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第7回 カレーのきた道

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第7回 カレーのきた道

第7回 カレーのきた道

寿木けい「土を編む日々」

 2001年の夏、私は虎屋の羊羹を抱えて横須賀へ向かっていた。謝罪をするためだ。

 出版社に入って初めて担当した特集号で、横須賀にあるカレー屋を取材した。
 謝罪の原因となったのは、誤植だった。当時は原稿を電話口で読み上げ、お店のひとに聞いてもらって確認作業をしていた。その店ではじゃがいもを使っていない──しかもそれがレシピの肝だ──にもかかわらず、私は誌面に書き入れてしまったのだ。電話口でどんな行き違いがあったのか、今となっては記憶も定かでない。

 料理と真摯に向き合ったことのない新人編集者の無知。当然じゃがいもが入っているという思い込みがあったのかもしれない。
 それ以来カレーを前にするたびに具が気になって仕方ない性分になった。それがこうして料理の仕事に生かされていると思うと、不思議な道行きである。

 横須賀といえば、海上自衛隊のお膝元。1908年に発行された『海軍割烹術参考書』を再現したカレーでまちおこしをはじめたのは、1999年のことだ。

 海上自衛隊では、長い航海生活で曜日感覚を失わないよう、毎週金曜はカレーの日と決まっている。
 ステイホームが叫ばれる2020年、誰が呼びかけたか「金曜カレー」がSNSに登場したとは、なんの因果だろう。外出を制限され、曜日感覚を失いがちなのは家の中とて同じ。単調な生活に句読点を打つのは、いつの時代もカレーなのだ。

 金曜だけでなく、毎日カレーを作り続けるひとたちがいる。
 ドキュメンタリー映画『聖者たちの食卓』(2011年/原題『Himself He Cooks』)で描かれるのは、インド北西部にあるシク教総本山ハリマンディル・サーヒブの公衆食堂だ。
 毎日10万食のカレーが、500年もの長きにわたり、巡礼者にも旅行者にも等しく無償で提供されてきた。にんにくの皮をむくひと、チャパティをこねるひと、皿を洗うひと──調理に関わるひとの数は300人。もちろん無償の労働だ。

 街が眠っているうちからはじまるカレー作りは、野菜も豆も、火も水も、なんだって信じられないくらい大量に投入される。
 やがて門がひらき、一杯の豆カレーを求める人々が回廊を牛歩で進む。耳鳴りのような喧騒。一帯を覆い尽くす火とスパイスの圧倒的な匂い。うんざりするほどのひと、ひと、ひと!
 カレーはありがたく、しかし泰然と受け取られ、満たされたひとは去る。皿は洗われ、床は掃除され、長い一日が粛々と仕舞われてゆく。
 作るひとと食べるひとが、大きなうねりとなってただそこにいる。資本主義や社会保障という言葉で語れば矛盾だらけの伝統が、“分かち合う”──この一点の教義のために続いてきたのだ。

 シク教には、奉仕を意味し「世話」の語源でもあるセーヴァーという教義もある。私ができるだけおいしいものを作りたいと思う心も、まさにセーヴァーだ。

 朝、出がけに子どもが言う。
「夜はカレーが食べたい」
 カレーか、いいねえ。でも困ったなあ、とも思う。そういう日にかぎって飴色玉ねぎを作る余裕がなかったりするからだ。

 フルタイムで働いてきた私は、カレーでもなんでも、レシピの聖典をいちどは疑ってかからなければ保もたなかった。
 例えば、レシピ中の「玉ねぎを飴色になるまで炒める」の文。一時間かけて飴色に変化した玉ねぎの深い味わいは、私だってよく知っている。でも、毎日のごはん作りはもっと気楽に裏道を運転してはだめだろうか。

 あるとき、火にかけた玉ねぎのことを忘れ、うっかり煮崩れさせてしまったことがあった。
 食べてみると、ぽってりと舌にまとわりついて甘い。これだってじゅうぶんすぎるくらい、おいしいじゃないか──そう思った私は、飴色の呪縛を手放した。
 ほかにも「ひと晩寝かせたほうがおいしい」や「子どもには甘口を」など、カレーについてまわる常識はたくさんある。
 でも、私がおいしいと感じるのは出来たてのカレーだ。スパイスとハーブの香りが立ちのぼり、鼻腔を全開にして吸い込みたくなる。それに、甘さを照準にするより、大人も子どもも満足できる旨い辛さを見つけてみたい。
 そう思ってひとりカレー開発部門を担ってきた。あぁでもない、こうでもないを繰り返し、挽き肉とニラのカレーがいつの間にかうちの定番になった。

 こだわりといえば、30分で作れるレシピであること。
 にんにくとクミンシードを油でよく炒め、合挽肉に「S&B」の通称“赤缶”でしっかり味をつけ旨みの土台とする。赤缶はスパイスのバランスが欠点なく調和していて、飽きがこない。
 玉ねぎとじゃがいもを加えて炒めたら、水を加えてふたをする。20分煮てとろとろになった野菜は、泡立て器を使って潰してしまう。玉ねぎは角をなくし、じゃがいもはとろみとなって溶け込む。
 下味をつけるのはウスターソースとケチャップ。便利な旨みはなんだって活用する。そして二度目の赤缶を味を見ながらひとさじ、またひとさじ、足していく。
 最後に加えるのはニラと生姜。香り高いこの和の食材を、カレーに使わない手はない。五分弱火で煮たら、できたてを食卓へ運ぶ。
 ここまで、きっかり30分。
 ひと口ほお張れば、すべての具が均一に放り込まれる。リクエストされても焦る必要のない、大人も子どもも大好きなカレーライスである。

 満たされているのは、食べるひとよりも、奉仕するひとたちのほうではないか──。
 弾かれたようにこう気が付いたのは、映画を観終わってからしばらく経ち、八百屋のレジに並んでいるときだった。
 ハリマンディル・サーヒブで奉仕していた人々は、ちっともシリアスじゃなくて、遊んでいるようにすら見えた。私にも、買い出しからはじまる料理の一連が面白くてたまらないときがある。

 レシピにはすみずみまで動機や理屈があり、そのひとが五感を使って歩いてきた道そのものだと思う。
 どう作っても自由だからこそ、自分の味にたどり着き、それを大切なひとと分かち合えたとき、めいっぱい夏遊びをした夕暮れのような充足感が作り手を包む。

うちのカレー レシピ

▶材料(4皿ぶん)
・合挽肉(牛と豚) 200g
・玉ねぎ 1個
・じゃがいも 2個
・ニラ 1束
・塩、胡椒 
・油 大さじ1
・クミンシード 小さじ1
・にんにく(みじん切り) 好みの量
・生姜(すりおろし)好みの量
・水 適量
・ウスターソース 大さじ1弱
・ケチャップ 大さじ1弱
・スパイスミックス(S&Bの赤缶を使用) 小さじ5〜6
・ごはん
・卵 4個

▶作り方
玉ねぎとじゃがいもは一口大に切る。フライパンに油、クミンシード、にんにくを熱し、香りが立ったら合挽肉を加える。塩と胡椒、スパイスミックス(小さじ2)を振りかけて炒める。これが旨みの土台になるので、焼き色がつくまでじっくり中火で炒めること。
玉ねぎとじゃがいもを加えてさらに炒め、全体に油が馴染んでしんなりしたら、水を加えてふたをする。水の量は具材の頭が少しだけ水面から出るくらい。20分煮たら、泡立て器やスプーンなどで野菜をつぶす。水分が少なくなっていれば足す。
ウスターソース、ケチャップ、スパイスミックス(小さじ3〜4)を加えて味を調え、刻んだニラと生姜を入れて5分煮る。味見して物足りなければ、塩とスパイスミックスを少しずつ足して様子を見る。ごはんにかけ、半熟ゆで卵を添える。

▶半熟ゆで卵の作り方
鍋に水を入れて火にかけ、沸いてから卵をやさしく入れる。卵は冷蔵庫から出してすぐの状態で構わない。6分40秒茹でて、氷水に引き上げる。身がぎゅっと引き締まり、殻がきれいにむける。1〜2分待って粗熱が取れてから、殻をむく。

▶心がけ
・クミンシード以外に、他の好みのホールスパイスを使ってもいい。
・合挽肉はしっかり火を通す。鍋を横目で監視しつつ野菜を切れば、時間の節約になる。
・S&Bの赤缶は小さなサイズを買って、使い切ってはまた新鮮なものを買う。
・20分煮る間に、半熟ゆで卵を用意する。卵とニラの相性の良さは説明不要だろう。

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