沖縄本島に「ゆいレール」以外の新たな鉄軌道を通す計画があります。なぜ2本目の鉄軌道が必要で、それはどのような計画なのでしょうか。実はクルマで旅行したい人にとっても、大いに関係がある話です。
ゆいレールは“ごく一部”の鉄道 もっと壮大な“別の鉄道”計画
沖縄県は国内だけでなく、海外からも多くの観光客が訪ねる“リゾートアイランド”として人気を集めています。離島はもちろん沖縄本島でも、都市化が進んだ那覇市周辺から北上して西海岸の中部や北部に行けば、白い砂浜と真っ青な海、そして色とりどりの熱帯魚が泳ぐサンゴ礁を楽しむことができます。
那覇都市圏を結ぶゆいレールよりも、広域な鉄軌道が計画されている(画像:写真AC)。
しかしここでネックとなるのが、その中部や北部までのアクセスです。沖縄にある唯一の鉄軌道路線(鉄道路線もしくは軌道路線)は地域内交通として那覇空港から那覇市街地、そして浦添市を結ぶ「ゆいレール(沖縄都市モノレール)」のみで、中部、北部への観光輸送の役割は担っていません。
そのため中部、北部へのアクセスは高速バスを含む路線バスやレンタカーに限られ、距離のわりには時間がかかる、とくに空港への帰路については交通渋滞を見込む必要があるなど、不便な状況が長らく続いています。
もちろん、地元もこうした環境に、手をこまねいているわけではありません。ゆいレールとは別の鉄道を計画しているのです。
沖縄県は2014年から鉄軌道の構想段階における計画案づくりに着手し、2018年に「沖縄鉄軌道の構想段階における計画書」を策定しました。さらに国に対しては、構想段階から計画段階への移行を求めるとともに、導入に向けた調査などを進めています。
「新たな鉄軌道」どんな路線に?
では、その計画書において考えられている新たな鉄軌道とは、どのような路線になるのでしょうか。
まず、起点と終点は、那覇市および名護市とされ、将来的には需要増による延伸なども検討するとしています。
那覇市は言うまでもなく沖縄県の県庁所在地で、周辺の豊見城市、糸満市、浦添市などと事実上一体となる一大都市圏を築いています。
一方の名護市は沖縄本島のほぼ中央部にあり、人口規模こそ那覇都市圏の10分の1程度ですが、地域の中核都市として、また北部観光の拠点として重要なポジションを占めています。
いいルート! 実現したらどう変わる?
また那覇から名護までの概略ルートは、浦添市、宜野湾市、北谷町、沖縄市、うるま市、恩納村を想定しています。地図で表すと、那覇市から北谷町までは西海岸を北上、そこからいったん内陸部を横断して東海岸のうるま市に向かい、うるま市北部からは再び内陸に入り、西海岸の恩納村に進み、名護市までは西海岸をたどるというものです。
このルートは人口が多く、産業が集積する宜野湾市や沖縄市、うるま市、そして観光客に人気の北谷町、恩納村を経由するという、県内の需要と県外からの観光客の需要をうまくバランスさせていると感じられます。
所要時間は那覇から名護まで1時間と想定。その実現のためには最高運行速度100km/hの専用軌道を有するシステムが必要で、輸送力も考えると、小型鉄道、モノレール、AGT(新交通システム)、HSST(浮上式リニアモーターカー)、LRT(ライトレールトランジット)が候補に挙がっています。また路線上に設けられる駅を中心に周辺地域を結ぶ支線(フィーダー交通ネットワーク)として、主に路線バスの活用を想定しています。
ではこの「沖縄鉄軌道」が実現すると、沖縄観光はどう変わるのでしょうか。
まずもっとも大きな効果は、恩納村や名護市への移動時間の短縮です。現在、那覇空港からバスでの所要時間は、恩納村(タイガービーチ前)まで約1時間20分(沖縄エアポートシャトル)、名護市(名護バスターミナル)までは約1時間40分(やんばる急行バス)となっています。
もし那覇市側の始発駅が空港直近に設けられるとしたら、現在のバス移動よりも速く、かつ渋滞知らずの移動が可能になり、滞在時間が限られている多くの観光客にとって、大きなメリットになるはずです。
クルマ旅行にも大いにメリットが生まれるワケ
つぎにレンタカー利用にも大きな効果が生まれそうです。現在、那覇空港周辺のレンタカー営業所は、一部の事業者を除けば、空港ターミナルよりもかなり南、送迎バスで20分程度のところに集中しています。こうした営業所では空港到着からをレンタカーを借り出して出発するまで最短でも1時間、混雑時には2時間近くかかることもあります。
また返却についても、夕方のラッシュ時にかかる時間帯では「飛行機出発時刻の3時間前の返却」を指示するレンタカー会社もあり、リゾートを楽しめる時間が短くなるという弊害が生まれています。
もし鉄軌道が実現すれば、飛行機到着から鉄軌道に乗って1時間から1時間半後には恩納村や名護市でレンタカーを借り、帰りは飛行機出発の2時間前に返却して、余裕をもって空港へ戻ることも可能となり、沖縄観光のタイパ(タイムパフォーマンス)が大きく向上するはずです。
最後に、名護市周辺、さらには北部の観光振興です。名護市周辺には“クルマで行ける離島”の瀬底島や伊江島、さらに「美ら海水族館」など人気の観光スポットが点在しており、2025年には新たなテーマパーク「ジャングリア」の開業が予定されています。鉄軌道の実現は観光客にこうした観光スポットへの容易なアクセスが、地元には観光客増による経済効果が生まれることになるでしょう。
ただ実現には大きなハードルもあります。計画書では那覇市から宜野湾市まで、北谷町からうるま市までを地下トンネルとしていますが、そのコストと工期が大きな課題になりそうです。
また那覇空港との接続については、同じく那覇空港を起点とするゆいレールの経営への影響も懸念視されています。
関係者が知恵を出し合い、そうした難題を乗り越えての事業化を、ぜひ心待ちにしたいと思います。