かつて日本の三大航空会社のひとつだったTDA/JASの塗装といえば4色の「レインボーカラー」です、かつてレッド&グリーンの渋い塗装を施していた同社。この変更には、欧州の巨人になる前のエアバス社との深い関係がありました。
事の発端は1979年の入間基地航空宇宙ショー
1979(昭和54)年に航空自衛隊入間基地で開催された航空宇宙ショーで、ヨーロッパのエアバス社は、同社が初めて手掛けた旅客機「A300」を出展し、デモフライトを実施しました。まだ現在ほどエアバス社が大きなシェアを持っておらず、当初発注が伸び悩んでいたA300がやっと売れ始めた時代とのことです。
このA300の胴体に描かれていたのが、今は後にJAS(日本エアシステム)へ社名を変え、その後JAL(日本航空)の一部となる、TDA(東亜国内航空)の社名ロゴです。そしてその塗装は、TDA/JASでその後、スタンダードな機体デザインとなる、紺と3色の黄色系統の色のグラデーションをあしらった「レインボーカラー」でした。
TDAのエアバスA300(画像:JAL)。
TDA/JASといえば、JAL(日本航空)やANA(全日空)とならぶ、かつての「三大航空会社」のひとつでしたが、ほかの2社にはない独自性をもつ会社でした。そのひとつが、ジェット旅客機のラインナップです。
同社の歴史の全容を見てみると、ジェット旅客機の主力は、大容量が必要な路線であればエアバスA300、ローカル線などそこまで輸送力を必要としない路線であればマクダネル・ダグラスDC-9/MD-80系のふたつといえるでしょう。両モデルともに、国内のほかの航空会社では導入されていないモデルでした。
そして実はTDAは、日本で初めてエアバス社製機を発注した航空会社でもありました。A300が導入された当時、JALは「ジャンボ・ジェット」ボーイング747や一回り小型の三発機ダグラスDC-10、ANAは主力機としてロッキードL1011「トライスター」を導入。いずれも同世代で、747以外はよく似たコンセプトで開発された機体ですが、JAL、ANAが採用したメーカーは世界的にも名が知れていたのに対し、エアバス社は、まだブレイク前でした。
のちの巨大メーカーを動かしたTDA
当時、エアバス社にとってTDAは、日本参入への大切なパートナーのひとつであった一方、政治的な理由でおもにローカル線しか定期便を飛ばせなかったTDAにとって、A300は、伸び続ける航空需要をつかむだけでなく、未来の国内幹線へ本格参入を見据えた機体だったことでしょう。そして、両社の相思相愛は、TDAの機体デザインまで変えてしまうことになります。
それまでTDAの塗装は、グリーン&レッドの2色のチートライン(窓枠に沿った線を施す塗装)を引き、垂直尾翼でそのラインを上に曲げたものでしたが、1980(昭和55)年にA300導入初号機が飛来した際、新塗装をまといます。これが、先述したA300が入間でデモフライトした際にまとっていた「レインボーカラー」だったのです。
当時の筆者(種山雅夫、元航空科学博物館展示部長 学芸員)は1号機を見た時、スペシャルマーキングかなと考えていたのを記憶していますが、その後日を追うごとに、順次この「レインボーカラー」の機体が増えていきました。つまり、エアバス社製機のカラーリングを「TDAの塗装」として譲り受けることができたのです。
TDAのA300採用については、機体購入にあたり資金調達が優遇されたことが大きな要素でありましたが、入間でのエアバス社の取り計らいにTDA側が感動し、頼みこんだ結果、コーポレートカラーを無料で提供されたことなどのハナシが飛び交っています。いずれにせよ、エアバス社とTDAがほぼ対等、まさに相思相愛の関係をもったうえで、この塗装が実現したともいえるかもしれません。
エアバス社発祥の「レインボーカラー」採用の裏で…
なお、A300から始まったTDA/JASのレインボーカラーは4色で構成されていますが、もう一回り小さい同社の主力ジェット機だったDC-9/MD-80系は一色少ないのだそう。
1985(昭和60)、DC-9/MD-80系の新モデル「MD-81」の就航により、レインボーカラーのDC-9/MD-80系が誕生しましたが、エアバス社のデザイン譲りであることから、DC-9/MD-80系を製造するマクダネル・ダグラス社が、その塗装にされるのを嫌がったとか、嫌がらないとかいった逸話もあったようです。ちなみに、1988(昭和63)年、JAS(日本エアシステム)に社名変更した直後に導入されたDC-10は、A300と同様4色でした。
JASのMD-90型機(画像:JAL)。
ところで、「レインボーカラー」と呼ばれたJAS機はほかにもあります。
1996(平成8)年に導入されたDC-9/MD-80系の最終形「MD-90」は、初号機から7号機まで、各機異なる鮮やかな虹色が特徴の特別塗装で、こちらも「レインボー・カラー」と呼ばれ、8機目からも踏襲されていました。
このほか、1997(平成9)年に導入されたボーイング777-200も、一般公募で選ばれた虹色塗装が特徴で、こちらは「レインボー・セブン」の愛称を持っていました。TDA/JASと「レインボー」との縁は、エアバス社との相思相愛に始まりJALと合併する2004(平成16)年まで、四半世紀以上続いたといえるでしょう。