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「つま先立ちでも弾けます」揺れる車内で演奏しすぎて得た“特異な能力”とは? 「世界一列車に乗っているバイオリニスト」が超人的だった

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豪華観光列車「ザ・ロイヤルエクスプレス」などに同乗し、揺れる車内で立ちながらバイオリンを奏でる大迫淳英さん。「揺れに一番強いバイオリニスト」は、もはや「超人的」と呼ぶべき境地に達しているようです。

持っているバイオリンは「335歳」!

 2025年1月31日(金)から四国・瀬戸内エリアで運行が始まる豪華観光列車「ザ・ロイヤルエクスプレス」では、食事中などに“線路上のバイオリニスト”の生演奏を楽しめます。同乗するバイオリニストの大迫淳英(おおさこ・じゅんえい)さんは走行中の列車で「つま先立ちでも弾ける」という“スゴ技”の持ち主で、「揺れに一番強いバイオリニスト」を自認します。

Large figure1 gallery9電気機関車に牽引される「ザ・ロイヤルエクスプレス」。当然ながら走行中に列車が揺れる(乗りものニュース編集部撮影)。

 なぜ大迫さんは揺れる列車内で立ったまま音色を奏でることができるのか、1月24日の試乗会で秘訣を尋ねました。

 東急が運営するザ・ロイヤルエクスプレスなどを使い、JR西日本とJR四国の路線を駆ける四国・瀬戸内エリアのクルーズは2025年3月まで6回催行。5号車と6号車のダイニングカー(食堂車)で、地元の選りすぐりの食材を使った料理の味わいに彩りを添えるのが、大迫さんのバイオリン演奏です。

 イタリアのバイオリン製作者、ジョフレッド・カッパが1690年に手がけた「335歳」のバイオリンを左肩に載せ、右手で弓を操りながらツアーのテーマ曲「ザ・ロイヤルエクスプレス~四国・瀬戸内の旅」などを奏でます。5号車と6号車にはピアノもあり、二重奏も披露されます。

 大迫さんはJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」が2013年に運行を始めて以来、2018年2月まで計389回にわたって同行しました。「最初の305回は全ての運行に連続で乗務し、年間200日以上を『ななつ星in九州』の車内で生活したので、今となってはちょっとブラック(な労働環境)だったかも」と大迫さんは苦笑しました。

途中から乗って演奏するのは「ちょっとおかしい」 最初から最後まで乗るワケ

 大迫さんは「ななつ星in九州」に続き、「ザ・ロイヤルエクスプレス」のクルーズでも参加者の旅程に同行しています。筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は「行程途中のどこかの駅で列車に乗り込んで演奏し、終わったら下車する方法もあるのではないですか」と質問すると、大迫さんはこう振り返りました。

Large figure2 gallery10ザ・ロイヤルエクスプレスの四国・瀬戸内クルーズに同行するバイオリニストの大迫淳英さん(大塚圭一郎撮影)。

「実はJR九州から『ななつ星in九州』での演奏のオーダーがあった時に、行程の途中で2~3時間乗ってもらおうかという提案を受けましたが、それはやめた方がいいって言ったのです」

 その理由を「お客様が主役なのに、そこに演奏者が乗ってきて、演奏を聞いてもらって帰ると、お客様以上のお客様になってしまう。それはちょっとおかしいと考えたためです」だと明かしました。

 大迫さんの信念は、参加者の心に響く音楽を届けるためには「お客様は毎回違い、雰囲気も毎回違うものになる。晴れの日も雨の日もある旅を共有した上で演奏を届ける必要がある」というもの。そこで、「ななつ星in九州」もあえて「全部乗せてくれるのだったら」という条件で引き受けたそうです。

 また、「ザ・ロイヤルエクスプレス」の車内で演奏する曲目は「お客様の顔を見て決めている」とか。「お客様の雰囲気、年齢も違い、求める音楽も違いますので、(同じダイニングカーの)5号車と6号車で曲目を変えることもあります」と話します。

 大迫さんはまた、参加者から弾いてほしい曲のリクエストも受け付けています。「こういう曲がお好みだなと理解できる」ため、どの曲を弾くかの手がかりになると解説しました。

「世界一列車に乗っているバイオリニスト」の職人芸

 筆者の知り合いのJR九州幹部は「揺れる列車で立ちながら演奏できるバイオリニストは大迫さん以外に知らない」と舌を巻いていました。この点を質問すると大迫さんは笑みを浮かべて「私は揺れにはたぶん一番強く、世界で一番列車に乗っているバイオリニストだと思います」と認め、「つま先立ちしても弾ける」と豪語しました。

Large figure3 gallery11大迫さんが演奏する6号車ダイニングカー(大塚圭一郎撮影)。

 揺れる列車でつかまらずに立っていられる秘訣は「脱力なんですよね」と明かしました。これは、靴底を床に密着させて踏ん張っているのではないかという筆者の想像とは真逆でした。大迫さんは「踏ん張るとうまくいかないです。だから脱力して、列車に揺れを任せると、体が一致してくるのです」と打ち明けました。

 経験を積み重ねると「こっちにこのような揺れが来るとかが分かる」とか。それでも「運転は運転士によって結構様々で、揺れは毎回違う」というので、立ちながら音色を奏でるのは“線路上のバイオリニスト”ならではの職人芸と言えそうです。

 大迫さんが立ちながら演奏するのには「ピアノは動かないけれども、バイオリンは目の前まで行けるので機動力を生かしたい」というこだわりがあります。「目の前でお客様のリクエスト曲に応えたり、聞こえやすい場所や見やすい場所に行けたりする」強みを生かし、鉄路を進む列車と“伴奏”するように「お客様の旅に感動を作りたい」と意気込みます。

駅にも出張ります!

 大迫さんの生演奏を堪能できる「ザ・ロイヤルエクスプレス」の四国・瀬戸内クルーズの参加料金は最低でも1人当たり96万円と、敷居が高いのは否めません。それでも、参加者を温かく出迎えてくれる地域住民らに謝意を示すため、大迫さんは一部の到着駅のプラットホームでは電気バイオリンを奏でる「ミニコンサート」を開いています。

「列車の窓ガラスを隔てて全然世界が違うものの、音楽だけでも出て行って、お客様に車内の雰囲気を届けたい」という大迫さんが奏でる美しい音色と優しい心遣いも乗せながら、ザ・ロイヤルエクスプレスは四国・瀬戸内エリアを快走していきます。

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