2022年6月29日、大分県別府市の交差点で発生した、大学生2人が死傷したひき逃げ事件。発生から2年がたちましたが、いまだ容疑者の行方が分からないままです。同事件は2023年9月、警察庁により通常の指名手配から「重要指名手配」に切り替えられ、全国で初めて、ひき逃げ事件の容疑者が重要指名手配に指定される事例となっています。
この「重要指名手配」、通常の指名手配とはどう違うのか、あなたは正しく知っていますか。今一度、正しく理解しておきたい両者の違い、そして「重要指名手配」の重さについて、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士が解説します。
殺人や強盗致傷などの凶悪犯罪が対象
まず、通常の「指名手配」とは、被疑者の身柄を確保するために、特定の事件で逮捕状が出されている被疑者の情報を公開し、国民全体から情報提供を受けて被疑者の逮捕を要請する制度です(犯罪捜査規範31条)。「逮捕状を取ったものの、被疑者が所在不明」の場合に行われます。
公開される被疑者の情報には、氏名、顔写真、外見の特徴、事件内容などが含まれます。
一方、「重要指名手配」とは、指名手配とした容疑者のうち、全国の警察を挙げて捜査をする必要性の高い、殺人や強盗致傷などの凶悪犯罪、または広域犯罪を対象として指定された指名手配のことです。
別府市の事件においては、ひき逃げ、すなわち道路交通法違反の容疑者が重要指名手配に指定される、全国初の事例となりました。通常、重要指名手配は殺人や強盗致傷などの凶悪犯罪が対象となることが多いですが、この事件においては単なる道交法違反ではなく、殺人の容疑もあるので、重要指名手配となったのでしょう。
なお、この事件では、事故前後の容疑者の様子・行動の証言から、遺族が道交法違反容疑から「殺人」への切り替えを求めていることも報道されています。
道交法違反の最高の法定刑は、「車両等の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があった場合において、人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるとき」、10年以下の懲役または100万円以下の罰金となります(同法117条2項)。
それに対して殺人罪の法定刑は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役です(刑法199条)。
公訴時効についても、道交法違反の場合は「10年」(過失致死)と定められていますが、殺人罪の場合にはありません。2010年に、殺人罪の公訴時効が廃止されたためです。これまで、殺人罪の公訴時効期間は「25年」とされており、たとえ凶悪な殺人犯であっても、25年間逃げ切れば処罰されることはありませんでしたが、殺人事件などの遺族の方々からの声を受けて改正されました。
別府市の事件においても、殺人罪での容疑が固まってくれば、捜査を殺人罪に切り替える可能性は高いでしょう。
オトナンサー編集部