借金の「連帯保証人」になったことをきっかけに、それまでの生活が破綻するケースは珍しくありません。世間では「連帯保証人には絶対になるな」とよくいわれていますが、親しい人間からの頼みを断れず、つい引き受けてしまう人もいるようです。
もし、本人や家族が他人の連帯保証人になった場合、どのように対処すべきなのでしょうか。また、連帯保証人になるようしつこく迫られた場合、警察などに相談した方がいいのでしょうか。「保証人制度」の内容などについて、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
民法改正で保証人保護が強化
Q.そもそも、「保証人制度」とはどのようなものでしょうか。
牧野さん「保証人制度とは、主債務者(お金を借りた人)が借金を返済できないとき、保証人が代わりに返済する制度です。日本社会に存在する保証はほぼ全て『連帯保証』ですが、その場合、主債務者が返済するかどうかを問わず、お金を借りていない『連帯保証人』に対して支払いを求めたり、財産を差し押さえたりすることができます。
連帯保証人は責任が重いので、自己破産や自殺などに至ってしまう弊害を防止するため、今年4月の民法改正で、連帯保証人を含む保証人への保護が強化されました。主な改正点としては第1に、保証人となるには、法務大臣が任命する公証人による保証意思の確認手続きが原則必要となり、事業債務の保証など一定の場合を除き、事前に『公正証書』が作成されていなければ原則無効となります。
第2に、家賃や住宅ローンのように返済額が決まっているもの以外の借金の場合は契約の際、必ず限度額(民法上は『極度額』)を決めなければならず、もし決めていない場合、保証の取り決めは無効になります」
Q.連帯保証人として借金を肩代わりした場合、肩代わりした分を借り主(主債務者)に請求することはできるのでしょうか。もし、主債務者が請求に応じなかった場合はどうなるのですか。
牧野さん「連帯保証人が借金を主債務者に代わって支払った場合、肩代わりした分を主債務者に請求することができます。これを『求償権』といいます。債務者が請求に応じなかった場合は裁判で請求することができますが、主債務者側が自己破産している場合が多いので、実際には回収ができない場合が多いでしょう」
Q.一度引き受けた連帯保証人をやめることはできるのでしょうか。例えば、主債務者が夜逃げなどで行方不明になった場合は。
牧野さん「連帯保証人の側から、保証契約を一方的に解除することができるかどうかは、保証契約の内容によって異なります。賃料や住宅ローンのように、債務額や返済期限が定まった債務について保証をした場合は、代わりの保証人を立てるなどで債権者の承諾を得ないと、保証契約を一方的に解除することはできません。
主債務者が夜逃げなどで行方不明になった場合でも、お金を貸した側からはまさに保証契約が必要になってくる場面ですので、保証人から一方的に解除することはできません。一方、主債務者の現在負担する債務だけでなく、将来発生する債務についても包括的に保証をしている場合は、一定の条件のもとで一方的に解約することができます」
Q.ちなみに、自己破産すると借金は帳消しにできるのでしょうか。それとも、一部払わなければいけないケースもあるのでしょうか。
牧野さん「自己破産とは、現在の資産や収入ではすべての借金の返済を続けることが不可能な場合に、自分から裁判所に申し出て、不動産など『最低限の生活』に必要なものを除く財産で返済する代わりに、残った債務の返済義務を法的に免除してもらう手続きです。
ただし、手続き前にギャンブル(パチンコや競馬など)や投資(株やFXなど)、趣味に関する浪費(旅行や高級品購入など)でお金を使った場合は『免責不許可事由』に該当し、原則として免責されません。つまり、借金は帳消しにはなりません」
Q.「借金を返せなくなったら、自己破産すればいい」と言う人がいますが、自己破産は気軽に手続きしてもよいものなのでしょうか。
牧野さん「確かに、自己破産しても戸籍には記載されませんし、選挙権や年金の受給にも影響しません。ただし、自己破産すると、官報に名前、住所などが掲載されるほか、信用情報機関に事故情報が登録されて、自己破産からしばらくの間(一般的には7~10年間)は、住宅ローンなどの借り入れが難しくなります。また、ローンの残っている不動産や車(自動車)は、自己破産手続きをしようとすると担保権を実行されて、手放さなければならないことが多いでしょう。
さらに、自己破産の手続き中(通常2~3カ月)には就けない職業や職種があります(免責が確定した後は可能)。具体的には、弁護士、司法書士、公認会計士などのいわゆる士業のほか、警備員、生命保険の営業、宅地建物取引士などが対象です。また、銀行の取締役や執行役、監査役にも就けません。
また、債務に保証人(連帯保証人含む)がついている場合、先述したように、債権者(金融機関)は保証人に対して返済を求めることになります。債権者は借り主の返済不能に備えて保証人を確保しているため、保証人に請求しなければなりません。
なお、自己破産しても、税金や公的年金、国民健康保険料など国や自治体に納める債務の多くは免責されません。また、必ず免責許可をもらえるわけではなく、先述のように、ギャンブルや投資、浪費でお金を使っていた場合は原則として免責されません」
Q.連帯保証人を引き受けた人が、連帯保証人として借金を肩代わりしたために自己破産した場合、その借金はどうなるのでしょうか。
牧野さん「自己破産手続きにより免責されれば、先ほど説明した自己破産の事例と同様に、借金を返す必要はなくなります」
Q.もし、本人や家族が連帯保証人になったものの解除したい場合、どう対処すればいいのでしょうか。また、他人が連帯保証人になるよう脅したり、しつこく迫ってきたりした場合は何らかの法的責任を問うことはできますか。
牧野さん「まずは保証人になる前に、その人の借金を実際に背負うつもりで慎重に検討する姿勢が重要です。今回の民法改正で、公証人による保証意思の確認要件が原則入ったため、公証人役場に行くことで事態の重要性を認識できるようになり、保証人になろうとする人が保護されるようになってはいますが、本人の慎重さが最も大切です。
もし、本人や家族が連帯保証人になった場合、一般的には難しいですが、まずは保証契約を一方的に解除することができる可能性を探ってください。それが不可能な場合、代わりの保証人を立てるなど債権者の承諾を得て、保証契約を合意解約することができるかどうかを検討する必要があります。そのため、弁護士など専門家に相談するのがよいでしょう。
保証人になるのを断ったにもかかわらず、脅したり、しつこく迫ってきたりした場合は、義務のない行為をさせる『強要罪』に該当する可能性がありますので、必ず警察に相談してください」
オトナンサー編集部