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第31回  かゆみが消えた! 皮膚の清潔と母を風呂に入れる話

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第31回  かゆみが消えた! 皮膚の清潔と母を風呂に入れる話

第31回  かゆみが消えた! 皮膚の清潔と母を風呂に入れる話

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」

介護のうしろから「がん」が来た! 第31回

 再建手術から一週間目の診察の後、上半身のシャワーも解禁となった。
 
 洗顔ネットで石けんを泡立て、テーピングした上から掌てのひらで泡をふわふわ転がすようにして洗ってやると、あら不思議……かゆみが消えた。
 接着剤によるかぶれも確かにあるのだろうが、皮膚から出た汗や脂が刺激となってかゆみを引き起こしていたようだ。
 肌の清潔ってずいぶん大切なことなのだ、とあらためて思い知らされる。
 それまでも不潔にしていたという自覚はない。蒸しタオルで頻繁に拭いていたのだが、シャワーのようなわけにはいかなかったのだろう。
 こうしてみると病院にシャワー室が設けられ、傷口の状態や体力の回復具合を見極めて、比較的早いうちから清拭せいしきをやめてシャワーに切り替えるのは、理にかなったことなのだろうと思う。

 考えてみれば母もよく皮膚のかゆみを訴えていた。ときおりかきむしって傷にしてしまい、自分でバンドエイドを貼っているのが痛々しかったが……。
 老化によって肌の水分や油分の分泌が減って皮膚が乾燥する老人性乾皮症も確かにあったのだが、今にして思えば、認知症特有の症状から頑強に入浴やシャワーを拒否していたのも一因、というより主因だったのだろう。
 無理強いすれば怒り出すので、母が我が家にいる昼間には、風呂を沸かしては無駄に冷ます、の繰り返しだった。

 風呂嫌い、特に洗髪嫌いは、認知症のごく初期から現れるようで、最初に親や義母の異変に気づいたのは、一緒に温泉に行ったとき、という方も多い。
 以前読んだ新聞記事によれば、そんなときに無理強いは禁物だそうで、さる在宅介護の認知症の女性は半年間、風呂に入らなかったが、ある日、気が向いたらしく、自分からすっ、と入ってくれたそうで、つまり本人の気持ちに寄り添い根気良く待っていればいいんだよ、という内容だった。
 が、よくまあ、皮膚炎を起こさなかったなぁ、と感心すると同時に、たまに相談に乗る専門家の方はそれで済むけれど、家族はその臭気にどうやって耐えたんだろう、などと、余計なことを考えてしまった。

「風邪気味で喉が痛い」
「こんな寒い日にお風呂入ったら湯冷めする」「体調が悪いから風呂なんか入ったら脳溢血を起こす」
 認知症を甘く見てはいけない。母が口にする理由はどれも筋が通っている。
「一生、お風呂なんか入らない国の人たちだっているんだ」というものまであって、そりゃまあ、標高四千メートルくらいの極端に湿度の低い寒冷地では、たまに体を拭くくらいで、バターを塗った髪を洗うこともない方々もいますが……。

 
 だが、ここは温暖で湿潤な日本。二週間も風呂に入らないと母の脛すねの皮膚はウロコ状になってくるし、全身から芳かぐわしいにおいが立ち上り始める。本人がその気になるまで、などと悠長に構えてはいられず、遂に「今日という今日は」と私も決意する。
 
 夏場なら窓を閉め切り、冬場なら室温を上げ、「暑い、暑い」と座敷で母が服を脱ぎ始め、耐えきれず半裸になったところで、調子の良いことを口にしながら、畳の上で丸裸にして、風呂場に誘導。
 本人は風呂に入る手順など忘れているし、何より面倒くさいのでかけ湯さえしないが、裸で浴室に入れば、自分からバスタブに片足を突っ込み、ざんぶりと体を湯に沈める。
 人に風呂の入り方を指示されたり、ましてや体を洗われるなど、本人的にはとんでもないことなので、お湯の温度をあらかじめ低くしておき、湯に浸かった母をそのまま放置する。

 その間に座敷に脱ぎ散らかした衣服を集めて洗濯済みのものに取り替える。風呂も嫌いだが、着替えも拒否するので、入浴中が唯一のチャンスだ。ただし取り替えられたことがわかると「私の着ていたものをどうした?」と怒り出すので、さきほど脱ぎ散らかした形の通り、洗濯済みのものを散らかして置く。風呂から上がってきた本人は衣服がすり替えられたことに気づかず自分で身につける、という寸法だ。

 衣服を用意し終わったところで風呂場を覗き、無事を確認する。本人は鼻歌など歌いながら、ご機嫌でバスタブに浸かっているか、気が向くと石けんで体を洗っていることもある。
 ときおり冷たい水や水で薄めたジュースを差し入れ、入浴=気持ち良いの条件付けを試みるも、こちらは短期記憶が無くなっているのでほぼ効果なし。
 それでも風呂上がりはやはり気持ち良いらしく、上がってきて取りあえず衣服を身につけると満足げに座敷にごろりと転がる。

 その前に、皮膚から水分が蒸発しないうちにと私が保湿剤を塗ろうとするのだが、そこからまた「嫌だ」「塗らないと後でかゆくなるから」の攻防が始まる。
 風呂上がりはかゆみが一時的に治まる。短期記憶がないから、かゆかったという記憶もない。だから肌に変な保湿剤など塗られるのが不快で拒否するというわけだ。
 
 認知症について、単に記憶がなくなるだけだから、と偉い先生方は口にされるが、短期記憶がなくなるということは、説明して納得してもらうことができないということであり、本人からすればなぜそんなことをしなければならないのか、説明される片端から忘れるからさっぱりわからない、ということでもある。
 だから当人の「今」の気分と「今」の虫の居所を常に見計らい、ケアしなければならない。「入浴なう」「散歩なう」「排泄なう」、本人にとってはすべてが「なう」であって、そのあたりがなかなか面倒だ。

 介護老人保健施設に入って一年以上が経った今、母がかゆみを訴えることはない。手足のひっかき傷もない。いつ面会に行っても、つるつるのきれいな肌をしている。
 週二回、たぶん有無を言わさず、風呂に入れてもらっているせいだろう。だだをこねる年寄りを相手に、どうやって決められた時間帯、決められた時間内に服を脱がせ、体を洗い、新しいものに着せ替えているのか。介護士さんのご苦労がしのばれる。

 次回更新は5/22(水)です。

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