海上自衛隊の自衛艦には各々「艦長専用車」が用意されているようです。とはいっても黒塗りセダンではありません。この「艦長専用車」はモノによっては折り畳み可能で、船に積まれて海外に行くこともあるようです。
護衛艦に載せて海外にも行く「便利なアシ車」
海上自衛隊と聞くと、一般的には護衛艦や潜水艦の印象が強いでしょう。しかし、ヘリコプターや哨戒機といった航空機だけでなく、陸上での各種支援用に様々な車両を運用しています。
海上自衛隊で使用される黒塗りの乗用車(柘植優介撮影)。
なかでも、ほとんどの艦艇に積載されている、「艦乗り(自衛艦乗りの略称)」とは切っても切れない車両をご存知でしょうか。車、それともバイク? いいえ、それは自転車です。自衛隊には、メインではないけれど「これがないと困る」といった地味なマストアイテムがいくつもあるのですが、自転車もそのうちの1つと言ってよい存在です。
艦艇の見学などで岸壁に行った際、何台かの自転車が傍らに並んでいるのを見かけることがあります。海上自衛隊は基地内の岸壁と総監部などの建物が離れていることが多いため、自転車は時短の要。真夏の照りつける日差しの中でアスファルトの岸壁を歩く辛さもこれさえあれば快適というわけです。
寄港先で颯爽と自転車に乗り換えて用事を済ますなんて、まさしく「(フネと)チャリで来た」でしょう。ちなみにアクティブなイメージのある自衛隊ですが、特にロードレーサーやクロスバイクというわけではなく、年季の入ったママチャリ(軽快車)です。
最も遠い門どうしは電車が走れるほど
じつはこの自転車、艦長だけは「専用車」があります。いつ緊急の用事があるかわからない艦長は移動手段も常に最速がマスト。岸壁に停めてある自転車をよく観察すると、テプラなどで「艦長」や「〇〇(艦艇名)艦長車」などの記載がされており、ちょっとゆる可愛いのもポイントです。艦長専用車と聞くと、黒塗りの高級車を思い浮かべそうですが、まさかの自転車でした。
岸壁に停められた自転車とリヤカー。泥除けには海上自衛隊所属を示す、錨と桜を組み合わせたマークが貼られている(柘植優介撮影)。
例えば海上自衛隊の主要基地のひとつである横須賀地方総監部でいうと、最も離れた入り口どうしは、じつに1駅分ほどの距離があります。近くには関連施設も点在しているので、そういったときに小回りの効く自転車をあらかじめ用意しておくというのは、スマートな海自らしいのかもしれません。
余談ですが、よく格納庫にある折りたたみリヤカー。これも地味に気になるところですが、海上自衛官である夫、やこさんいわくリヤカーも大事な車両の一種とのこと。護衛艦のなかでは第1分隊と呼ばれる部署が管理していて、岸壁からゴミ捨てに行くときの必須装備だそうです。
地味ながらも実用性ピカイチのレア装備、見学の際にぜひチェックしてみてください。ひょっとしたら、意外な艦名が記された自転車に遭遇するかもしれません。