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老舗カフェオーナーの嘆き。「若者はもうカフェを必要としてない」は本当か? ブームの20年間を考察する

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利用者の変化

 カフェが変化の時期を迎えています。そう思わせる言葉を何軒ものカフェオーナーから立て続けに聞きました。とりわけ決定的だったのは、

「いまの若い人はもうカフェなんて必要としていない」

というひとこと。それを口にしたのが、30年以上に渡って人気カフェを営んできたオーナーだというのも驚きです。本記事では、その言葉が指す状況を考えてみたいと思います。

カフェとその空間のイメージ(画像:写真AC)

 冒頭のカフェは開業から30年以上経過した現在もなお人気を維持し、満席状態が続いています。新陳代謝の早い飲食業界においては奇跡のような光景です。しかし、お客の大半は30代以上の人々で、10代の姿はあまり見かけません。カフェは常連客とともに歳をとるものゆえ、新規に若いお客が入ってこなければ平均年齢は上がっていきます。

 そのカフェのメニューには、「写真撮影はご遠慮ください」という小さな注意書きが添えられています。注意書きを明示すると、“てきめんに若い人が来なくなる”というのはよく聞く話で、ルールの設定と掲示は、お店にとっては苦渋の決断であるに違いありません。ですが、それでも禁止事項を掲げなければならない背景があります。「不文律の消滅」です。

 住宅街の小さなカフェのオーナーが嘆きます。店内をくまなく歩き回って写真撮影をする青年にやんわり注意を促したところ、「撮影禁止ってどこに書いてあるんですか?」と聞き返されたのだと。

「ルールを入口に貼り出せば反発されたり冷笑されたりするし、書かずに口頭でお願いすると、どこに書いてあるのかと問われてしまう。いったいどうしたらいいんでしょう?」

とオーナーは頭を抱えます。

カフェ自身の変化

カフェ自身の変化

 カフェ自身には解決の難しい課題です。飲食店では同じ空間を共有する人々が互いに快適に過ごせるよう意識すること――利用者がそのシンプルな不文律さえわきまえていれば、お店もお客もそう悩まなくてすむはずなのですが。責任の一端は、若い世代に飲食店でのふるまいかたを伝えられなかった先輩世代にもあります。

カフェとその空間のイメージ(画像:写真AC)

 お店とお客との信頼関係が大きく揺らいでいる現在、ときにお店の人に叱られながら飲食店でのふるまいかたを学んでいくという、ある面での社会的成熟のしかたは、もはや過去のものなのでしょうか?

「10年前のカフェ好きの人たちは、お店をもっと大事にしてくれました」

と、ある店主は言います。飲食店への最低限の敬意が失われれば、「写真も撮れないカフェでお店の人に注意を受けるくらいなら、自宅で気ままに過ごすほうがまし」という心情に傾いていくのかもしれません。

 カフェ自身もこの20年の間に変化していきました。行き場のない人、何かにはぐれている人が、とりあえず座ってみるような場所ではなくなってきたのです。

人に「居場所を提供する」ということ

人に「居場所を提供する」ということ

 カフェは専門店化しました。カフェ文化の浸透と店舗数の増加にともない、変化の速い街角で営業を続けていくには他店との差別化が必要になったからです。コーヒーに特化し、高品質のコーヒーを焙煎、販売するロースタリーカフェ。評判の菓子職人が開くスイーツ専門のカフェ。テーマ性が高ければメディアに取り上げられる機会も多く、話題になりやすいのです。

 その一方で、空間の魅力、飲食物のクオリティ、接客という三要素を高いレベルでバランスよく整えることに重きをおいて、あえてどれかひとつを突出させないよう心を砕いているカフェがあります。それらのお店は「カフェという場所で過ごす時間をまるごと」楽しんでほしいと考えており、人に居場所を提供しています。

カフェとその空間のイメージ(画像:写真AC)

 居場所であることを重視するタイプのお店を「純カフェ」と呼んでみようと思います。かつて喫茶店が、お酒と女給さんのセクシーなサービスを提供するお店と、清く正しくコーヒーのみを提供する自店とを区別するために「純喫茶」と名乗ったように。

 電源。Wi-Fi環境。子どもが遊べるスペース。団体席。個室。万人のリクエストに応じるコンビニのような存在を目指してはいないゆえ、純カフェには、ないものはありません。至高のコーヒーや唯一無二の極上スイーツのかわりに、ほどよくおいしい日常のコーヒーとスイーツがあります。(余談ですが、ネット上の形容詞はどんどんインフレを起こし、言葉がいくらあっても足りなくなっています)そして、気がつけば純カフェは減少しつつあるのです。

「純カフェ」での過ごしかた

「純カフェ」での過ごしかた

 純カフェで時間を過ごすとはどういうことでしょうか。それは決して大げさなことではありません。コーヒーを飲みながら本を読む。友人やお店の人と話す。あるいはただぼんやりと窓の外を眺めて、季節の変化に気がつく。もしくは単なるひまつぶし。そんななんでもない日常の余白の味わいを感じることです。

 ときには、黙々とコーヒーを淹れている店主の姿を見て、自分も地道に良い仕事をしていこうと、ささやかな勇気をもらうこと。生活圏の人間関係の中に自分の場所をみつけられない人が、カフェに自分の椅子をみつけること。そこから思いがけない人やものとの出会いが生まれることも多い。家にいては決して出会うことのない他人の体温、同じ場所を大事にしているというゆるやかな共感が、純カフェには必ずあるのです。

カフェとその空間のイメージ(画像:写真AC)

 お店を出ていくときは、入ったときよりも確実に気分が向上しています。それが純カフェの存在意義なのですが、困ったことにその魅力は可視化できず、数値化もできないので、「良さを知っている人はよく知っているんだけど……」ということになりがちです。

 そんな場所、本当は年齢を問わず誰にとっても身近にあったら嬉しいものではないでしょうか。若い人がもはや純カフェを必要としていないと思われる理由のひとつは、みなスマートフォンで時間をつぶすことが上手になったおかげで、「無駄な余白の時間」の価値が見えにくくなったせいなのだと思います。

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