今春は例年以上にテレビ業界の動きが大きく、さまざまなジャンルの新番組がスタートしています。
情報番組では、平日朝の「めざまし8」(フジテレビ系)と「ラヴィット!」(TBS系)が良くも悪くも反響を集め続けていますが、バラエティーの動きはそれ以上に活発。ゴールデン・プライム帯の「オトラクション」(TBS系)、「オオカミ少年」(同)、「新しいカギ」(フジテレビ系)、「人志松本の酒のツマミになる話」(同)に加えて、日曜夕方に明石家さんまさんとマツコ・デラックスさんがコンビを組む「週刊さんまとマツコ」(TBS系)が放送されるなど、話題性の高い番組がそろっています。
しかし、テレビ業界の中でひそかに注目を集めているのは、TBSが手がける日曜昼の新番組2本。今年3月まで放送されていた「噂の!東京マガジン」がBS-TBSに移動して空いた午後1時台に「それSnow Manにやらせてください」「爆笑!ターンテーブル」の30分番組2本をスタートさせたのです。
現在、業界内では「この2本が新番組として放送されることは意義深い」「成功したら、業界の流れを変えるかもしれない」という声が上がっていますが、その理由は何なのでしょうか。
日曜昼は中高年層向けの番組ばかり
「それSnow Manにやらせてください」はジャニーズ事務所のアイドルSnow Manの冠番組であり、「爆笑!ターンテーブル」は芸人たちによる歌ネタ番組。どちらもゴールデン・プライム帯、あるいは、深夜帯、土曜午前あたりに放送されることの多いジャンルだけに、日曜昼という放送時間の意外性に驚かされます。
これまで、日曜昼は前番組の「噂の!東京マガジン」だけでなく、「アッコにおまかせ!」(TBS系)、「なりゆき街道旅」(フジテレビ系)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)、「新婚さんいらっしゃい」(朝日放送・テレビ朝日系)など、中高年層向けの番組が大半を占めていました。
唯一、視聴率レースでトップを独走する日本テレビが「スクール革命!」「千鳥VSかまいたち」「We NiziU!TV」「お笑いG7サミット」などのファミリー層や若年層向け番組を放送していましたが、他局が追随することはなかったのです。
だからこそ、「噂の!東京マガジン」から「それSnow Manにやらせてください」「爆笑!ターンテーブル」に変えて、視聴者層を40歳前後も若返らせた編成に注目が集まるのは当然でしょう。
ただ、初回からの視聴率は「それSnow Manにやらせてください」が個人1.8%、1.6%、2.2%、1.8%、1.7%、世帯3.6%、3.0%、4.2%、3.6%、3.3%。「爆笑!ターンテーブル」が個人1.8%、1.4%、1.7%、1.3%、1.4%、世帯3.6%、2.5%、3.2%、2.6%、2.5%。
ともに「噂の!東京マガジン」の半分程度しか取れていませんが、それでも「失敗」とは言えないのです。今春、TBSは重点ターゲット層を10歳若返らせて、4~49歳に設定し直しました。他局では日本テレビとフジテレビが13~49歳に設定していますが、それよりも若い層を狙っていることが分かるでしょう。だからこそ、アイドルの冠番組とネタ番組が編成されたのです。
広告収入で成功すれば他局も追随か
現在、民放各局はコロナ禍による広告収入減に苦しんでいますし、業績ダウンしたスポンサー企業も多く、出稿先を選ぶ目が厳しくなりました。「より、自社商品のターゲット層にリーチできる番組に出稿したい」というシビアな目で選んでいるだけに、視聴率の高さではなく、「誰が見ているか」が重視されるように変わったのです。
「それSnow Manにやらせてください」「爆笑!ターンテーブル」が視聴率の高低にかかわらず、広告収入の面で成果を収めたら、日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日も追随する可能性はあるでしょう。また、TBS自身も前番組の「アッコにおまかせ!」の処遇を考えるかもしれません。
もともと、日曜昼から午後は中高年層向け番組のほか、将来のレギュラー化を目指したパイロット番組や、ゴールデン・プライム特番のPR番組が放送されることの多い時間帯。そこに、ファンの熱が高いアイドルの冠番組やネタ番組を編成することは、広告収入減に苦しむテレビ局にとって意義深いチャレンジなのです。
TBSはゴールデン・プライム帯のバラエティー視聴率が民放最下位に落ち込む日があり、朝の「あさチャン!」「ラヴィット!」も苦しい結果が続いています。そんな厳しい状況だから、「日曜昼の両番組にかかる期待が大きくなっている」という点もあるでしょう。
若年層をテレビに引きつけるための策としても、両番組は今後も業界内の注目を集めそうです。
コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志