明の遺体の火葬費用は誰が持つことになるのですか」という部分ですが、これには法律が関わってきます。
身元不明者の火葬については、記録を取った上で、本人の財産や所持金があれば、その中から火葬に関わる費用を出します。足りない分は都道府県や市区町村が負担することになっており、後々、親族が見つかった場合には不足分などを請求されることがあります。
ただし、実際に「無理やり請求された」という話は聞かないので、自治体から遺族へは「これだけ火葬に関わる費用があったから、払える分は払ってください」と求めるぐらいの運用がされていると思われます。
「無事に生き、無事に旅立つ」ことのありがたさ
遺骨の管理も自治体によってさまざまで、骨つぼなどに入った形でほぼ永久的に遺骨を保管してくれるところもあれば、一定期間は保管するものの、期限を越えた遺骨は合祀(ごうし)するといった方針のところもあります。ちなみに東京都では、全国的に見るとまれなパターンですが、初めから、民間に委託という形を取っています。このように一概に言えないのが実情です。
先述した通り、「白骨化した遺体」と一言でいっても、本当にさまざまなケースの話がありますが、お別れができて、納棺して火葬され、納骨される、そんな当たり前のことが無事に行えるのは非常にありがたいことです。見送る側にとっても、旅立つ側にとっても「無事に最後の事が進む」のは何よりも望ましいこと。無事に生き、無事に旅立てるというのはよいことなのだなと思います。
筆者は葬祭業に携わりながら、YouTubeチャンネルを運営し、こうした素朴な疑問に答えていますが、現実は「白骨化した遺体」だけを考えても、単純に答えられるものではありません。一つ一つの小さな、さまざまな違いの中で、実際に行うことは変わります。遺族がいるのか、近い血縁なのかそうでないのか、時間はたっているのか、お金はあるのか…さまざまな違いの中で「弔い」が行われるからです。
とはいえ、こうした話題を通して、「一人一人の命が閉じていく中で、皆それぞれが旅立ちと見送りをされているんだ」ということに目を向けてもらえれば、素朴な疑問に答える意味があると筆者は思うのです。
佐藤葬祭社長 佐藤信顕