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もうひとつの500系新幹線「WIN350」 熾烈な飛行機との戦いに挑んだ高速試験電車

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航空機という強力なライバルを持つ山陽新幹線。500系新幹線の300km/h運転に向け、500系900番台を名乗った試験車両に「WIN350」があります。丸い車体など独特な風貌の意味は何なのでしょうか。

東海道新幹線以上に過酷な航空機との競争

 JR西日本の山陽新幹線には、航空機という強力なライバルが存在します。特に福岡空港は福岡市中心部からのアクセスが抜群によく、また伊丹空港も大阪市中心部まで40分弱で出られるため、航空機との競争は東海道新幹線よりも過酷です。

 国鉄が分割・民営化された1987(昭和62)年、山陽新幹線の最高速度は220km/h。新大阪~博多間の所要時間は最短2時間59分、1989(平成元)年に100系電車「グランドひかり」が230km/h運転を行っても2時間49分でした。国鉄時代は、国が大阪~福岡間の航空便の本数を制限して新幹線を保護していました。しかし近い将来、国内の航空各社の事業分野を定めた45/47体制の撤廃や関西空港の開港などで規制が緩和されれば、航空機との競合がより熾烈になります。そこでJR西日本は、将来にわたって競争力を確保するため、最高速度350km/hを目指した新幹線高速試験電車「WIN350」の製造に着手したのです。

Large 191128 win350 01博多総合車両所に保存されているWIN350の先頭6号車(2009年10月、恵 知仁撮影)。

 WIN350は、近い将来に営業を開始する予定だった500系電車の技術開発を行う車両とされました。そのため、形式は500系電車の試作車両という意味で500系900番台を名乗ります。6両すべてが電動車で、平坦線の均衡速度385km/h以上、トンネルでは空気抵抗を受けても335km/hで走行できるパワーを持ちました。

 WIN350の外見で最も特徴的なのは、異様に低い車高です。その高さは3300mm。車体の幅が3380mmですから、車高よりも幅が広い、扁平な車両となりました。これに伴い室内高は1920mmに。かつて定められていた車両構造規則では、室内高を最低1800mm取ることとされていたので、まさに規定ぎりぎりの室内高しかありません。これは、車高を下げることで車両の断面積を小さくし、正面からぶつかる空気の量を減らして空力音を小さくするためです。つまり、車高の低さは騒音防止のためのデザインだったのです。

様々な試験のために最小限に抑えられた設備

 もちろん室内高1920mmというのは相当な圧迫感があるので、とても営業運転には使えません。では何のために低くしたのかというと、屋根の上にダミーの屋根を載せて車高を変化させ、騒音の発生具合を実験するためです。車体は徹底的に軽く造り、そこに死重(おもり)を積み、車重変化による振動や騒音の変化を確認できるようになっています。

 また、窓やドアの段差による騒音がどのくらいかを実験するため、4号車を除くほとんどの車両は窓が最小限しかありません。また、ノーズの長さは前後で異なります。1号車は6.7m、6号車は、高速走行に伴いトンネルの出口などで発生する空気の圧力波対策で10.1mとし、空気の流れを考えた形状とされました。

 このようにWIN350は様々なパーツが付加され、あらゆる試験に対応できるようデザインされたのです。

Large 191128 win350 02東海道新幹線を走る500系電車。WIN350の試験結果が随所に反映された(画像:写真AC)。

 WIN350は1992(平成4)年4月、博多総合車両所に配属。ここを拠点に6月初旬に性能確認試験を始め、350km/hを目指した高速運転を行いました。この際に小郡(現在の新山口)~新下関間は、350km/h運転に耐えられるよう地上設備を強化しています。

 高速試験は順調に進み、同年8月8日には目標となる350.4km/hを達成。その後は300km/h運転での環境性能、すなわち周囲に与える騒音・振動の影響、乗り心地などの試験が行われました。

 試験の結果、350km/h走行は可能でも、環境省が示す基準に騒音を抑えきれなかったことや、曲線区間で横方向に働く加速度の課題などが残りました。さらにブレーキ性能や経済性の問題など総合的な判断から、500系電車の最高速度は300km/hとされました。

500系の丸い車体はWIN350ゆずり

 WIN350の試験結果を反映した500系電車は、一見WIN350の面影は残っていないように見えます。しかし極端に丸い車体断面は、WIN350で検討された、断面積の縮小と天井高さの確保を両立した結果生まれた形状で、15mの長いノーズも、WIN350のノロングノーズをもとに必要な長さを割り出したものです。パンタグラフとカバーも数々の形状を試験した結果、軽量かつ低騒音のパンタグラフと空気抵抗を減らした全長の長いカバーに落ち着きました。

Large 191128 win350 03山陽新幹線を走る500系電車(2011年11月、恵 知仁撮影)。

 外見は大幅に異なりますが、WIN350で得られたデータは500系電車にしっかりと反映されています。それは所要時間にも表れており、500系電車は新大阪~博多間を最速2時間17分で結びます。同区間における航空機と新幹線を合わせた輸送量のうち、新幹線は約87%と成果を上げています。WIN350がひらいた高速化への道は、現在も高い競争力として山陽新幹線を支えています。

 なお、WIN350は1996(平成8)年に廃車。中間車は解体されましたが、先頭車のうち1号車が鉄道総合技術研究所風洞技術センター(滋賀県米原市)に、6号車が博多総合車両所(福岡県那珂川市)に、それぞれ保存されています。

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