NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が1月19日に始まります。予定より2週遅れてのスタートとなった原因は、帰蝶(濃姫)役が、沢尻エリカさんから川口春奈さんに交代したこと。これが大ニュースになったため勘違いした人もいるようですが、ヒロインを演じるのは、門脇麦さんです。
門脇さんは、12月15日放送の特番「大河ドラマで探る 明智光秀」に出演者代表として登場し、華を添えました。主人公・明智光秀の運命を左右する戦災孤児の娘・駒を演じるにあたり、「オリジナルのキャラクターなので、光秀を自由に切り取れる視点だと思う」などと語っていたものです。また、劇中での二人の仲については、
「今の段階では(駒の)片思い、絶賛片思い中です」
と、今どきっぽい表現も。ただ、彼女の持ち味はその落ち着いた雰囲気です。こうしたアカデミックな特番もしっくり似合っていました。大河でも、いぶし銀のような演技を見せてくれることでしょう。
それは、出世作というべきNHK連続テレビ小説「まれ」(2015年)でも同じでした。彼女はヒロインの同級生で、その弟と結婚する役。地元の農協に就職して“融資の鬼”と呼ばれます。パティシエという夢を追ってあちこち動き回るヒロインを見守るポジションとして、脇を見事に固めていました。
「まれ」は6人の成長描く群像劇
その「まれ」でヒロインを務めたのが、土屋太鳳さんです。こちらは、この作品で一気にブレークしました。
人気漫画や小説を実写化したドラマや映画で次々とヒロインを演じたのはもとより、「オールスター感謝祭」(TBS系)の「赤坂5丁目ミニマラソン」や、「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)の「ゴチになります! 20」といったバラエティーでも活躍。「NHK紅白歌合戦」には2014年から3年連続でゲスト出演し、郷ひろみさんの隣でコンテンポラリーダンスを踊ったりもしました。
昨年暮れには、「輝く! 日本レコード大賞」(TBS系)のサブ司会を2年連続で担当。その放送を見ながら、ふとチャンネルを変えたところ、「有吉ゼミ」(日本テレビ系)に渡辺大知さんが出演していて、ちょっとうれしくなったものです。
というのも、渡辺さんもまた「まれ」でヒロインの同級生を演じた一人。ロックバンド・黒猫チェルシーのボーカルでもあることを生かした、音楽でプロになる役でした。
実は「まれ」というドラマは、ヒロインを含めた同級生6人の成長を描く群像劇でもあったのです。演じた顔ぶれは、土屋さんとともにブレークした山崎賢人さんをはじめ、なかなかのものでした。
それ故、このようにして同じ時間帯に別のチャンネルで見かけるようなことがもっとありそうなものですが、今はそうでもありません。6人中2人が欠けてしまったからです。
一人は高畑裕太さん。三枚目もできる体育会系、やんちゃ系のキャラとして重宝がられる存在でしたが、2016年に不祥事で活動を休止。もう一人は清水富美加さんで、明るさともろさを併せ持つキャラで主演クラスに進化していましたが、2017年に宗教活動を優先する道を選びました。
こうした事情から、「まれ」は今後しばらく、再放送の可能性も低いといえます。不運な朝ドラでもあるのです。
「朝ドラ女優」「大河女優」としての共演
そんな中、今年は土屋さんと山崎さんがドラマ「今際の国のアリス」(Netflix)にW主演します。「まれ」では同級生から夫婦になった他、何度も共演している名コンビの復活です。
そして、門脇さんは大河です。代表作になりそうですが、時の人として大騒ぎされるようなことにはつながらないかもしれません。というのも、彼女はその生活ぶりがあまり話題にならないタイプなのです。
例えば、彼女は2015年に急性喉頭蓋炎で緊急入院したことがあり、その2年後、こんな告白をしました。
「病院に行ったら、『このままじゃ死んじゃうから、大学病院に行ってください』と言われて。鼻から管を通して1週間入院」(BuzzFeed)
その結果、「一度きりの人生なのだから、毎日楽しくやらなければ、もったいない」と思うようになったそうですが、これはファン以外、あまり知られていないことでしょう。彼女の場合、世間の興味はその演技や作品に特化されているかのようです。
一方、対照的なのが土屋さんです。こちらは演技や作品以外の“キャラ”まで注目され、物まね芸人にもネタにされています。これはCMでもおなじみの独特の口調や振る舞いが、一つのスタイルとして貫かれているからでしょう。その分、世間の好悪も分かれるところですが、どんな役も自分の色にする強烈な存在感があります。
その点、門脇さんには特に決まったスタイルはありません。「まれ」の前年に公開されたR18指定映画「愛の渦」では、「地味で真面目そうな容姿ながら、誰よりも性欲が強い女子大生」を体当たりで演じたように、どんな役にも自在に染まれるタイプです。
プライベートも割と静的かと思いきや、アウトドア系で釣りが趣味だったりします。運動神経も良く、本格的にクラシックバレエをしていました。
そんな二人は「まれ」の翌年にも2度共演。しかし、次にその機会があるとすれば、朝ドラ女優と大河女優としての共演になります。そこでは、ただの再会にとどまらない、新たな化学変化が見られそうです。その前にまずは「麒麟がくる」「今際の国のアリス」の二人を楽しみにするとしましょう。
作家・芸能評論家 宝泉薫