4月入社の新入社員が研修を終え、各部署に配属された会社も多いと思います。この時期に話題になるのが「メールやパソコンを使えない新人」です。日常的な連絡手段がLINEやツイッターなどで、スマホでの文字入力に慣れ、キーボードの入力は経験がないということもあるようです。新入社員の現状について、キャリアコンサルタントの小野勝弘さんに聞きました。
「相手に伝わらない」メール
Q.メールが使えない新入社員が多い、というのは事実でしょうか。
小野さん「事実だと思います。特に、『相手に伝わらないメールを書く』という意味で『使えない』という人がほとんどではないかと考えています。それは、新人研修で文書能力向上を目指す際の実体験から顕著に感じます。
相手に伝わらないというのは、さまざまな解釈を生んでしまうメールだったり、メールそのものが何を言いたいのか分からなかったり、といった状態を指します。例えば、旧字体などを使って文字化けしてしまう『機種依存文字』をメールで送ってしまうケース。機種依存文字そのものは教えればよいのですが、本当に問題なのは、文字化けを社外の相手から指摘された際、ビジネスメールであるにもかかわらず、『文字化けしていますか、なぜでしょうね』といった返事をすることです。
社外の人に対して、そのようなくだけた伝え方で本当に伝わるのでしょうか。もちろん、新人と相手の関係性によっては問題ないのかもしれません。ただ、少し考えてみてください。表情も声の調子もわからないメールでのやり取りで、『文字化けしていますか、なぜでしょうね』と疑問文を投げかけられたら、受け取る側はどのように解釈するでしょう。例えば、『私は間違ってない。受け取るお前が悪い』と責任を転嫁してきたと受け取る人もいるでしょう。
『なんだこの会社は。礼儀がなってない。けしからん』と、会社自体に対して懐疑的になる人もいるかもしれません。『メールすら使えないのか、今の新人は…』と、諦める人もいるかもしれません。このように、メールにおいての礼儀を知らず、相手の誤解を招きやすい文章を作ってしまうことこそが、『使えない』と言われる理由だと思っています」
Q.パソコンが使えない新入社員が多い、というのは事実でしょうか。
小野さん「何をもって『使えない』と評するかですが、10年前と今を比較して『使えない』と言われるケースが増えているように思います。ただ、PCが使えないというよりは、『PCがいらない』世代になっていると感じます。スマホの普及で、スマホで何でもできる時代になっています。
文書作成から動画の編集まで全てスマホでできますし、少し大きな画面が欲しければ、タブレットもあります。卒論も、ゲームも、アルバイトの報連相も、予定調整も、全てスマホで賄える世代ですから、PCに触れる必要がなく、『PCがいらない』世代になってきているように思います。
しかし、企業に入ると基本的にはPCを使うことになります。中には、アプリケーションも自社で作ることで、予定の調整から報連相までタブレットを用いた自社アプリでやっている企業もあるようですが、アプリは主に日常業務のみの対応というケースが多いです。また、タブレットで入力された情報も、PCで管理されます。他にも、突発的なヘルプに対応した際や他者との協業など、自社のアプリだけでは対応しきれないケースは、PCで個別対応することになるでしょう。
大きく市民権を得てきているとはいえ、まだまだタブレットなどは補助ツールであって、企業においての主流はPCです」
Q.具体的にどの程度「使えない」のでしょうか。
小野さん「さまざまです。電源のつけ方、落とし方から教える必要があるケースも実際にあります。キーボードが使えないというケースも比較的よく聞きます。より正確に言えば、キーボードより(スマホ上などで指先を素早く動かす)フリック入力の方が速く、キーボード入力に意味を見いだせない新人が多いという感じでしょうか。実際、文章系の研修現場でも明らかに『LINEに入力し、どこかに送信した画面をキャプチャして、原稿として持ってくる』人もいます。
しかし、キーボード操作はPCを使う上では避けて通れません。入力の速さはフリック入力に軍配が上がったとしても、『チェックの容易さや訂正の手軽さ、マクロなど高度な設定はキーボードの方が優れている』と伺ったことがあります。将来的な業務効率を考えるのであれば、キーボード操作に慣れておくべきでしょう。
最後に、一番多いのが、PCを用いて文書作成や印刷ができないというケースです。これは、できないというよりは『やったことがない』ケースです。この場合は、やったことがないだけなので、実際に研修やOJTなどでやってもらうことでスキルアップが望めます」
大学では指導しない?
Q.大学でメールやパソコンについて指導はしないのでしょうか。
小野さん「指導はしているものの、定着しないというのが実態だと感じます。大学においてメールやパソコンの指導はあったとしても、選択科目だったり、1年次の授業だったりすることから、定着することなく就職活動を迎えるケースが多いです。いくら勉強しても、3年あれば技術は進歩するので、3年前のテキストがそのまま役に立つということはほとんどありません。
また、就職活動でも、エントリーシートを埋めてそのまま送信するような形式が一般的なため、メールを使わないのです。スマホが使えて、面接で素直な自分を表現できさえすれば、うまく就職が決まっているケースが多く、改めてパソコンやメールについて必修で教えているというケースは少ないように思います。人によっては、卒業と同時に社会人基礎力として学んでいる人を見る機会もありますが、それが新入社員のスキルのスタートラインに差がある状況をつくり出していると思います」
Q.メールやパソコンが使えない新人に対して、企業は一般的にどのように対応しているのでしょうか。
小野さん「OJTと研修が一般的なように思います。OJTにおいては、先輩社員が職務の中で伝えていったり、日報などを書く際に指摘をしたりしているケースがあるでしょう。研修においては、私たちが取り組んでいる日本語力向上研修においてもですが、報告書の書き方やメールの書き方といった実務的な力にひも付いた研修を行っています。結果として、タイトルを見ればどのような内容かが分かるメールが作れたり、社外に出しても失礼に当たらないメールが書けたりするようになります。
ただ、どちらにしても失敗をするなどして、『自分ごと』の問題としなければ、本当の意味での定着はしません。そこで、基本的なことだけ教えて、後は現場でトライアンドエラーができるような『行動への意識づけ』の方に、研修もOJTも力を注ぐことが多いように思います」
Q.ワードやエクセルなどのビジネスソフトについてはどうでしょうか。
小野さん「大学で必須ではないことから、使えない人が多い印象です。しかし、使えなくても困らない環境とも言えます。例えば、数値を入力すれば必要な表計算などは勝手にやってくれるシステムが導入されている場合もあります。従って、新入社員が困るような環境ではないことが多い印象です。
ただし、小規模な会社では、ワードやエクセルが使えることは大事でしょう。小規模になればなるほど、IT化の対応が進んでおらず、ワードやエクセルの使用が必要な一方、仕事が多すぎて知識を伝えていけない現状があり、『PC学ぶなら一人で学べ』といった環境を嫌って辞めていく新人も多いようです」
Q.現在、就職活動中の学生も多いと思います。彼らにアドバイスをするとすれば。
小野さん「システムは変わっても、日本語の構成は変わりません。メールやパソコンといったシステム的なことよりも、学生時代から、文章で気持ちや状態、連絡事項などを言語化して伝える練習をしていくことが大切です。論理的な文章が書けるようになれば、面接時にも『論理的な受け答えができる』として評価に結び付くでしょう。
また、略語を使っている人をよく見かけますが、『略語は日常生活の中のみ』ということを意識してください。無意識になってしまうと、仕事に慣れてきた時期に上司の前で『りょ』(了解の意味)などと無意識に使ってしまい、上司や先輩からひんしゅくを買うケースが起きてしまいます」
オトナンサー編集部