鹿児島県で今秋、開催される予定だった国民体育大会(国体)が新型コロナウイルスの影響で延期となり、日程が決まらない状態が続いています。2021年は三重県で開催することが決定しており、2022年以降も開催県が決定、もしくは内定しているため、東京五輪と違って「1年延期」と単純には言えないためです。
ところで、国体といえば、天皇杯(男女総合優勝)・皇后杯(女子総合優勝)を毎年のように開催県が獲得するなど疑問点もあります。国体の意義や疑問点について、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学准教授の江頭満正さんに聞きました。
強化に費用や人材投入…各県渡り歩く選手も
Q.国体はそもそも、どういう趣旨で始まったものでしょうか。
江頭さん「戦前、オリンピックを日本に招致するために、日本国内でスポーツが盛んに行われていることが重要でした。そのような目的から、1924年に『明治神宮競技大会』が開催され、途中、名称を変えながら1943年まで続きました。
その流れを受けて、第2次世界大戦後の1946年、第1回国民体育大会が行われました。1940年に開催予定だった東京五輪は戦争のため幻に終わりましたが戦後、毎年、日本で国民体育大会が開催されていることは1964年の東京五輪招致に際し、国際オリンピック委員会(IOC)に対する、いい説得材料になったと考えられます」
Q.都道府県持ち回りで開催する意味は。
江頭さん「国体を開催するには、設備の整った競技場が必要になります。各都道府県は競技会場の整備促進を目的として設置される補助制度を使い、スポーツ施設を建設・整備してきました。国体は『スポーツ基本法』の中で、公益財団法人日本スポーツ協会と国、開催地の都道府県が共同して開催するもので、国が支援することが明記してあります。
国体が47都道府県すべてで開催されることによって、各都道府県に大規模なスポーツ施設が整備されました。経済効果も大きく、例えば、2015年の和歌山国体の経済波及効果は全国障害者スポーツ大会と合わせて、全体で641億円との試算があります。
このように、国体は終戦直後から、日本全体のスポーツ施設の充実、開催中の集客効果、スポーツ競技力の向上、さまざまな競技の普及・発展に貢献してきました」
Q.男女総合優勝(天皇杯)や女子総合優勝(皇后杯)をなぜ、開催県が毎年のように獲得するのでしょうか。
江頭さん「開催地では、開催の数年前から、競技力の向上、選手の拡充などが実施されています。『選手の拡充』の中には、地元出身ではない有力選手を県職員や教員として採用し、『地元選手』として出場させる事例もあります。また、開催県は予選の結果にかかわらず、優先的に出場できるという有利さもあります。開催する都道府県の協会の『メンツ』がかかっていることも要因の一つに考えられます」
Q.一方で、開催の翌年からは、どんどん順位を落とすケースも多いようです。「地元選手」として出場した他県出身選手が次の開催県や、さらにその先の開催県に移ることも指摘されています。
江頭さん「大会終了後、開催地の競技力が落ちていく最大の理由は、強化にかける費用や人材が削減されるからでしょう。
スポーツマンシップの視点で考えれば、各県を次々に渡り歩く選手の存在は好ましくありません。県内に優秀な選手がいても、県外から、さらに優秀な選手を短期間雇用してきて出場させた場合、“県代表ギリギリ”の選手が国体に出場できなくなる可能性があるからです。県の『メンツ』によって、選手が犠牲になるわけです。
一方で、プロ化されていないアマチュア選手が活動を続けていく上で、国体による雇用は非常に重要な役割を果たしています。オリンピック種目でプロ化されている競技はわずかで、多くのトップ選手はアマチュアとして生計を立てています。日本を代表するアスリートを国民全体で支える(税金で支える)ことは、間違いとは言い切れません。
開催地のメンツを守るための一時雇用は不適切ですが、都道府県が一定期間、優秀なアスリートを支援することは批判できません。
オリンピックでは国籍取得後、原則3年間経過しないと出場できず、書類上だけの国籍になっていないか確認する制度が整っています。国体もオリンピックのように、在籍年を制限するルールが必要と思われます。例えば、県職員としての雇用期間を5年以上とし、国体には在籍3年以上経過しないと出場できない、といったルールが考えられるかもしれません」
Q.2巡目に入った国体は、どれほど意味があるのでしょうか。
江頭さん「47都道府県の2巡目ですので、前回の国体開催時に建設されたスタジアムや施設は老朽化が進んでいます。耐震基準も変わっているので、2回目の国際国体開催時に再び助成金を受けて、スポーツ施設の改修を行うことは意味があると思います。経済波及効果も、観光資源の乏しい県にとっては重要と思われます」
延期の鹿児島国体はどうする?
Q.鹿児島県の延期日程が決まらない状態が続いています。来年以降の開催が想定されていますが、もし早期開催を目指すとすれば。
江頭さん「国民体育大会の開催目的は2つです。1つ目は、2020年におけるスポーツ競技者の日本一を決めること。もう一つは、開催地である鹿児島県の経済波及効果、およびスポーツ施設の整備拡充です。
残念ながら、新型コロナウイルスの影響で、日本中から多くの観客とスポーツ競技者を集めることは現実的ではありません。一つの解決策として、日程を分散して行う方法が考えられます。例えば、陸上競技だけを1週間開催、その次の週に柔道だけを1週間開催…といった分散開催です。
競技者にとっては、日本一を決める大会が維持でき、宿泊施設や交通機関の渋滞も減るので、感染の危険性も下がるのではないでしょうか。観客もソーシャルディスタンスを守った少人数、もしくは無観客での開催として、テレビ放送を中心とした大会開催に切り替える方法です。
2020年の国体が開催されないことによって、自分のピークであるタイミングを逃し、日本一になるチャンスを失ってしまう競技者も存在するはずです。新しい取り組みとして、アスリートファーストで、2020年の日本一を決める大会を期待します」
Q.2023年の開催(名称は「国民スポーツ大会」に変更予定)が内定している佐賀県に対し、鹿児島県側が協力を要請し、「23年鹿児島、24年佐賀」という案も浮上しています。
江頭さん「すべての競技を同時に開催するのは、確かに理想的ではあります。水泳の競技者と陸上の競技者が国体で顔を合わせ、親交を深める。相互の練習方法や精神的な心構えなどを学び合う、といった効果が期待できるからです。
ただし、アスリートのことを考えれば、早期開催が理想です。分散開催によって、2020年の日本一を決める大会を行うことが望ましいと個人的には思います」
オトナンサー編集部